「パステル」と聞くと、画家エドガー・ドガの「踊り子」のパステル画を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。はたまた、子どもの頃、お絵描きの時間に使ったオイルパステルを思い浮かべる人もいるかもしれません。
パステルアートとはいったいどのようなものなのでしょうか?

今回は、出張型ワークショップ「なないろパステル」を行うパステルアート講師、岡山裕子さんにパステルアートの魅力について聞きました。

初心者でも楽しめるパステルアート

パステルアートとは、画材であるパステルを削り、その粉を指先やパフなどで塗りながら仕上げる絵のことです。アート初心者でも楽しめるものだと岡山さんは話します。

岡山さんの手のひらに並んでいる色とりどりの画材パステルを、カッターなどで削って粉にし、指先を使って描いたという作品を見せてもらいました。

アート初心者の筆者からすると非常に難しそうに見えます。

「簡単なのですよ。塗り絵に近い、といえるかもしれません。この『希望の丘』は初心者向けの絵で、まったくの初心者でも60分から90分ほどで描けますよ」と岡山さんは話します。

パステルアートで自分を好きになる

岡山さんがワークショップを運営する「なないろパステル」は、埼玉県三郷市内の交流センターや高齢者施設などで、ワークショップを続けて11年になります。参加者は、介護職の人が多いことも特徴の1つ。施設のレクレーションのためなど、実用性を求めてパステルアートを学んでいく人や、心の癒しのために参加する人、さまざまだといいます。描いた後は、自分が描いた絵を見て驚くと同時に、絵を通じて自分を好きになれたという人もいるんだとか。岡山さんは、なないろパステルのワークショップは「言語ではなく絵を通じた自己開示の場」であると話します。

「パステルアートは競い合うアートではない。入賞したい、誰かよりもうまくなりたいというものではなく、みなさん、ひたすら自分と向き合っている。自分の知らない自分と出会う人、今まで言えなかったことを、絵を通じてさらけ出す人、さまざまですよ」

そして、自分が描いた絵を分身のように感じ、自身のSNSのアイコンにする人も。自分の絵が好きになり、絵を通じて自分を好きになれたと話す人も多いそうです。

パステルアートで救われた過去

岡山さんがパステルアートを始めたきっかけは何だったのでしょうか。結婚、出産を機に、故郷を離れ、埼玉県で暮らすようになった岡山さんは当時とても孤独だったと振り返ります。

「私自身がパステルアートを始めたきっかけというのが、出身地の兵庫県から埼玉県に出てきて、周りに1人も知人がいなかったからなんです。そして、パステルアートの講師になれば、周囲の人とつながることができる。地域にもなじむことができる。人と出会える。とにかく“つながりたい”その一心でした」

岡山さんにとってパステルアートは、自分を好きになるためのツールであるとともに、人とつながる、触れ合うためのツールでもあったのです。

それから、周囲とのつながりを持ち始め、地域になじむことができた岡山さん。今、パステルアートを通じて、描いた人が「自分を好きになる」ための手伝いをしています。

パステルアートを教える喜び

最後に、岡山さんがパステルアート講師として喜びを感じる瞬間について聞いてみました。

岡山さんは「変化ですね」と語ります。
「人は成長するじゃないですか。絵を描いたら、絵を描く前よりも成長している。変化ですよね。私はその変化に立ち会うのが好きなのです」

これからも誰かの物語、誰かの成長、変化に立ち会いたいという岡山さん。

「みなさん、ワークショップの翌日、さらに翌日と経つごとに『自分で描いた絵がとてもよいものに見えてきました』とおっしゃいます。みなさん自分で描いた絵を通じて自分で自分を好きになる。自分を褒めてあげることができるようなのです」

岡山さんは嬉しそうに微笑みます。

「描きたい」と思ったらすぐに始められるというパステルアート。
パステルの粉を塗った自分の指先から生まれる世界に一枚だけのマイ・名画。
絵を通じて自分を好きになれる。久しぶりに自分で自分を褒める時間をつくってみませんか?

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