買い物するとレジ袋やプラスチック包装のゴミが出てしまう。そんな当たり前の日常に、疑問を持つことはないだろうか。香川県三豊市のベーカリー「coppola(コッポラ)」店主、神原優子さんは、パンの美味しさだけでなく「ゴミを出さない」ことをコンセプトにしている。毎週水曜日だけオープンする”サステナブルな店”に込められた思いを聞いた。

常連客ら3割がマイ容器持参

2023年6月の水曜日、田園風景の真ん中にある小さなベーカリーを訪れた。本日の品揃えは、定番のベーグルやカンパーニュなど28種類。ショーケースに並んだ「とうもろこしフォカッチャ」や「ずんだクリームチーズサンド」は季節限定で、旬の素材を組み合わせたオリジナルパンが自慢だ。

ショーケースには、たくさんの種類のパンが並んでいるので迷ってしまう

「もともとパンが好きで、県内のベーカリーで働いていました。パンだけだと野菜不足になってしまうのですが、季節の野菜や果物も大好きなので、旬の素材を使ったパンをオリジナルレシピで焼いています」
地元で採れる新鮮な素材と人をつなぐツールが、パンなのだという。パンの素材に有機野菜を使うことで、農家を応援したい気持ちがある。そして、店を訪れた人と野菜たちの出合いを作りたいと願っている。

2021年4月に本格オープンした店は、香川県西部の方言で「こじんまり。のんびり」という意味を表す「こっぽら」にちなんで名付けた。基本コンセプトは、「国産有機小麦など安心安全な素材を使うこと」「ごみを出さないこと」だ。

店頭やSNSで容器持参を呼びかけていて、常連客を中心に3割くらいの人がマイバッグやマイ容器を持って店を訪れている。

持参してくれたマイ容器に、丁寧にパンを詰めて手渡しする神原さん(左)

「パンがつぶれないように、友達から教えてもらった専用容器を持ってきています」と、子ども連れの女性。毎週、食パンを購入している男性はタッパーを持参していた。「容器を持ってきていなくて、ごめんね」という女性も。

「ゴミを出さない」選択肢を提供

神原さんが「#ゴミを出さないベーカリー」を始めたのは、奈良県内の地域密着ベーカリーが容器持参を呼びかけていたのがきっかけ。「私もやってみたい」と思った神原さんは、その店に早速連絡を取ったという。
「モデルがあったから私にも出来ました。パンの袋はすぐに捨てられてしまうので、なくても良いと思ったんです」

ゴミを減らす試みは、パンを作る過程にもある。材料として仕入れている豆乳は、繰り返し使用できるリターナブルなガラス瓶に入れてもらうよう依頼しているそうだ。食べ物をビニール袋やプラ容器で包むという行為。その時代の”当たり前”を変えるには、小さなきっかけが必要だ。誰かが「この包装なくてもいいよね」と思っても、一人では変化が起きない。

ずんだあんのコッペパン、マフィン、ベーグルなど竹素材のトレーに並んだ神原さんのパン

「地域のお店が『プラスチックごみを減らす』ことを発信すれば、お客さんに行動の選択肢が生まれます。そこから、コミュニケーションが広がればいいなと思います」と神原さん。容器を持参してもらうと、パンの購入数にあわせて10円(1個から4個)、50円(5個以上)の値引きサービスがある。持参していない人には、紙袋や小袋が準備されている。

「あっ、次のお客さんです」。予約客の姿が見えると神原さんは、トレーからパンを準備。どのパンをいくつ注文されたか覚えているようだ。パンは予約注文制とショーケースから選んで購入できるシステムになっており、水曜日のうち売り切っている。

「自分の好きなパン」を表現

神原さんは、20年ほど前にオーストラリアで語学留学とワーキングホリデーを体験し、環境意識が高いことに刺激を受けた。この時の体験が、容器持参など環境に配慮したコンセプトの背景にあるという。
水曜日だけオープンのスタイルを選んだのは、神原さんがサステナブル(持続可能)な暮らしを大切にしたいためだ。子育てや家事などプライベートと仕事のバランスを考えた時、ちょうど良いと思ったそう。8月は夏休みのため営業を休む。
「稼ぐことは、もちろん大切です。でも、働くことに一生懸命になりすぎて、家族や健康など他の大切なものを見失いたくないと思いました」

ベーカリーの入り口にある「コッポラ」の看板。営業日が変わることもあるので、SNSなど要チェックだ

日曜日からパンの仕込みを始め、複数の生地を練り分ける。売り切れるだけ、食べ切れるだけを意識して、少量ずつ小分けした生地をタッパーで寝かせる。火曜日は寝る時間がほとんどないほど準備に忙しいという。
神原さんのパンは、自家製天然酵母や国産有機小麦粉を使っており、乳製品と卵は不使用。ビーツなど手に入りにくい野菜は、母親に頼んで栽培してもらっている。
「子どもが帰ってきたときに『おかえり』と言ってあげたいので、無理をしない程度に好きなパンの仕事を楽しみたいと思います。将来は小麦や野菜も自分で作って、パンを焼き続けたい夢もあります」

神原さんは「将来は地域のコミュニティースペースのような場所に、なったらいいなと思っています」と話した

「お店では、私が好きなパンの世界を表現しています。噛み応えのあるパンが好きなので硬めのハード系パンが多く、甘いものが苦手なので甘すぎるパンはありません。あんこに砂糖ではなくデーツを使っていたり、自然の味を大切にしています」

マイ容器を忘れてしまった筆者は、好きなパンを一つだけ選んだ。今度の水曜日は、どのパンを食べようかな。もちろん容器を持って。

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