「足の力が抜ける」夕食の準備中、急な体調の違和感。 翌日、病院に行った結果…判明した病とは。 バルーンアーティストとして働く女性に迫る

「足の力が抜ける」夕食の準備中、急な体調の違和感。 翌日、病院に行った結果…判明した病とは。 バルーンアーティストとして働く女性に迫る
神宮エミさん(@emijinguさんより提供)

もやもや病という病気を知っていますか?可愛い名前とは裏腹に、進行性の難病でその原因は不明という、もやもや病。その難病を抱えながらも、バルーンデザイナー&アーティストとして活躍している、神宮エミさんという一人の女性がいます。

神宮さんの作品には、病気の様子をバルーンにして表現したものもあります。今回は、もやもや病との付き合い方や、病気をバルーンで表すことによって伝えたいことなどを聞いてみました。

もやもや病と診断され…

2020年4月末ごろ、夕食の準備をしていたときのこと、神宮さんは数分だけろれつが回らなくなり、足の力が抜けて立てなくなります。その日はすぐに回復しましたが、翌日、前日の症状が気になり、病院に行ったところ脳梗塞が見つかったのです。

神宮さんは、2019年くらいから手の痺れは感じていたのですが、バルーンデザイナー&アーティストという手を使う仕事をしていたので「腱鞘炎かな…」くらいにしか思わなかったとそのときのことを振り返ります。

神宮エミさん(@emijinguさんより提供)

脳梗塞が見つかったときは、海外のコレクションにもっと出していきたいと積極的に動こうと思っていた時期でした。また、新型コロナ流行の時期でもあり、先行き不安な中での突然の病気だったといいます。

入院したとき「まだ何が原因で脳梗塞を起こしたかがわからないので、ベッドから動かないでください。動くと悪化する可能性がありますよ」と言われます。神宮さんはベッド上でまったく動けず、ただただ天井を見て過ごすしかありませんでした。そのとき「手が動かなくなってしまうのではないか…バルーンも作れなくなってしまうのかな…と1日中頭の中がぐるぐるして、本当にやり場のない不安から、夜になると涙が出ていました」と語ります。

脳梗塞と診断され、入院した神宮さんは5月末に退院。
「薬で様子を見ていきましょう」となりますが、また7月に痺れを強く感じて入院となます。その繰り返しから「これは手術の方がいいのかな…」となり、神宮さんは不安を感じてセカンドオピニオンを受けることに。

そこでこれまでに出されていた薬は、東洋人に数%合わない人がいるという薬で、神宮さんはその数%に入っていたため薬が効いておらず、また痺れが出たということがわかりました。そこで別の薬を処方され、また様子を見ることに。

12月に市の子宮がん検診を受けた神宮さんは12cmの子宮筋腫が見つかり、それも貧血を起こす要因になり得るということで、2021年の6月半ばに摘出します。その後、そのまま検査入院した方がいいと言われますが、やりたい仕事もあったので一時退院。そして、もう1度きちんと脳の検査するために、7月半ばに検査入院しました。

その際に「いつ倒れてもおかしくないくらい症状が進んでいます。もやもや病で間違いありません。すぐに手術しましょう」と言われたのです。このとき、もやもや病と正式に診断され、手術することに決まりました。

もやもや病とは、脳に血液を送る太い血管が少しずつ詰まってしまうため、それを補うようにもやもやした煙のような血管が新しくできます。それがレントゲンに写った形が煙のようにもやもやして見えるため「もやもや病」と呼ばれているのです。原因不明の進行性の難病で、脳のバイパス手術をすることで一定した血流を取り戻せて、普通の生活を送ることができるといいます。

神宮さんは、まずは狭窄が進行している右脳の手術から行うことになりました。
たくさんの誓約書にサインをする手術前は「そこにはさまざまな最悪の事態が書いてあり、不安が増しました…」という神宮さんでしたが、手術当日、麻酔をしてから次に目覚めたのは手術後でした。術後、旦那さんの呼びかけにも応じ「あれっ手術したんだっけ」というほど、びっくりするくらいに痛くなく、旦那さんにベッドの上で手を振っていたと話します。

2日後には歩いてご飯も食べられるようになり、10日後に退院。この調子で「左脳の手術も」ということになり、5ヶ月後に手術を決め、同じように手術をしたのですが、なんと、術後想像を絶する痛さだったといいます。
「術後、痛すぎて何度も何度も痛み止めを求めても眠れず、少し寝られたからと思ってもまだ5分しか経っていないの繰り返し…」と神宮さん。

看護師さんに痛み止めをお願いしても、時間の間隔を空けないと飲めない薬ということもあり、ただただ泣きながら我慢しなければなりませんでした。また、深夜に術後数回行われる記憶のチェックでも、頭には浮かんでいるのに、言葉に出てこないという状況。そのため、すぐにCT検査が行われるなど、前の手術とは比べものにならないほど大変だったと話します。

その痛みの理由は、数年後、出産で同じ病院に行ったときにわかりました。
「1回目の手術の際、少し痛み止めにアレルギー反応が出ていて、強い痛み止めを使えなかったというのが、この痛みの差だったようです」と。痛みは強かったものの、その後は同じように回復し、10日で退院することができました。

神宮エミさん(@emijinguさんより提供)

現在の神宮さんは、血液サラサラの薬とそれと一緒に胃薬をもらって飲んでいます。これは一生飲み続けていく薬と言われており、検査は1年に2回行っているといいます。

「手術前にあった、手先や唇の痺れなどはなくなり、現在は体調も良いです」と語ってくれました。

病気そのものをバルーンで表現

神宮さんは、バルーンでさまざまな作品を制作しています。病気をしてから「病気を患った私だから、表現できるものがあるのではないか」と強く考えるようになり、2020年の秋ごろから2021年の秋にかけては、本当にたくさんいろな作品を作ったり、プロジェクトを行ったりしたと話します。

さらに、もやもや病を表現した作品には「自身が患った病気そのものをバルーンで表現することで、同じもやもや病の患者さんだったり、脳の病気を抱えていたりする人に少しでも、頑張ろうというメッセージを送りたい。そして、私も今までそんな病気を自分がするなんて思っていなかったので、健康な人でも念のため、脳ドックを受けてみようというきっかけを作ることができたら…」という神宮さんの思いが込められています。

もやもや病の作品(@emijinguさんより提供)

もやもや病の作品では、神宮さん自身が坊主になり、濃い赤やピンクに近い赤などのバルーンが数多くあるのが印象的です。神宮さんは「血管を表現するために、赤い色のバルーンで作るのではなく、透明のバルーンの中にさまざまな赤や黒など複数色を混ぜ合わせた絵の具を入れ、バルーン自体を色付けてから制作しました。形は主人が私の頭を見ながら、フレームを組んで作ってくれました」といいます。

もやもや病の作品(@emijinguさんより提供)

また、頭の手術と聞いたときに坊主になるのかな…と思っていた神宮さんでしたが、今の技術によって、ほとんど髪を剃らずに手術を終えることができたのです。ただ、もやもや病のことを伝える意味でも、傷を見せて自分も作品の一部になることで、この作品の説得力が増すのではと考えたことから、坊主にして撮影に挑みました。

もやもや病の作品(@emijinguさんより提供)

この作品を見た人から「検査を受けたら、早い段階で腫瘍が見つかって治療できました」などの声があったといいます。また、もやもや病の方からご連絡をいただくことも。

「すべてにご返信は難しいですが、自分が急に難病になるなんて本当に思ってもみなかったという人がほとんどだと思います。不安で仕方ないと思います。これからも、この病気のことや私自身の経験を発信させていただき、少しでも同じ病気の人の心の支えのひとつになることができたら…」と話してくれました。

バルーンはいろいろな人を笑顔に変えられる

神宮さんは普通の生活を送れていますが、脱水が最も危険なので水分をこまめに摂るよう医者から指導されているといいます。また、仕事も普通通りしていますが、もやもや病は難病のため治るわけではなく、共存して生きていかなければいけません。

病気の前はバルーンという特性上、永遠に持たないものなので、一番きれいに見せたい日から逆算して、できるだけ寝ずに完成に向けて作業してきたという神宮さん。病気後は負担を減らすためにスタッフを育成し、お願いできる部分を増やすことで、きちんと寝ても完成できるように変えていこうとしていると語っていました。

今後の神宮さんの活動は、2025年3月に「Fuchu Balloon Festival」の開催、9月にはニューヨークファッションウィークへの挑戦です。また、病気を期にブランディングさせた『lucaemma(ルカエマ)』というオリジナルのキャラクターの絵本の出版も決まっています。

「私はバルーンの新しい可能性を追求し、世界中の人にバルーンでワクワクを届けることを目指しています。これからも挑戦を止めず、仲間たちと一緒にもっともっと新しいバルーンの世界を届けられるように頑張ります!」と力強く話していました。

もやもや病の作品(@emijinguさんより提供)

神宮さんがバルーンアートを始めたきっかけは、子どもたちの目の前でバルーンを作ったときに、子どもたちが一瞬で笑顔になってくれたことでした。そして今回病気をしたことで、バルーンは子どもだけではなく、いろいろな人を笑顔に変えることができるものなんだな…と改めて感じたといいます。
「SNSの広がりもあり、バルーンを見たり触れたりする機会は昔よりたくさん増えたと思います!みなさまの毎日が少しでも明るく、豊かなものになれるお手伝いを、微力ですがバルーンでできるようにこれからも頑張っていきますので、バルーンに少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです!」と神宮さんは今後の思いを話してくれました。

さまざまな色とそのデザインによって、ワクワクしたり、笑顔になったりできるバルーン。神宮さんの作品には、思わず笑顔になる作品はもちろん、何かを気づかされるような力強さも感じます。病気を経験した神宮さんだからこそ、バルーンの作品の中にその思いが込められるのでしょう。

神宮さんの作品から、かわいらしい名前とは裏腹の「もやもや病」という病気があること、健康であっても脳ドックなどの健康診断を受けておくことの大切さに気づかされた人も多いのではないでしょうか。

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