中国山地の秀峰「那岐山」の南麓に広がる豊かな自然に恵まれた田園風景の岡山県奈義町。この地域では、環境にやさしい農業の実践者「エコファーマー認定」を受けた農家が、緑肥として菜の花を育てている。現在、那岐山麓山の駅周辺などで、辺り一面の菜の花が見ごろを迎え、このコロナ禍で訪れる人々の心を癒している。

中でも、「奈義町シンボルロード」と呼ばれる、奈義町現代美術館から那岐山へとまっすぐに伸びる一本道の両側約1kmわたって続く菜の花畑は圧巻。観光客も数多く訪れる、SNS映え間違いなしの景色が広がっている。今回はその中でも、大勢の人を魅了する、この菜の花畑を作り上げる人物、岸本勝巳さんに話を聞いた。

菜の花畑で笑顔の岸本さん。

見て!遊んで!食べて!楽しめる菜の花畑を作り上げたきっかけとは

岸本さんは兼業農家だったが、仕事を退職後に農家を主軸に働き始める。米、里芋、ネギ、キャベツなどを作り、約7年前からこの菜の花畑を手掛けはじめた。きっかけは、町から景観作物としての栽培依頼が来たことだった。

雄大な那岐山の麓に咲き乱れる姿はまるで黄色い絨毯のような菜の花畑。

しかし、このきれいな菜の花畑は維持管理がとても大変で、菜の花を植える前には堆肥をふって耕し、広大な畑に種を撒き、花を楽しんだあとに、刈り取る作業が待っている。この、刈り取る作業が一番大変だと話す岸本さん。機械で刈り取る際に、花弁がラジエータに詰まり、オーバーヒートを起こし止まることがしばしばあったそう。以前は、もっと沢山の農家が菜の花を植えて、それは圧巻の風景だったそうだが、手間もかかり、現在では花を植える農家の数が減ってきている。

そんな中、岸本さんが菜の花を植え続ける理由は、「子どもたちに喜んでもらいたいから!」。5月初旬には、菜の花を刈り取るのだが、周辺の子ども達から「なんで刈るの?もっと遊びたいのに!」との声があがるそう。

岸本さんのお孫さん。この菜の花畑を受け継ぐ後継者!?

取材に訪れた日は穏やかな陽気に包まれ、地元の親子連れが訪れていた。「例年だと、テーブルが設置されて、この素敵な景色の中でちょっとしたお茶が出来るようなおもてなしをされるんですよ。このコロナ禍で設置はされてないですけどね。」と少し残念そうに話していた。

毎年ルートの代わる菜の花迷路。

岸本さんの所有する1haの畑には、130cmの子どもの背丈ほどの、「菜の花の迷路」が作り上げられている。遊んで楽しい菜の花畑では、迷路を楽しむ姉妹の姿が。「こっちいけるよ!」「あ!行き止まり」と楽しそうな声が響く。また、その後始まった、かくれんぼ!! 背丈の隠れる菜の花に身を潜め「も~いいかい?」「ま~だだよ!!」とこれまた、楽しげな声が菜の花畑に響き渡る。

迷路のルートは、岸本さんが機械を使って、育った菜の花を刈り取って作り上げ、毎年そのルートは異なるそうだ。

一方、その傍らで、花を摘みブーケづくりを楽しむ子どもの姿もあった。

菜の花ブーケでハイポーズ!

そして、この、見て楽しんだ後の菜の花は、米作りや稲づくり等の緑肥となり、低農薬、低化学肥料で安心安全な米作りが行われ、「那岐山麓菜の花米」として奈義町の特産品となっている。地元の学校給食や、「山の駅」のレストランへ供給され、また、ふるさと納税返礼品やお土産としても選ばれている。岸本さんの畑では、家畜用の牛(地元特産の奈義ビーフ)の飼料用の稲栽培を行っている。まさに、見て!遊んで!食べて!楽しめる菜の花畑だ。

土産品としても販売されている菜の花米。

コロナ禍でも負けない菜の花畑づくりへの思い

例年、4月中旬の菜の花が満開の頃に、特産物を販売し、数多くの人でにぎわいを見せる「菜の花祭り」が開催されているが、コロナ禍のため、2020年に続いて2021年も中止が決定している。そのような中でも、この綺麗な景色を楽しんでもらいたいと岸本さんは今年も種をまき、手入れをし菜の花ロードを作り上げた。

「コロナが落ち着いたら、また、テーブルを出して菜の花カフェを開きたい」と岸本さんは話す。心を癒してくれるこの景色を見に、また、いつもとは違う期間限定の遊びの場として菜の花畑を訪れてみてはどうだろうか?鑑賞スポットと開花状況は奈義町のホームページにて紹介されている。

「小さな幸せ」という花言葉を持つ菜の花と虹のコラボレーション!

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