ある朝、突然…「起きられない」自分ではなくなってしまったような感覚に。 その後、自身の小説や映画を出したきっかけとは

ある朝、突然…「起きられない」自分ではなくなってしまったような感覚に。 その後、自身の小説や映画を出したきっかけとは
ある朝、突然起きられなくなった(@ntsu_82さんより提供)

「起立性調節障害」という病気を知っていますか?10代前半の思春期に発症しやすいと言われるこの病気は、立ち上がったときに頭痛、めまい、倦怠感などの症状が出ます。午前に症状が強いため、学校生活に支障をきたすことがあり、不登校やひきこもりになってしまうこともあるのです。

ある日、急に起きられなくなった西山夏実さんは学校に行けず、うつ状態になってしまいました。しかし、小説を書ける友達がいたことから、夏実さんの経験が小説になり、映画制作につながりました。夏実さんは幅広く活躍し、元気になった今は世界を飛び回っています。

夏実さんに、病気との向き合い方や自身の体験が小説や映画となった過程などについて聞きました。

ある朝、突然起きることができない

夏実さんは、クラスの中で一番に学校へ行くような生徒でした。しかし中学2年生のある朝、突然起きることができなくなってしまったのです。それまでまったく兆候はありませんでした。

最初のころは「大丈夫でしょ!」と最初は気持ちの上では元気だった夏実さんですが、体はどんどん自分ではなくなっていくような感覚に。
血圧が極端に低く、朝起きられない、長時間起立していると倒れる、食欲不振、極端な体重低下、動悸、思考力低下、などさまざまな症状が表れ始めました。

起立性調節障害と診断され(@ntsu_82さんより提供)

夏実さんは大好きだった学校に行けなくなり、友達に会えなくなってしまいました。
「まだ未熟な自分の心では耐えられないものがありました…」といいます。そうした症状が続き、だんだんとうつに近い状態になっていきました。

起立性調節障害と診断されてから、夏実さんは人とあまり関われなくなったと話します。それは、毎日学校に休まず行っていたのに行けなくなったこと、家族とも生活リズムが真逆になったことからでした。そのときのことを「言葉にできないような孤独感…」と振り返っていました。

心の叫びを小説にしてくれた友人

「朝、起きられない」「学校に行けない」という夏実さんの心の叫びを小説にしてくれたのは、友人の小田実里さん。2人の出会いは、ある休み時間。小田さんが何かを書いているのを見つけて話しかけたことからでした。

クラスメイトではあったものの、それまで話したことはなかった2人。しかし、夏実さんは小田さんが書いていた文章が響き、この人しかいないと感じて、ある日突然「本書いてよ、と言いました」と笑いながら話します。さらに「承諾してくれた小田は、本当に面白い人だと思います」と。

夏実さんと小田実里さん(@ntsu_82さんより提供)

『今日も明日も負け犬。』

夏実さんのお願いは300ページもの原稿となり『今日も明日も負け犬。』として、自費出版されました。その昨年、幻冬舎の社長に見つけていただき、小田さんの小説は幻冬舎から出版されることに。デビュー作が『今日も明日も負け犬。』になったことに、夏実さんは「書店に置かれているのを見てとても不思議な気持ちです」と語ります。

『今日も明日も負け犬。』(@ntsu_82さんより提供)

小説にはたくさんの共感「もっと広めてほしい」という声が多く寄せられました。そこでもっと広めたいという思いと、当時はコロナ禍で休校になり時間があったため、今しかないと考えた夏実さんは、小説を映画化することにしたのです。

映画制作へ(@ntsu_82さんより提供)

完成した映画は多くの反響があり「シンプルに届いて嬉しかったです」と夏実さん。また、数年間学校に行けていなかった女の子が映画館に見にきてくれて「次の日から学校に頑張っていけるようになったよ、と連絡くれたのは特に嬉しかったです」と話してくれました。

人の琴線に触れるような作品を残せる人でい続けたい

現在、さまざまな活動をしている夏実さん。病気との向き合い方は大きく変わりました。

病気ではなくアレルギーという捉え方に変え、それからは「共に生きていこうと、ようやく納得できた気がします」と。治すというプレッシャーから解放されて、今日は起きられた、今日は調子がいい、というように今日という単位で向き合えるようになったのです。

映画監督、クリエーター、写真家などと幅広く活動している夏実さんですが、もともとは、MV監督になりたかったといいます。そこで「今後はアーティストにまつわる映像を中心に、国内外で幅広く活動していきます」と。

MV監督に挑戦する夏実さん(@ntsu_82さんより提供)

また講演会などもときどき行い、2025年5月10日には原宿で初の写真展が開催されます。幅広い活動をしている夏実さんですが、目標として一つブレないのは「人の琴線に触れるような作品を残せる人でい続けたい」ことです。

店頭に並んだ本(@ntsu_82さんより提供)

夏実さんの経験を、小田実里さんが16歳で書いた小説『今日も明日も負け犬。』は重版が決まりました。
「長く、長く、誰かを救う小説作品になりますように」という夏実さんの思いも込められた小田さんの小説。

夏実さんのSNSには、起立性調節障害と診断された方やご家族から「すごい!素晴らしい」「この本のおかげで娘の不調を理解できました」など、たくさんのコメントが寄せられていました。小説、そして映画はたくさんの人の励ましとなり、力となっていることが伝わります。夏実さんと小田さんの出会いは偶然ではなく、必然だったようです。

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