香川県の豊島に新施設「豊島エスポワールパーク」が誕生しました。さまざまなタイプの部屋と研修のためのセミナールームを備えていますが、最大の特徴は調理道具や食器一式を備えた29㎡もある広い厨房。そのことに象徴されるように、料理人や生産者など「食を支える人たち」の豊かなキャリアを応援するという目的を持った施設でもあります。

調理実習や飲食店イベントに使える広いキッチン

食を支える人たちの豊かなキャリアを応援したい

館長の三好洋子さんは、「それぞれが自分を見つめなおせる場所が必要」と話します。

豊島エスポワールパーク館長の三好洋子さん

「これまで多くの料理人や生産者の方など『食を支える人たち』と関わるなかで、彼らのキャリアや人生を応援したいという思いが強まっていきました。そのために何が必要かと考えた結果、イベントや研修を通して横のつながりを作れる場であり、ちょっと日常を離れて何かを考えたいときに行ける場だったんです。そんな場所をどこに作るかとなったら、日常がすぐ近くにある都会ではなく、スーパーもコンビニも信号もない、豊かな自然だけがあるこの豊島という非日常の環境がベストだと思いました」

敷地内でもっとも高く見晴らしのいい場所に設けられた厨房からは、瀬戸内の海が見渡せます

しがらみから解放され、新たなチャレンジを

広い厨房を備えた豊島エスポワールパークですが、常駐のシェフはいません。研修中は自分たちで調理をしたり、島外からシェフを呼んで料理を作ってもらったりとさまざまな使い方ができます。また、研修以外でも島外のさまざまなジャンルの料理人が腕を振るうイベントが開催されることも。

石川県でフランス料理店を営む日野貴明さん(左)と、京都を中心にキッチンカーを展開する吉本悠佑さん

10月と11月のイベントで料理を提供する吉本さんと日野さんは、それぞれまったく違うバックグラウンドを持った料理人です。20代で脱サラして世界中を旅し、30歳から料理の道に入って京都の和食店で修行を積んだ吉本さん。19歳から東京のミシュラン星付きフランス料理店で働き、25歳という若さで奥能登に自店を構える日野さん。活動する場所も食のジャンルも違うふたりが、豊島エスポワールパークという場所で出会いました。

半年前からキッチンカーというスタイルで出店している吉本さん。「自分もそうだったんですが、いろんな制約や縛りがあるなかで仕事をしている料理人って多いと思うんです。自分の場合、キッチンカーという形を選んだことで、勤務地や勤務時間の縛りから解放されました。今回の経験が、さらに新しい世界を広げるきっかけになればと思います」

また日野さんは、「この場所に来て、自分が好きになった」と言います。「自己肯定感さえあれば、人生を楽しく生きられるし周囲の人にもいい影響を与えられますよね。料理人のなかには、料理は好きだけど働き方がどうしても合わなくてドロップアウトしてしまう人もいる。そんな人にとって、この場所が何かしら気付きや心の変化をもたらしてくれるといいなと思います」

広い屋上テラスからの眺め

変化に対応できるおおらかなプラットフォーム

建物の設計・デザインを担当した和田優輝さんに、設計のコンセプトを聞きました。

「象徴的でアイコニックな建物ではなく、島になじむデザインを意識しました」と和田さん

「建物って、一度建てると何十年も残ってしまうもの。でも50年後にこの場所にどんな役割が求められるかはわからないから、できるだけ多様なニーズに対応できるおおらかなプラットフォームを作ろうという思いで設計しました。『ともにつくろう』をコンセプトに、さまざまな人からたくさんの意見を聞いて、そのイメージを設計に落とし込んでいきました」

個人でも団体でも使える宿泊研修施設

もちろん、「食」に関する仕事ではない人も、宿泊や研修施設が利用できます。宿泊の部屋は全11室。シングル、ツイン、ロフトルームのほか、ドミトリーのように使えるシェアルームもあります。そしてどの部屋もオーシャンビュー。木材は岡山県西粟倉村の杉の木を使い、ナチュラルで温かみのある空間になっています。

大きな窓から瀬戸内海を眺めることができます

また、広いキッチンでは、作り手の思いが詰まったこだわりの食品を販売。焼菓子やレトルト食品などさまざまなものがあり、購入したものを備え付けの調理家電で調理して食べることができます。なかでも注目は、YOKOO CURRY。豊島にゆかりの深いアーティスト、横尾忠則氏が好きなカレーを豊島エスポワールパークがプロデュースして開発。レトルトとして購入することも、施設内で食べることも可能です。

パッケージデザインも横尾忠則氏によるもの

キッチン前のホールには、豊島の形をしたテーブルがあります

豊島エスポワールパークのコンセプト設計にあたり、キーワードとしてよく使われたのが「母港」という言葉。食に限らずいろいろな分野でそれぞれの人生を歩んでいる人たちが、ときどき立ち寄って、自分を見つめたり誰かと出会ったり新しいものを吸収したりして、パワーアップしてまた港から出ていく、というイメージです。ここに集まる人たちが未来への希望を持って新たな一歩を踏み出せるように。豊島エスポワールパークは、そんな願いが込められた場所でもあるのです。

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