香川県高松市の豊岡哲二さんは、切り絵歴50年のベテランです。自身が立ち上げた切り絵グループ「かみきり虫」では会員への指導も行っており、11月17日から12月5日までは、初めてグループでの展示会も開催しました。

「かみきり虫」というグループ名は、1つの事に熱中している人の事を「~の虫」と表現することから、紙を切ることに熱中している人という意味で、豊岡さんが名付けたもの。そんな豊岡さんに、切り絵に出会ったきっかけや魅力を聞きました。

かみきり虫ができるまで

豊岡さんは1970年、大学4年生の時に切り絵と出会いました。読んでいた新聞に切り絵作家の作品が大きく掲載されていたのを見て「自分も出来るのではないか」と思いやってみたことがきっかけだったそうです。

その後、大学を卒業し高校の教師になった豊岡さんですが、教師になってからも切り絵はずっと続けていました。授業の中で、生徒に切り絵を教えていたこともあったそうです。その後定年退職し、他の人と一緒に切り絵をするようになりました。そして友人が友人を呼んでその輪がどんどん広がっていき、切り絵グループ「かみきり虫」が結成されたのです。

豊岡さんの作品「源平合戦」

豊岡さんは、今までに喫茶店や銀行のロビーなどで意欲的に個展を開催してきました。しかし、グループで展示会を開催したのは今回が初めてと言います。みんなせっかくやってきたのだからと「展示会をやってみませんか」と聞いてまわったら、作品を意欲的に作ってくれたと言います。

メンバーは70歳以上の人が多く、目が見えなくなるなど身体的に難しくなる事もあるそうですが、切り絵を生きがいのように思っている人もいて、電動車椅子で呼吸器をつけて切り絵に来る人もいるとのことでした。

かみきり虫の会員の作品。絵本の中に出てきそうなかわいい作品もある。

切り絵の魅力

豊岡さんが切り絵をはじめた時は白黒の切り絵が主流でした。そのとき、切り絵が白と黒のバランスでいろんなものを表現するということに魅力を感じたそうです。切り絵に熱中しだした頃、囲碁の碁の並びを見て、「この白と黒が面白い形を作っているな」と思うなど、日常生活で白黒が作る形や模様が気になるようになったと言います。

かみきり虫の会員の作品。白と黒で表現している。

また、「切り絵は白黒が原点」と豊岡さんは言います。

「白黒がきちっと出来ないといくら色を付けても切り絵は上手くなりません。言葉は悪いですが、色を付けるとごまかしや逃げが出来ます」

展示用にカラー作品が多い豊岡さんですが、今も白黒作品は好きだと言います。

数年前家族旅行でアンコールワットに行き、その時の壁面をモチーフにした豊岡さんの作品

小さい作品は、1日中休み休みやって3日間、大きい作品になると2か月以上はかかるそうです。家族から「よく続くな」と言われるという豊岡さん。今まで、版画、油絵、パステル画などいろいろと挑戦しましたが、続いたのは切り絵だけだということです。

取材を終えて

一人一人の作品を説明する豊岡さん

展示会で一緒に作品を見てまわっていると、一人一人の作品のエピソードをする熱心に話す豊岡さん。その姿からは、およそ70代とは思えない熱量を感じました。確かに作品を見ると、それぞれモチーフの選定や色使い、細かさなど個性的な作品ばかりです。紙風船の切り絵に実際の紙風船を貼るなど遊び心のある作品もあり、楽しんで制作している様子がうかがえます。

かみきり虫の会員の作品。作品の中の紙風船は実際の紙風船を切って貼っている。

年齢関係なく楽しめる切り絵の世界、飛び込んでみるのも楽しそうです。

この記事の写真一覧はこちら