北海道の東・弟子屈町にある、日本最大のカルデラ湖・屈斜路湖(くっしゃろこ)。寒暖の差が激しいため、湖や森から揮発した水蒸気が霧となり、雲海が発生しやすい場所の1つです。外輪山からは雲海が広がる様子が一望でき、多くの訪問客が魅了されています。

屈斜路湖(くっしゃろこ)に発生した、2021年7月の雲海の様子。島のように見えるのは、山々です。

弟子屈町に住む山本和之さんもその1人。2013年からほぼ毎日、屈斜路湖の写真を撮り続けています。特に雲海が発生しやすい6月から7月は早朝3時半頃に出発し、日の出の時間に合わせて写真を撮っています。

山本さんはカメラマンでもあり、屈斜路原野ユースゲストハウスのオーナー、そして調理師でもあります。多様な視点から屈斜路湖の自然に向き合う山本さんに、その魅力を聞きました。

“絶景”は1つでない、変化やありのままの姿も魅力がある

山本さんは2013年より宿泊者向けの雲海ツアーを行っていて、その際に写真を撮り始めました。大切にしているのは「毎日行くこと」。悪天候や年末年始以外はツアーを行い、夏は朝3時半頃に出発して標高945メートルの津別峠へ、冬は6時前頃に出発して標高525mの美幌峠展望台に向かいます。日の出に立ち会える時間を調整し、色の変化を楽しめるタイミングを狙うのが、山本さんのこだわりです。

「秋の雲海、秋は空気が澄んで陽射しがシャープになり風景もくっきりとした感じ、空が高く青さが増します」と山本さんは語る

「同じ景色は二度とありません。日の出前後の色の変化、雲の厚さによる光の通し具合、色の付き方は、その日によって全然違っています。『きょうはどんな感じかな?』と思うと、どんなに朝が早くても会いに行きたくなります。だから毎日通えるんです」

「日の出が見えなくても条件がととのえば雲海は発生します」

雲海が出るのは曇りの日ですが、「日の出や雲海が見えない日があっても、それはそれでかまいません」と話します。山本さんにとっては変化やありのままの姿も、絶景なのです。また、山本さんは空撮用ドローンを購入し、「空」という角度からも、屈斜路湖の自然を撮り続けています。

冬の霧氷の景色を、ドローンにて撮影(「屈斜路原野ユースゲストハウス」のYouTubeより)

山本さんの夢は、屈斜路湖の写真集を作ること。「人々の営みと原始的な自然が残る屈斜路湖の自然を、これからも毎日撮り続けたい」と語ります。

調理師として、味覚でも確かめた屈斜路湖の自然

山本さんは「調理師」という、もう1つの顔を持っています。大阪で調理師免許を取得後、料亭、寿司店、ホテルの和食職人として経験を積み、1993年に屈斜路原野ユースゲストハウスを開業。原始的な自然が残る場所で、屈斜路湖の湧水で取った一番出汁をベースにし、主に地場産食材を使用した料理を振舞っています。

調理師としての山本和之さん

「この地区の水は軟水で、料理に合います。また屈斜路湖付近は温泉もあり、農業もさかん。屈斜路湖の魅力は、雲海や大自然だけでなく、住民の暮らしを支えていることなんです」

調理師の味覚でも確かめた、自然の素晴らしさ。山本さんは料理でも「屈斜路湖の自然」を再現し、訪れる人たちを喜ばせています。

「冬は、辺りが真っ白なので、雪にお日様の光が反射して色づき寒いのに温もりを感じる風景になります」

山本さんがカメラの“目”で見て、料理の“味”で確かめた屈斜路湖の自然。ぜひ一度味わってみてはいかがでしょうか。

この記事の写真一覧はこちら