中高生時代の放課後の思い出といえば部活動という方は少なくないだろう。受験が近づいてくると、塾が放課後の思い出という方もいるかもしれない。しかし、近年は放課後に「課外活動」に熱中する中高生が増えている。

これまでも、地域のボランティアなどに参加する中高生は少なくなかった。だが、近年の課外活動は様相が違う。地域活性化に向けたお祭りを中高生たちが企画運営したり、空きスペースの活用事業をしたりと、中高生が主体的、中心的な役割を果たすプロジェクトとなっている。

中には、中高生のうちに株式会社やNPO法人を起業することも決して珍しくない。一部の私立中高は、そのような活動を支援したり、授業に取り入れたりもしている。様々な企業や団体も支援する体制ができている。

「でも、これは東京近郊に限られた話なんです。」

そう話すのは、奈良県在住の高校3年生である谷早帆子さんだ。課外活動に取り組む環境の地域間格差解消に向けて、通っている青楓館高等学院の支援も受け、高校生放課後コミュニティ「アオラボ」を立ち上げた。

2005年生まれ。5歳から12歳をマレーシアとインドネシアで過ごした。

「物心ついたら頃には海外にいました。現地の日本人学校に通っていたのですが、比較的真面目なこどもだったと思います。先生や親の期待に応えたくて、とにかく言われたことをその通りにやることに一所懸命でした。」

中学生の頃に帰国し、関西の私立中学校に通うことになった谷さん。そこで大きなギャップを感じることになる。

「人間関係が怖いと感じました。日本人学校って家族都合で帰国したり他の国へ行ったりと、毎年人が入れ替わるので人間関係が流動的でした。でも、日本の中学校は人間関係が固定化されていました。いわゆるグループですよね。いかに嫌われないように生きるかばかりを考える生活になりました。」

目立たないように周りに合わせて行動していた日々。周囲からも、真面目な子だね、とよく言われていたという。個性を押し殺していた。

「たぶん、中学校の時の同級生は、私のことを覚えていない人も多いと思います。それくらい印象に残らないようにしていましたから。一方で、個性を発揮できている人に対しての憧れもありましたね。複雑な感情です。」

中高一貫校ということもあり、この生活がずっと続くのかと思うと苦しくなったという。そこで、もともと克服したかった「帰国子女なのに英語が話せないというコンプレックス」もあり、高校1年生の夏から半年間カナダへ留学をした。

カナダ留学中に友人と

「めっちゃ楽しかったですね。素の自分でいることを肯定される環境は衝撃だったし嬉しかったです。日本の学校では、嫌われない、当たり障りのない人であることが正解でした。でも、カナダでは自分の個性を出すことが当たり前でした。仕事を辞めて車の改造に熱中するホストファザー。めちゃくちゃ勉強している子から、ダンス教室ビジネスをやってる子まで多彩な同級生たち。いろんな人がいて当たり前という環境がとってもいいなと思いました。」

「日本ではあり得ませんでしたが、カナダでは同級生とよく将来のことや自分の夢について語り合いました。でも、自分は本当に何も話せませんでした。好きなことも言えなかった。自分には何もないな、とも思いましたが、まずは自分らしくいようと思いました。」

しかし帰国後、学校には居場所がなかった。カナダのように、自分のやりたいことや夢を語れる友人は少なかった。だが、中学生の時と同じように、部活や勉強を真面目にやり、嫌われないように立ち回る生活をまた続ける気にはなれなかった。

「どうしたら自分らしくいられるかと思った時に、学校外の居場所を求めました。最初は地域のボランティア活動に参加して、子どもたちに勉強を教えるなどしました。農家の人と知り合って収穫を手伝うこともありましたね。高校生主体のマルシェを開催したのが特に頑張りました。そんな中でかっこいい大人ともたくさん出会えました。」

谷さんが企画した「パークマーケット」の運営メンバーたち。パークマーケットとは、”奈良の公園を高校生が本気で学んで遊べる場所にする”をモットーに、イベントの出店から運営までを高校生が行っている。

課外活動に熱中する中で、自分らしく生きることを応援してくれる青楓館高等学院という通信制高校と出会い、3年生の夏に転校する決断をした。

「転校した時に、代表の岡内さんから、やりたいことは何かと問われました。正直、本当にやりたいことはよくわかりませんでした。でも、私の居場所だった課外活動に関することならやりたいと思いました。」

「課外活動って、東京では当たり前になりつつありますが、他の地域ではまだまだ珍しい存在です。だから、課外活動をしていても少数派。出会うのは東京の人ばかり。活動を共有したり、切磋琢磨したりできる仲間がいない。イベントなんかも東京ばかり。私も当初はよく夜行バスに乗って東京まで行って参加していました。地方には機会も仲間もない。もどかしく感じていました。そこで、課外活動で切磋琢磨できるコミュニティを作りたいと思いました。」

アオラボ初イベントの様子

そうして、今年の夏に谷さんはアオラボをスタート。最初は10人くらいのメンバーが集まった。まずは、課外活動のきっかけを作りたいということで、青楓館高等学院の教室を利用してイベントを毎月1回開催している。これまでに、関西圏の大学生を招いて話を聞くイベントや、有名Tiktokerを招いたトークイベントなどを実施した。

「起業家を輩出したい、みたいな大きなことを考えているわけではなくて、課外活動のハードルを極限まで下げたいと思っています。そうして、学校以外にも居場所があるということを知ってほしいと思います。部活に行くような感覚で、放課後の1つの過ごし方になればいいですね。部活なら何も言われないのに、課外活動するって言うと、まだまだ周囲に反対されることがあるので、そこも変えていきたいです。」

「今後はイベントに加えて、イベント参加者や課外活動に取り組んでいる高校生たちによるオンラインコミュニティも本格的に動かしていく予定です。そうして、ゆくゆくはアオラボ発のプロジェクトがたくさん生まれていくようになれば嬉しいですね。」

アオラボのInstagramアカウント

放課後とは、自分の好きなことに熱中する時間でもある。それは遊びだったり、勉強だったり様々だ。だが、いつしか子どもたちは、放課後も学校の延長線として塾や家庭での宿題などに追われるようになってしまった。課外活動の普及は、そんな子どもたちが放課後の自由を取り戻そうとしているのかもしれない。

アオラボでは、12月16日に進学校、通信制、海外高校にそれぞれ通う高校生が登壇して、これからの教育を考えるイベント「高校生と共に未来の学校教育を模索する~進学校・通信制・海外高校の角度から~」を開催予定だ。多様な教育を受ける高校生たちが自ら教育について考えるチャレンジングな取り組みである。たしかに専門的な知識は学者などとは劣るかもしれない。だが、高校生自らが考え、意見を表明することに価値があるのではないだろうか。これからの谷さんとアオラボの挑戦が楽しみだ。

次回イベントのチラシ

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