海洋ゴミから楽器を作る人がいる。名古屋市在住のパーカッショニスト、大表(おおおもて)史明さんだ。もともとインドやアフリカの民族楽器を演奏していたが、2019年から海で拾ったゴミで楽器を作る活動を始めた。楽器がSNSでバズったことや、3年間で進化してきた楽器作りなどについて話を聞いた。

反響を呼んだ海洋ゴミ楽器

きっかけは、ある企画で「海洋ゴミで楽器を作ってほしい」と声がかかったことだった。海でゴミを拾い、約1か月かけて作ったのがアフリカの楽器「ンゴニ」だ。漂着ブイにブルーシートを張り、流木に釣り糸をつけて作ったこの楽器を「フネンゴニ」と名付けた。

海で拾ったゴミで作った『フネンゴニ』

海洋ゴミ楽器第一弾となったフネンゴニ。Facebookに動画を投稿すると、1000件以上のいいねがつき、国内外から数百件の問い合わせが来るほどの反響があった。取材の依頼もたくさん来たという。

「SNSに載せたことで『こんなに多くの人から求められるんだ』と驚きました。ゴミで作った楽器が人を感動させられるならと、その後も続けて楽器を作ることにしたんです」

プラスチックごみの衝撃

大表さんが海洋ゴミ楽器を作っているのは、幼少期の体験も影響している。父の影響で小さい頃から工作が好きだった大表さんは、ゲームを買ってもらうよりも、工作で自前のゲームを作って遊んでいた。また、石川県の海の近くで育った大表さんは、幼い頃から浜辺でよく遊んでいた。

「ライターと醤油を持って浜辺に行って、拾った空き缶を加工して鍋を作り、貝を焼いて食べたりしていました。海はすごく身近な存在だったんです」

慣れ親しんだ海だが、楽器の材料集めに海に行くようになってから、あまりのプラスチックごみの多さにショックを受けた。

「僕が子どもの頃は空き缶のゴミはあったけど、ここまでプラスチックだらけではありませんでした。環境が変わってしまったことを、身をもって感じたんです」

進化していく楽器作り

海洋ゴミで楽器を作っていく中で、ゴミのことにも詳しくなった。プラスチックやアルミの特性を勉強し、楽器作りに生かしている。

「ボトルウイング」という楽器はペットボトルを真空にして音を調整しているが、凹みのないコーラのボトルしかきれいな音が出ない。他のボトルも試してみたがいい音が出ないので、材料を集めるだけで半年以上かかった。

『ボトルウイング』ボトル内の真空の加減で音を調整している

3年間で30点以上の楽器を作ってきた大表さんだが、一番大変だったのはギターだという。

カラフルなボディは、約160個のペットボトルキャップを溶かして作った。弦は釣り竿を使っているが、低音の太い釣り糸は西表島のマグロを釣る用の糸、高音の細い糸は愛知県の川魚を釣る用の糸だ。釣る魚によって音程が変わる。

「ギターはすごく繊細な楽器で、計算式通りに作って、きっちり平行にしないと音が出ないんです。ミリ単位での調整で、本当に大変でしたね」

フレットの部分は自転車のスポークを使っているギター

大表さんの楽器作りはどんどん進化している。最初はゴミの形をそのまま使って楽器を作っていたが、今は物質レベルで考えている。アルミを溶かして作った鉄琴「ポイステッキン」もその一つだ。

炉で約800度の高温を作り、アルミ缶250個を溶かして作った。その過程をTikTokにアップしたところ、230万以上のいいねがついたのだ。

『ポイステッキン』「音もめっちゃきれい」「普通のよりきれいな音する気がする」とSNSで話題に

海洋ゴミ楽器作りは天職

2020年には5人のメンバーで「ゴミンゾク」を結成。各地で演奏活動を行っている。海洋ゴミ楽器の特性からSDGs関連で声がかかることが多く、現在の活動の半分以上を占めるそうだ。

「僕は単純にゴミで楽器を作るのが楽しくて、環境問題ありきで活動しているわけではありません。ただ、ゴミという素材からきれいな音色の出る楽器を作ることで、感動してくれる人がいる。驚いたり、ワクワクしたりしながら環境問題にも関心を持ってもらえるんじゃないかなと思っています」

ゴミンゾクのメンバー(大表さん提供)

大表さんは今までにトロンボーンやベース、民族楽器などさまざまな音楽を経験してきた。その知識がすべて集約されているのが、海洋ゴミ楽器作りだ。

「天職に巡り合った気がしています。楽器作りを始めたときは、まさかこれをメインで活動するようになるとは思ってもいませんでした。今はこの楽器を持って海外に行くことが目標です。世界中の海に行って、ゴミを拾って、それでまた楽器を作りたいですね」

楽器について語るときの大表さんは、まるで子どものようにキラキラした目をしていた。

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