源平合戦でも知られる香川県高松市の観光地、屋島。瀬戸内海に突き出た半島である屋島は、絶景スポットとしてもよく知られています。この屋島山上にあるのが「屋島の宿 桃太郎」。実はここ、宿泊客のほぼすべてが愛犬と一緒に利用しているのです。

4代目の浜田富久さん。京都の老舗割烹で修行を積んだ料理の腕にも定評があります。

二十数年前、ある宿泊客が盲導犬を連れて訪れました。当時対応した3代目の女将は、「犬も大切な家族」というその客の言葉に驚いたと言います。

「その頃はまだ、犬は番犬として屋外で飼うものという認識が根強かった。でも、犬も家族の一員だから室内で一緒に過ごしたいと考える人が多いのならと、犬同伴可の宿にしたんです」

犬と人間がともに快適に過ごせるよう、建物や部屋の改修も少しずつ進めてきました。

「犬同伴可」から、「犬同伴が基本」へ

インターネットの予約サイトがまだ一般的ではない時代、その評判は口コミで広がり、少しずつ犬同伴客が増えていきました。その結果思い至ったのは、犬連れの客とそうでない一般客が一緒に宿泊すると、お互いに気を遣うということ。「せっかくゆっくりしに来てもらったのにそれでは意味がない」と、思い切って犬同伴専門の宿にシフト。今も人間だけでの宿泊は可能ですが、年に1組あるかどうかだそうです。

室内はきれいですが、どうしても小さなひっかき傷などができてしまいます。犬同伴でない人から宿泊の問い合わせがあった場合、そのことを説明したうえで予約を受けています。

犬と人間、両方の満足を追求

こうして愛犬家のニーズに特化したおかげで、今では客の9割がリピーター。年に3回は宿泊しているという常連客に話を聞くと、「何度来てもいいなと思う」とのこと。

何度もここを訪れている犬たち。道中の車内でこの宿へ向かっていることに気付くと、とたんにうれしそうにはしゃぎ出すそうです。

「飼い犬と一緒に思い出を作りたいと思って日本中いろんなペットOKの宿に泊まりましたが、ここは本当にお気に入り。まず部屋が広くてきれいだし、客室同士も離れているのでほかのお客さんがいても気を遣わないで済むのがいいですね。4代目の作る料理もおいしいし、部屋から見える景色もすごくきれい。ほかのペットOKの宿は、人間が快適でもペットにストレスがかかったり、ペットが快適だと人間が何か我慢しなきゃいけない場合が多いですが、ここは人間もワンちゃんもストレスなくゆっくり過ごせます。食事のときもお風呂のときもワンちゃんを部屋に置いて行かなくていいので、ずっと一緒にいられるのもいいですね」

宿の前からは瀬戸内海と高松の市街地が一望できます。

修学旅行の団体客やお遍路さんでにぎわった1970年〜1980年代。その後1990年代に犬同伴の宿にシフトしてリピーターを獲得していたことで、2020年からのコロナ禍による影響も最小限で済んだと言えます。人間と犬、両方にとって快適であることを追求した結果、着実にファンを獲得し、選ばれる宿になったと言えるでしょう。

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