ゲイカップルYouTuberの「KANE and KOTFE」(カネアンドコッフェ)。KANEさん(35)、KOTFEさん(40)のかつての職業はそれぞれ消防士と警察官。2人はカミングアウトをすることなく10年以上勤務を続けるも、「ありのままで生きたい」という思いで2021年3月に退職。同年10月には京都から東京に移住し、現在はLGBTの啓発活動家として講演やYouTubeでの発信を行っている。8月13日のイベントでは、当事者として抱えてきた悩みや葛藤、活動に込める思いが語られた。

明日女の子を好きになっていますように

トークイベントで話すKANEさん(左)とKOTFEさん(右)(提供:Allyの森)

8月13日、神奈川県川崎市の麻生市民館で開催された「ジェンダー平等を目指して」(企画・運営:Allyの森)と題した講座に、KANEさんとKOTFEさんが講師として登場。荒天により急遽、YouTubeでの配信にもなったにもかかわらず、40人を超える人が参加した。

KANEさんは高校を卒業した頃、KOTFEさんは小学3年生の頃、「男性が好きかもしれない」と感じ始めた。当時の日本はまだLGBTという言葉さえ広まっておらず、ひとりで悩むことが多かった。

LGBTQとは性的マイノリティのうち特定の人を頭文字で表し、代表する言葉(資料提供:Allyの森)

KANEさん「高校を卒業した頃に男性に興味があることに気づきました。とはいえ、学生時代は女の子を好きやったし、性別にかかわらずその人だから好きになるという感じです。今でこそ、バイセクシュアルという言葉で説明されていますけど、当時はそんな知識もなければ、テレビでは『同性愛者=変態』のような演出がされていたので、自分が同性愛者だということを受け入れられませんでした」

高校3年生のKANEさん。学生時代は異性が好きだったが、性や恋愛の話に疎かったという(本人提供)

一方、KOTFEさんは小学3年生の時に同級生の男の子を好きになった。

KOTFEさん「夜寝る前に『明日、女の子を好きになってますように』と願っていましたね。今は正しい情報が行き渡っているおかげで、生まれ持った性に違和感を感じても、同性を好きであってもそれは変なことではないと理解していますが、当時はゲイであることを治さないといけないと思っていました」

小学校3年生の頃のKOTFEさん。この頃、同性が好きであることに気づく(本人提供)

LGBT当事者が「いない」ことが前提の職場

その後、KANEさんは高校を卒業して消防士に、KOTFEさんは大学を卒業して警察官になった。数年後の2011年12月に、2人はSNSで出会い交際を始めるも、お互いのことを職場の仲間に打ち明けることはなかった。

KANEさん「僕の働く消防署ではLGBTの研修はあったんですが、名ばかりのものでした。講師の人がLGBTのことを理解しないまま指導しているのが伝わってきましたし、そもそも職場に当事者がいないこと前提で話されるんですよね。研修後も同僚が『子どもがゲイやったら絶対嫌やわ』とふざけるなか、自分がゲイだとばれないかドキドキしていました。現在、日本では10~13人に1人がLGBTだといわれていて、職場や家族に当事者がいて当たり前のこと。身の回りに当事者が普通にいるということを想像してほしかったです」

KANEさんの消防学校時代。消防士になることは小さい頃からの夢だった(本人提供)

一方で、KOTFEさんの働く警察署では「結婚して家庭を築いてこそ一人前」という古い考えが残っていた。

KOTFEさん「結婚や彼女について聞かれるたびにはぐらかしたり、話を避けるために休憩時間まで仕事をしたりしていました。そういう無理な働き方や本当のことを隠し続けてきたストレスが原因で、腹痛や不眠に悩まされるようになったんです。2年前(2020年)には適応障害と診断され、そのまま休職することになって。カミングアウトをしてもしなくても、その職場で心身ともに健康に働けるイメージを持てなかったので、最終的に退職しました」

KOTFEさんの警察官時代。警察官への武道指導、防犯指導などを行っていた(本人提供)

あらゆる人の生きづらさをなくしたい

「これからはゲイであることを隠さずに生きていきたい」そんな決意のもと、2021年3月、KANEさんは11年、KOTFEさんは16年続けた仕事を退職。同年10月、LGBTを支援する取り組みが進んでいるという理由で、京都から東京・世田谷区に移住した。

2022年7月には、延べ700人が参加した『Stand for LGBTQ+ Life』(※)というデモで、当事者としてスピーチを行った。その時の心情をこう語る。

(※)2022年6月、自民党議員による会合で「同性愛は精神障害、または依存症」というようなLGBT当事者に対する差別的な内容が書かれた冊子が配られた。それに対し、LGBT当事者やアライ(当事者たちに寄り添いたいと考え支援する人々)が自民党本部前でデモを起こした。

デモで登壇する2人。KANEさんは「生まれ変わってもゲイには生まれたくない。こんな社会にしないでほしい」と涙ながらに訴えた。(本人提供)

KANEさん「以前はデモは怖いという印象があり、デモに参加したいわけでもなければ、政府を批判したいわけでもありませんでした。でも、ここで僕たち当事者が声を上げなかったら、問題が起きたことも苦しむ人がおることも、なかったことになってしまう。怖い目に遭いたくないけど、声を上げないと。そんな葛藤に苦しんだ結果、後者の気持ちが勝ってスピーチすると決めました」

KOTFEさん「僕が登壇すると決めたのは、上京して出会った身近なLGBTの友達の顔が浮かんだからです。今までだったら泣き寝入りして終わっていたと思いますが、自分だけの問題じゃない、友達を大切にしたいという思いから決意しました。実際登壇してみると、『いつも(YouTubeの発信では)幸せそうな2人やけど、根深い問題が残っていると分かった』『何かアクションを起こしたい』と反応があって、つらい事実ほど声にして伝えることの大切さを実感しました」

デモや講演、YouTubeでの発信などを通して、本当の自分を表現するようになった2人。彼らの笑顔の裏にはある強い思いがある。

「僕たちの活動をひとつの切り口として、あらゆる人の生きづらさがなくなる世界になればいいなと思います。たとえば日本人でも言語の通じない国に行くと「外国人」になったり、アジア人差別を受けることもあるように、誰もが何かしらのマイノリティであって差別や偏見に苦しむことがあると思うんです。でも悩むのは本人のせいじゃなくて、社会や周りの理解やサポートが足りていないから。僕たちの活動を通してLGBTや他のマイノリティについて考えるきっかけや、当事者でも幸せに生きているという希望を届けられたらと思います」

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