新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中に一気に広がったテレワーク。パソコン一台とネットワーク回線があれば、オフィスに行かなくともこれまでと同じような仕事ができる。人口の多い都市部では当たり前になってきているものの、地方ではまだまだ一般的であるとは言い難い。

しかし、香川県にはなんと6年以上前から社員全員がフルリモートで働く会社がある。ウェブ制作やコンサルティング、アプリ開発などを行う株式会社テリムクリだ。

パーソル総合研究所(東京)が昨年11月に行った調査によると、香川県のテレワーク普及率は4.4%。都道府県別でみると、45位である。トップの東京都が45.8%であるから、その差は10倍以上。先進的な取り組みとそこに込められた思いについて聞いた。

コロナ禍でも変わらないスタイル

「自由に動きながら仕事したいと思って」

インタビューしたのは、代表取締役の牛尾隆さん。デザイナーやエンジニアなど、起業当初からスタッフ全員がリモートで作業をしており、コロナで日本中、いや世界中の会社が慌てふためいたあの時期も、ビジネスにほとんど影響はなかったという。当時、特に地方ではまだまだ珍しかったワークスタイルだけあって、クライアントの多くはテリムクリがテレワークを実施している会社という認識もなかったそうで、驚かれることも多かった。それだけ支障なく仕事が回っていたという証拠であろう。

香川大学と共同開発した、観光ガイドブック生成・印刷システム「KadaPam/カダパン」もテレワークで進行した

今では当たり前になったが、SlackZoomSkypeやサイボウズなどのコミュニケーションツールをいち早く取り入れ、社員や外部スタッフと連絡を密にした。データは、Dropboxなどのクラウドサービスで受け渡しを行うため、直接顔を合わせることなく業務を完了できる。ただ、実際に会わないからこそ、スタッフが孤立しないように、何気ないメッセージのやり取りや、電話での雑談を大切にしている。一人で何か問題を抱えていないか、常に気を配るよう心掛けているそうだ。

そこへ来て、今回の新型コロナウイルスの蔓延。客先との向き合い方にも変化が生じた。

「これまでは先方に直接行かないと失礼というか、僕が全てのクライアント先に行って会議をしていたのですが、それがコロナで『来なくてもいい』となった。逆に楽になりました()

取引先のテレワーク環境が整い始め、オンラインで会議が行えるようになり、これまでよりもさらに移動にかかる時間が減少。仕事はいっそうスムーズに運ぶようになったのだ。

お客さんがお客さんを連れてきてくれる

いわゆる「営業担当者」は、社内で牛尾さん一人。だが、広告を出したり、飛び込みをしたりといった営業活動は一切行ってない。これまでほぼ100%が、口コミから広がった受注である。お客さんがお客さんを紹介してくれる、創業時からそれがずっと続いていて今に至る。

「ウェブだけでなく、お客さんの困りごとを一緒に解決していきたい。」

「時々、社員に怒られるんですが、なんでもかんでも受けないでほしいと。それが今の悩みです」

牛尾さんは、少し苦笑いしながらそう教えてくれた。「あまりお金は無いんやけど…」と相談されることもあるそうだ。たとえ予算が足りなくても、納期が短くても、せっかく頼ってくれたのだからと、なるべく断らず予算内でできることを模索する。どうしてもリソースが足りない場合は、同業者を紹介することもある。そういった真摯な姿勢が、今の繋がりを作ってきたのであろう。不況の中でも業績は好調だ。

柔軟な働き方を通して、公私を充実させてほしい

自宅の書斎兼オフィスにて、ご長男と。

2児の父である牛尾さん。自宅で仕事をすることも多いので、お子さんと過ごす時間も長い。「お子さんは嬉しいでしょうね?」という問いにはこのように答えてくれた。

「嬉しいというか、毎日家に居るのが普通やから……、自分で時間をコントロールできるので、ほとんどの学校行事に行けます!」

嬉しいわけでも、特別というわけでもない。お父さんが毎日家にいる、それが子供たちにとっての牛尾家の日常なのだ。

「社長である自分が手本になって、社員も絶対、お父さんになっても、なるべく家族のライフイベントに参加してほしいんです!」

代表を務めるフットサルチーム『プラセール』は、全国大会に出場したことも。

実際、テリムクリでは社員に柔軟な働き方を奨励しており、たとえば若いエンジニアを取りまとめるベテラン役員は大阪在住。県内に数人しかいないウェブ解析士マスター(ウェブ解析士の最上位資格)の女性マネージャーは現在妊娠中だが、リモートを軸にした働き方であれば、今後もきっと赤ちゃんとの時間を大切にしながら、仕事と両立できるだろう。

さらにテリムクリは副業も認めており、スタッフが望めば他社との兼務も自由だ。自分の仕事が期限内に終わりさえすれば、勤務時間も曜日も決められていない。プログラミングの講師をしたり、ドローンのベンチャー企業のプロジェクトに参加したりしているエンジニアもいる。

「副業」と聞くと、あまり良く思わない経営者も多いかもしれないが、「もしかしたら、こちらが副業かもしれません。でも他から仕事が来るくらいの人の方が絶対いい」と言う牛尾さん。裏を返せば、場所にも時間にも縛られないゆるやかな社風こそが、他社からも必要とされる高い技術を持ったクリエーター達を集めた秘訣なのかもしれない。

仕事の合間にトレーニングを欠かさず、毎年のようにトライアスロンに出場。

最後に、これから起業したい若者に一言とお願いすると、「やってみたらいいんです。人が言うほどリスクはないんで」と、こちらが拍子抜けするようなアドバイス。安定した未来が見えない時にこそ必要なのは、思い切りということかもしれない。

社名の「テリムクリ」とは、日本建築の屋根などに見られる凸凹の滑らかな反転曲面を指す。香川でもますます高まるデジタルニーズ。その名の通り、今後も人や時代にあったビジネススタイルを波のように変化させながら、進化していくだろう。

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