「エナメル上皮腫」とは、歯を形成するエナメル器と呼ばれる組織にできる良性の腫瘍。原因は解明されていないが、下顎に発症することが多く、再発率は高いといわれている。
インスタグラムでエナメル上皮腫について発信するフリーライターのじゃすみんさんは、26歳の頃にこの病気を発症し、左顎を切り取る手術を受けた。自身の経験も踏まえて、早期治療の必要性を訴えている。

顎がプニプニするという違和感を放置して

2020年11月。じゃすみんさんは左顎が、なぜかプニプニしていることに気づく。だが、他に異変がなかったため、放置。すると、約3週間後、プニプニしている部分の真上にある歯がぐらついてきた。

「プニプニしている部分も広がったみたい…」と感じ、歯科でレントゲンを撮ると、エナメル上皮腫である可能性があると言われた。

翌日、紹介された口腔外科を受診したが、「ここでは対処できない。おそらく手術になる」と言われ、帰宅。すると、その日の夜、顎から頭にかけて強い痛みが生じ、顔の左側がパンパンに腫れ上がった。

夜通し痛みに耐えた日

翌日、大病院を受診し、レントゲンを撮影した結果、正式に「エナメル上皮腫」であると告げられた。

「この時は病院にたどり着くのが、やっとでした。初診のため、2時間待っていたら、熱が38.8℃まで上がり、診察室に入った頃には身体中が震え、シバリングを起こしました」

腫瘍が見つかった時のレントゲン写真

医師との相談により、じゃすみんさんは左下顎を切除することに。切除した箇所にはチタンのメッシュプレートを埋め、左右の腰の骨を移植。

「手術は5時間。首の下に15cmほど、左右の腰には5cmほどの手術痕が残り、顎骨の切除によって、左下の中間から奥歯を3本失いました」

チタンプレートを埋め込んだ後のレントゲン写真

術後、集中治療室で目覚めると、噛み合わせがずれないように上下の歯をボルトで固定された状態だった。

「経管栄養のため、鼻からチューブが通っていて呼吸がしづらく、口は開かないので唾液がたまっていきました。呼吸がしにくいことでパニックになりかけていたのに、口が開かず、看護師さんに恐怖を伝えることができなかったことが一番、怖かったです」

飲み物の許可が出たのは、1週間後のこと。術後は口の筋肉を動かすリハビリを頑張った。

「手術は顎の切除と共に周りの神経も切除し、筋肉を骨から剥がすというものだったので、初めは唇をうまく動かせませんでした。だから、『い』と『う』の口の形を交互に繰り返し、口を広げたりすぼめたりする運動を行いました」

こんにゃくゼリーを食べるのにも1時間かかった

リハビリは、15日間の入院期間を終えた後も継続。その結果、口は数か月後、ほぼ元通りに動かせるようになった。

些細な異変を見過ごさず、病気への理解を示す人が増えることを願う

手術から1年半が経った今、じゃすみんさんは定期検診を受けながら、病気と向き合い続けている。

「実は、手術で移植した骨が減ってしまっているので、来年、腰骨を追加する手術を受ける予定です。その骨が定着したら、失った歯のインプラント手術。まだまだ、先は長そうです」

首にある手術傷

歯周病などで歯茎が下がってしまうと、インプラントを入れられない恐れがあるため、自宅では歯磨きに注意。3か月に1回は歯科でクリーニングを受け、口腔内を綺麗に保っている。

「手術した箇所周辺は、麻痺しているかのように感覚がありません。熱いものを食べた時、避難場所になるのは便利ですが(笑) ただ、口から何かがこぼれても感覚がないので、気づくことができません。外食している時にだらしなく見えるかもしれませんが、理解していただけたら嬉しい」

また、神経を切ったことが関係しているらしく、唇が乾燥しているように感じてリップが手放せないそう。

「あと、歯を3本なくしたため、口いっぱいに頬張ると噛むのが大変です。右に寄せて食べるので、慣れない頃は時間がかかっていましたが、今は歯磨き時間が短縮されて、少し楽です(笑) でも、噛む筋肉を均等に使えていないことになるので、数十年経過した時に、左右の顔のバランスが変わらないかが心配ですね」

そう語るじゃすみんさんは自身の経験を踏まえ、歯の周りに違和感を覚えた場合はすぐに病院を受診してほしいと訴える。

「私は3週間放置した結果、腫瘍の浸潤が進んだようです。早めに受診していれば、切除の範囲は狭く、失う歯も少なくて済んだはず。下顎を全て摘出された事例もあるようなので、早期治療をしてほしいです」

差別や心ない視線が向かない社会を願う

また、手術後は表情がうまく作れず、今も下唇が右側に引っ張られることがあるからこそ、同じ病気の人に心ない視線が向かない社会を願っている。

「私は差別されたり、悪口を言われたりすることはありませんが、どんな背景でそうなったのか分からないのに、人と見た目が違うから変という考えを持つ人は少なからずいる。そういった考えがなくなればいいと思います」

今の目標はフリーライターとして自立し、あと数年で還暦を迎える母を3年以内にビジネスクラスでのイギリス旅行に誘い、大好きなハリーポッターの聖地巡礼に連れて行くこと。夢を抱きながら、じゃすみんさんは自身の体験を伝え続けていく。

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