カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した『淵に立つ』など、多くの映画を手掛けた深田晃司監督。
現在、奈義町をロケーションにした映画を構想していると聞き、話を聞いた。
深田監督が所属している劇団の主宰者である平田オリザさんからの勧めもあり、広大な山や田畑・現代美術館・農業・畜産・酪農・高い出生率など、様々な環境が揃った奈義町に興味を持ったことがきっかけで、映画のプロデューサーとともに2017年から幾度も奈義町を訪れている。現在、奈義町を撮影地にしたオリジナルの映画を作ろうと、長期滞在し製作にあたっている。

奈義町での生活 町民たちの反応は?

奈義町に来て初めての印象は「景色の綺麗な町」という深田監督。奈義町滞在は今回で8度目となる。

映画作りに欠かせない情報収集の為、町内を巡る手段は自転車。住民のほとんどが車生活の奈義町では自転車に乗っている大人が珍しいからなのか、下校中の小学生たちが自転車に乗る深田監督をダッシュで追いかけてきて驚いたそうだ。無邪気な子どもたちの姿は、まるで昭和映画のワンシーンのようだったと深田監督は話す。

畑で使い終わった黒マルチをはがす深田監督

また、深田監督は農業の手伝いや町内事業所の作業に積極的に参加した。慣れない作業に四苦八苦しつつも、一緒に仕事をした町民とコミュニケーションをはかったことで奈義町をより深く知ることができた。

東京都出身の深田監督は地方で暮らすのは初めてだったが、町民は優しくオープンに接してくれたそう。

一緒に作業をした町民とお茶を飲み、談笑する深田監督

3月2日には小学生を対象にソーマトロープ体験とアニメーション鑑賞が行われ、そこに講師として参加。子どもたちと交流した。

4本のアニメーション作品の中で一番人気だったのは、意外にもどちらかというと大人向けの一番シュールな内容のものだった。

大人向け・子ども向けと内容を決めつけず、幅広いジャンルのものを選んでみせることで、子どもたちの反応は予想外のものになり、面白いのではないかと深田監督は言う。

小学生から年配の方まで様々な状況の町民と話をしたが、全員に共通して言えることは『奈義町が好き』ということだった。

小学生たちに映画の35ミリフィルムの原理を教える深田監督

脚本作りは喫茶店で 集中できる理由とは

脚本作りはいつも喫茶店という深田監督。奈義町にも何軒かある喫茶店の中でお気に入りの場所を見つけた。

取材でも訪れたこの喫茶店は集中でき、程よく人目もあり、なおかつWi-Fi環境がない。Wi-Fi環境がない場所は不便ではないかと聞くと「僕は集中力がなくてついSNS見ちゃったり、人目がないとだらけちゃったり…どこに行ってもWi-Fiがある時代、ネットから離れられる環境は貴重。人目があってWi-Fiのない落ち着けるこの店は理想的なんです」と笑う。

常連客がほどよく集うその店の一番奥のテーブル席に座り、長いときは一日中執筆することも。

行きつけの喫茶店で取材に応じる深田監督

奈義町に滞在したことによって、様々な体験もできたという。

訃報や出生が分かる毎日の防災無線放送の存在に驚いたり、奈義町でも10年ぶりと言われるほどの大雪を体験したり。雪景色も新鮮だったそう。

深田監督自らが体験したこと、町民との関わりの中で気づいた思い。1本の映画に込める思いが形になっていくと思うと、感慨深いものがある。

深田監督の優しい視点で眺めた奈義町を背景とした映画公開を楽しみにしたい。

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