みなさんが日常生活で思い浮かべる数字と言えばなんでしょうか。
大切な人や自分の誕生日、携帯電話の番号、車のナンバープレート、はたまたセキュリティを解除する為のパスワード…自分が住む地区の市外局番という人もいるかもしれません。
岡山県真庭市の市外局番をデザインコンセプトに掲げる「0867(ゼロハチロクナナ)」は、地方創生を追及したプロダクトを展開するオリジナルブランド。県内外を問わず精力的に活動し、市役所や警察署、企業とともに、コラボグッズの開発等も行っています。
2022年11月に3周年を迎え「次のフェーズに入った」と語る代表の杉原利充(すぎはらとしみつ)さんに、ブランドを立ち上げてからの反響や今後の展望について話を聞きました。

この日のために各地から幅広い層の客が訪れた(撮影:ホンダケンタ)

3周年アニバーサリーイベントの意味

「わかりやすく変えたのは、自分のバックボーンにある音楽やカルチャーを中心にした10代からの仲間をメインに出店者や出演者を決めたことでしょうか」と語る杉原さん。

過去の周年イベントでは地元・真庭からの出店者が多かったそうですが、3周年を機に心境の変化があったそうです。

フードの出店者も以前から付き合いのあったハンバーガーショップやパン店などが並んだ(撮影:ホンダケンタ)

「『0867 = 真庭』という考えに執着していた部分があったかもしれませんね。地元への恩返しというか。ですが、そのことで良さを発揮出来なくなっていた部分もあり、自分の本来のアプローチやスタイルを取り戻そうと、3周年を迎え初心に帰ろうと思いました」

「今までは、地元の真庭を意識し過ぎて、自分本来の発信の仕方とは違っていた気がしました。真庭を外(ソト)に発信すべきところを、今までは内(ウチ)に向いていたなと、感じていました」

この日は全ての商品が50%オフで販売された(撮影:ホンダケンタ)

ブランドを立ち上げた当初は、真庭を内(ウチ)から盛り上げようとしていましたが、1年、2年と経つうちに地域連携の仕方や自身の方向性が見えてきたそうです。

「3年目でようやく自分らしくなれた感じですね。デザインも譲っていた部分があり、わかりやすくないといけないと思ったり、売れ線に寄せにいく部分があったのですが、それを本来の姿に戻したという感じでしょうか」

今回のイベントは、ゲストアーティストとの距離感が近いことが特徴。「ライブハウスのような距離感が大事」と杉原さんは言います。

「ウィンウィンの関係が作れるんですよね。アーティストからしたらお客さんと近い方がファンも増えますし、ファンからしても追いかけた先でアーティストと交流が持てる。その起点となるのが『0867』であれば、服も好きになってもらえる。お互いのお客さんがそれぞれを好きになる。そういうサイクルを作らないと田舎はシーンがすぐに潰れてしまうんです。良くも悪くもみんなを巻き込むことが重要かなと」

ブレイクコアアイドルのネムレス(左)とアーティスト・シンガーの瑳里(さり:右)がゲストとして参加(撮影:ホンダケンタ)

「田舎は都会のように同じジャンルの人だけで集まれないですからね。コレが好き、で集まれない。ジャンルレスにすることでムーブメントが生まれるのは、自分がバンドをやっていた時の経験からです。田舎ならではの泥臭さというか」

良い意味でどっちつかず。寄せていけば客は離れていくし、かといって尖り過ぎてもそれはそれで客は離れていく…。エッジの効かせ方のバランスを大事にしつつ、色々なジャンルの人たちが集まり、自分たちだけのコミュニティにしない開かれた関係を作り、経験値を増やすことで新しい創造が生まれる。

都会では、なかなかこの感覚は味わえないのかもしれません。

ゲストと客の距離感が近かったのもこのイベントの特徴(撮影:ホンダケンタ)

ブランドのポジションに悩んだ3年間

「物事の周期は3年で変わると思うんですよね」とも語る杉原さん。

「音楽のシーンやトレンドは3年で変わります。学校なんかも3年単位ですよね。この3年間で自問自答してきました」

ブランド立ち上げ当初は「自分を押し出し過ぎてもいけない」という地方ならではの難しさもありました。オーバーグラウンド(大衆的)にするべきか、アンダーグラウンド(前衛的)にするべきかが一番悩んだ部分だったそうです。

辿り着いた答えは「自分を貫くことや自分らしさへの回帰」(撮影:ホンダケンタ)

しかし、メディアなどの露出が増え「自分のやっていることは本当に正しいのか、本当にやりたいことだったのか」というプレッシャーを感じる時期もありました。

そもそも、真庭市のなかでもさらに中心部から外れたわかりにくい場所に店舗を構えたことは、杉原さんにとっては挑戦でした。

「こんな場所で本当にお客さんは来てくれるのか」と思うこともあったそう(撮影:ホンダケンタ)

「こんな田舎で服を売っていくには、(大衆に)寄せないといけない、(みんなに)認知されないといけない」と思う一方、そればかりでいいのだろうか、という葛藤は常にあったそうです。

それでも、地域の人を中心に「0867」のロゴがあしらわれたアイテムを身に付けていく喜びは何事にも変え難い経験でした。

オリジナルブランド「0867」の意義

次第に、服だけでなく、音楽、動画、デザインなどの仕事の依頼も増え「市外局番」に関連する地域のクリエイティブを任されるようになりました。

車にステッカーを貼るほどの熱烈な「0867」ファンも(撮影:ホンダケンタ)

「ブランドを展開している人の中には、自分がこれを作ったと言いたい人もいるとは思いますが、自分は違う。服はあくまでツールであり、会話が生まれる地域のコミュニケーションツールであればいいし、勝手に走り出してくれればいい。地元みんなで育ててくれるといいと思っています」

地元の就労継続支援B型事務所とのコラボガチャも店内に設置されている(撮影:ホンダケンタ)

今後はメッセージ性を貫くようにしたい

この3年間は良くも悪くも「真庭っぽいこと」をしていたと語る杉原さん。今後は「自分目線」へ原点回帰をし、よりエッジを効かせて、ひとつ上の階層を目指すそうです。

無いものは自分で作る、自分たちの遊びは自分たちで作る。
誰も手を出していないものが好きという気概が杉原さんにはありました。

チェッカーフラッグに見立てたのぼりを振り、客を見送った(撮影:ホンダケンタ)

「自分のカルチャーを推していきたいと考えています。自分のコアの部分、例えば音楽であったり、ストリートアートであったりを全開にする。届くどうかは別として、メッセージ性を貫くようにしたいですね。自分の考えや、こうあるべき、という部分にこだわっていきたいです。『0867』はポップなロゴではないですし、ヒビが入っていますし、強いメッセージを発信していきたい」

去る3周年のイベントには、2日間で合計300人以上のお客さんが足を運んだそうで、遠くは関東首都圏から訪れた方もいたとか。

これからも真庭に色々な刺激を与えてくれるシーンをこの目で見ていきたいと思います。

3周年アニバーサリーイベントに集まった仲間たちと杉原利充さん(前列の白いニット帽を被るのが杉原さん/撮影:ホンダケンタ)

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