「花火メーカーを知っている人はいても、その社名まで知っている人は少ない」——。
愛知県に本社を置く株式会社若松屋は、来年で創業90年を迎える老舗の花火メーカーです。打ち上げ花火と、家庭用のおもちゃ花火。その両方を手がける全国でも稀有な「花火の総合商社」として、業界を牽引してきました。
しかし、その歩みは伝統を守ることだけではありませんでした。コロナ禍という大きな転換期を経て、同社が打ち出したのはSDGsに向き合う革新的な取り組みでした。今回は、若松屋の竹内さんに、創業の背景から現代におけるSDGsへの挑戦、そして花火文化の未来について話を伺いました。
農業から花火の道へ。異色の創業と「安全」への執念
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若松屋の歴史は1937年、農家だった初代が花火店へ修行に出たことから始まります。きっかけは、農作業中に起こしてしまった「火事」でした。
当時の地元ルールで家業を辞めざるを得なくなった初代が、あえて選んだ修行先が「火」を扱う花火の世界だったというのは、どこか運命的なものを感じさせます。
修行を経て独立した当初は、おもちゃ花火の製造からスタート。その後、近隣の打ち上げ花火メーカーを統合する形で、1950年代には現在の「総合花火メーカー」としての形が出来上がりました。
「花火の世界で何より優先されるのは『安全』です。事故がないことを担保して初めて、商売が成り立つ。これは創業以来、変わることのない私たちの根幹です」と竹内さんは語ります。
業界の常識を覆した「プラスチック不使用」花火

江戸時代から続く老舗も存在する花火業界において、若松屋が注目を集めたのは、2021年に発表した「エコパッケージ花火」でした。
きっかけはコロナ禍。「世の中のために何かできないか」とSDGsを学ぶ中で、竹内さんが着目したのが海洋プラスチックゴミの問題でした。
「花火は遊べばゴミになります。環境に優しいとは言い難い側面がある。ならば、プラスチックを一切使わない商品を作れないかと考えたんです」
しかし、実現への道のりは困難を極めました。現在、国内で流通するおもちゃ花火の99%は海外製。従来の商品は、中身がバラけないよう数本ずつプラスチック袋に入れられ、さらに大きな外装袋に詰められるのが当たり前でした。
「営業担当や取引先からは猛反対されました。『中身が見えないと売れない』『花火は大きく見せてナンボだ』と。それでも、環境意識の高い小売店様が共感してくださり、特設コーナーなどで展開したところ、お客様から大きな反響をいただきました」
これまでの「大きく見せて売る」文化から、環境に配慮した「コンパクトな紙パッケージ」という新たな価値観への転換。若松屋の挑戦は、保守的だった花火業界に一石を投じることとなったのです。
「安全に、正しく楽しく」遊べる状況を作りたい
若松屋が向き合っているのは、ゴミの問題だけではありません。花火離れが進む中で、「花火を楽しめる環境づくり」という課題にも取り組んでいます。
同社が実施したアンケートで最も多かったのは、「どこで花火をすればいいのかわからない」という悩みでした。そこで開発されたのが、花火ができる公園を検索できるアプリ『花火ナビ』です。現在、累計27万ダウンロードを超えるヒットとなっています。
「23区内でも、場所や期間が限られていても実は花火ができる公園はあります。そうした情報を正しく伝え、花火が安全に、楽しく遊べる状況を自分たちで作り上げていきたいと考えています」
長く築いた看板を背負いながら、おもちゃ花火と打ち上げ花火の両方の現場を知る若松屋だからこそできること。それは、時代の変化に寄り添いながら、花火の楽しさを次世代へつなぐための土壌を整えることなのかもしれません。
