子育て中の日常は、時に予期せぬ出来事に見舞われることがあります。
特に小さなお子さんを連れての公共交通機関での移動は、多くの保護者にとって気を遣う場面の一つでしょう。
今回お話を伺ったのは、40代の会社員である佐々木さん(仮名)です。
娘さんが1歳の頃、電車内で見知らぬ人に助けられた忘れられない体験について、その時の詳しい状況や心境、そして経験がもたらした変化を語っていただきました。
電車内で起きた忘れられない出来事
佐々木さんは、娘さんが1歳だった頃の出来事をこう話し始めました。
「娘がまだ1歳だった頃のことです。ある日、娘をベビーカーに乗せて電車で移動していました。時間帯のせいか、車内は予想以上に混雑していて、私は娘を抱っこしたまま立っていました。」
しばらくすると娘がぐずり始めた時の状況を、佐々木さんは続けます。
「周りの乗客の視線も気になり、なんとかあやそうとするのですが、なかなか泣き止んでくれませんでした。そうこうしているうちに、目的の終点駅が近づいてきたんです。」
「『さあ、降りる準備をしようね』と娘をベビーカーに乗せようとした瞬間、娘が全身で反り返って乗るのを全力で拒否し始めて。そして、火がついたように泣き叫んでしまったのです。」
片手で娘を抱き、荷物も抱え、途方に暮れていたその時の状況を、佐々木さんはこう語ります。
「片手で娘を抱き、もう片方の手は荷物で塞がっていました。ベビーカーも畳めず、周りの乗客は次々と降りていく。『どうしよう、どうしようもない…』。すっかり慌ててしまっていたところに、一人の女性が近づいてきました。」
「するとその女性が、本当にごく自然な感じで『持ちますよ』と声をかけてくださって、私のベビーカーをさっと持って一緒に電車を降りてくれたんです。それだけではありません。泣きじゃくる娘を見るや否や、バッグからアンパンマンのシールを取り出して、『はい、どうぞ』と娘に手渡してくれて。」
「アンパンマンの威力は本当に絶大でした。あれほど泣いていた娘がぴたりと泣き止んで、シールに夢中になっている間に、私は無事に娘をベビーカーに乗せることができたんです。」
「まるで神様だった」と語る、見知らぬ人の親切
見知らぬ女性に助けられた時の心境を、佐々木さんは感慨深げに話します。
「あの時の安堵感と感謝の気持ちは、今でも鮮明に覚えています。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、助けてくださった女性が、本当に神様のように見えました。」
「子どもを連れての電車移動、特に混雑した電車というのは、いつも心身ともに大きな負担を感じていて、ドキドキしながら乗っています。そんな中で、あのような温かい優しさに触れることができて、心底ありがたいと感じました。」
その女性へのお礼については、このように話してくれました。
「『ありがとうございました』という簡単な言葉しか伝えられませんでした。本当はもっともっと感謝の気持ちを伝えたかったです。彼女の行動は、いかにも『助けてあげている』という感じではなく、本当にナチュラルで、そのスマートさにも感動しました。私もいつか、あんな風に自然に手を差し伸べられる人になりたい、と強く思いました。」
「残念ながら、お礼を言っただけで、それ以上の会話をすることはなかったんです。」
子育て世代としての日常的な葛藤
佐々木さんは、自身の経験が子育て中の方にとっては決して他人事ではない状況だと指摘します。
「今回のエピソードのような状況は、子育て中の方なら一度は経験したことがあるのではないでしょうか。」
「もちろん、できる限りすいている時間帯を選んで電車に乗るのが理想だと分かっています。でも、どうしても混雑した電車に乗らなければならない時もあるんですよね。そんな時、一番気がかりなのが『子どもがぐずったらどうしよう』ということです。」
普段の対策についても、佐々木さんは次のように説明します。
「いかにして子どもを落ち着かせるか、常に頭を悩ませています。お気に入りのおもちゃやお菓子、抱っこひもなど、考えられる限りの対策グッズを持ち歩き、万全の態勢で臨むようにはしています。」
経験がもたらした心境の変化と行動
その貴重な体験が、佐々木さんご自身にどのような変化をもたらしたのか、次のように語ってくれました。
「この出来事を通して、私の意識は大きく変わりました。それは、『困っている人がいたら、積極的に手を差し伸べよう』という気持ちが強くなったことです。」
「以前は、『お節介かもしれない』とか『かえって迷惑になるかもしれない』などと頭で考えてしまって、なかなか行動に移せないこともありました。でも今は、まず行動してみることを心がけています。」
「特に、小さなお子さんを連れている方を見かけると、『公共の場で少しでも気を休めてほしいな』という気持ちが自然と湧いてくるようになったんです。」
ほんの少しの勇気が社会を温かくする
佐々木さんのお話からは、子育て中の親御さんが日々直面するかもしれない困難な状況の一端と、そんな時に差し伸べられるほんの少しの親切がいかに大きな救いになるか、ということがひしひしと伝わってきました。
私たちは日々の生活の中で、時に周囲への配慮を忘れがちになることもあるかもしれません。しかし、佐々木さんの体験談は、ほんの少しの勇気と行動が、誰かの心を大きく温め、支える力になることを教えてくれます。