愛媛県で2023年3月、新たな地酒ブランド「愛媛さくらひめシリーズ」の発売がスタートしました。このお酒は、県のオリジナル品種の花「さくらひめ」から4種類の酵母をとって開発されたもの。花から酵母をとるのは非常に難しいと言われている中で、愛媛県酒造組合と東京農業大学、愛媛県とが連携し、地域活性化の一環として4種類のフレーバーを楽しめる日本酒を生み出しました。

今回、どのようにして地酒開発プロジェクトが立ち上がり、今後どのような展開を考えているのかについて、愛媛県庁 経営支援課の西村陸さんにお話を伺いました。

花酵母の地酒「愛媛さくらひめシリーズ」とは?

——改めて、「愛媛さくらひめシリーズ」とはどのようなお酒なのか、特徴を教えてください。

今回新たに県内の22の蔵元から発売を開始した「愛媛さくらひめシリーズ」は、愛媛県オリジナル品種の花「さくらひめ」から分離された清酒用花酵母「愛媛さくらひめ酵母」を用いた日本酒です。製造に使用する米や水などは、すべて県内産の原材料を使用しています。

愛媛県が産学官連携で新たに開発した地酒「愛媛さくらひめシリーズ」は22の蔵元が参加

もともと愛媛県の日本酒は、専門家や日本酒が好きな方から「旨味とやさしい口当たりが特徴」と言われていました。そのような地酒を、今のライフスタイルや食事の内容により合ったものにするために、今回は愛媛県酒造組合、東京農業大学、愛媛県が産学官連携でフレーバーの異なる4種類の酵母を開発したんです。具体的には、果実のような華やかな香りと、適度な甘さ、爽快な酸味の調和を楽しめる「TYPE-1 Tropical」、スッキリとやわらかな酒質で、穏やかで控えめな清涼感のある香りが特徴の「TYPE-2 Clear」、メロンやパインを感じさせる香りと、酸味がしっかりとして甘みと程よく調和した「TYPE-3 Well Balance」、ふくよかな香りに、はじけるような爽やかな酸味が特徴の「TYPE-4 Rich」の4つのフレーバーをつくりました。これらの酵母を用いて、各酒蔵でそれぞれオリジナルの「さくらひめシリーズ」の一瓶を開発・製造してもらいました。

「さくらひめシリーズ」には4種類のフレーバーがある

産学官の連携で、難しい酵母分離が奇跡的に成功

——今回なぜ、そのような地酒ブランドを開発する「えひめ香る地酒プロジェクト」を立ち上げるに至ったのでしょうか。

理由は大きく2つあります。1つ目が、愛媛県内の観光業や酒蔵がコロナ禍の影響を大きく受けてしまったことです。新型コロナの流行で人の動きが減り、温泉街や観光地などが大打撃を受けた上に、飲食店も時短営業を余儀なくされたことで、酒類の需要が大きく減少しました。その結果、県内の酒蔵も売上げ減少などにあえぐ事態となってしまったのです。そのような状況を打破すべく、隠れた地酒どころとして日本酒ファンに親しまれている強みを活かし、県内の酒造組合と県とがタッグを組んでスタートさせたのが「えひめ香る地酒プロジェクト」でした。

2つ目は、愛媛県には海、山、川の恵みによって豊かな食材や料理があるにもかかわらず、それらが全国的に知られていないという現状があったからです。日本全国、多くの方に愛される「地酒の隠れ郷えひめ」ならではの日本酒をつくり、愛媛の食材・料理とのペアリングを楽しんでほしい。そう思ったことも、今回のプロジェクト発足のきっかけのひとつとなりました。

果実のような華やかな香りと、適度な甘さ、爽快な酸味の調和を楽しめる「TYPE-1 Tropical」

——日本にはすでに多様な酵母菌がある中で、なぜあえて花から酵母をとることにしたのでしょうか。

愛媛県の新たな特産品をつくるにあたって、県独自の原材料を使いたいと考えていたからです。今回酵母を抽出した「さくらひめ」は、愛媛県農林水産研究所が開発し、2015年2月に品種登録した愛媛県オリジナルの品種なのですね。通常は青い花が咲くデルフィニウムを、ピンク色の花が咲くよう品種改良したもので、これまでに日本フラワー&ガーデンショウグランプリなど数々の賞を獲得してきました。

海外では、商品を選ぶ際にテロワールと呼ばれる産地の風土などが重要視されます。今回、愛媛テロワールを表現するにあたり、「さくらひめ」は最適でした。また、淡いピンクの可愛らしい、可憐な花を使うことで、若い女性など、これまでは日本酒をあまり飲んでこなかった方にも興味を持っていただけるのではないか。そう思ったことも、「さくらひめ」から酵母をとることができないか検討したきっかけとなりました。


——プロジェクトを進めるにあたり、苦労した点があれば教えてください。

酵母の分離は難易度が高く、成功が読めない中で進めていかなければならなかったことは、非常に苦労した点でした。しかし今回、東京農業大学をはじめ、本プロジェクトに関わってくださったみなさんが一致団結し、高い技術力と情熱によって、奇跡的になんとか4種類の酵母を抽出することに成功しました。酵母を取り出せなければ、今回開発した地酒も完成しませんでした。本当に良かったと思います。

「愛媛さくらひめシリーズ」で、愛媛から世界をめざす

——まだ発売して間もない時期かとは思いますが、反響はいかがですか?

実は3月の本格販売を前に、2022年12月22日よりクラウドファンディングで先行販売を開始していました。そこでは目標金額を大きく上回る585.8%を達成し、私たちが事前に想定していたよりもたくさんの方に購入していただくことができました。

また、2023年3月30日には愛媛県松山市「道後ふなや」で発売記念イベントを実施。全22種類の「愛媛さくらひめシリーズ」を試飲していただける機会を設けたのですが、来場者からは「どれも華やかで、飲みやすい。おいしい」といった声が聞かれ、大変好評でした。

愛媛県松山市「道後ふなや」で発売記念イベントを実施

さらに、SNSなどを見ていると「さくらひめシリーズはハズレがないお酒」「おつまみが引き立つ」「しっかりした味わいで後味もいい」といった嬉しい声も多数いただいています。お客様からはおおむね好評をいただけているようです。

——今後の展開についてもお聞かせください。

今後は「愛媛さくらひめシリーズ」を、世界にも発信していけたらと考えています。愛媛県庁には営業本部という部署があり、県内企業の広報PR支援を行っています。営業本部の力も借りながら、海外の販売ルートを開拓し、世界中に愛媛県の地酒のおいしさを知っていただきたいです。現在、2023年度内の台湾での販売に向けて、さまざまな準備を進めているところです。近いうちに、まずはアジアから「さくらひめシリーズ」を楽しんでいただけるようになるかと思います。

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