普段伝えられない『大人への想い』をカタチに。手紙を集める香川の高校生たちに迫る

普段伝えられない『大人への想い』をカタチに。手紙を集める香川の高校生たちに迫る

香川県高松市。日本一長いアーケードを擁する中心市街地を歩いていると、よく目にするものがある。それは、手書きで書かれた「想いの手紙プロジェクト」というポスターだ。いつも言えない大人への気持ちを書いた手紙を募集し、商店街に掲示するとのこと。地元の中高生有志が企画しているものだ。

どのような取り組みなのか、中心メンバーである高松高校2年の岡田彩紀(おかださき)さん、高松第一高校2年の安田美時(あんだみと)さん、高松桜井高校1年の山田紗菜(やまださな)さんにお話を伺った。

「想いの手紙プロジェクト」

(岡田さん)このプロジェクトの代表をしています。学校ではテニス部に所属していました。家でだらだらしているのが一番好きな時間です(笑)

(安田さん)副代表をしています。生徒会活動に取り組みつつ、軽音部でドラムを担当しています。あとはスポーツが大好きです。

(山田さん)先輩たちに負けじと営業を特に頑張っています。私もスポーツが大好きです。筋トレも!

安田さんが在籍している高校の校長先生と

どこにでもいる元気な高校生という印象の3人だが、なぜこのプロジェクトを始めたのだろうか。

(岡田さん)10代の私たちは、親や先生といった大人に対して、面と向かっては言えない想いをたくさん抱えていると思います。その想いを伝える機会も勇気もなかなかありません。そこでこのプロジェクトを始めました。

(安田さん)昨年夏に高松市で開催された中高生向け探究プログラム「せとうち中高生のための教育ミライ会議」に参加して、たくさんの社会課題にアプローチしている地元の先輩たちと出会いました。そこで、自分も周囲の人たちのために役に立ちたいという気持ちが芽生えました。

(岡田さん)プログラムの最終日に、自分たちがやりたいプロジェクトを考えて発表したのですが、そこで生まれたのがこの企画です。メンバーの1人に、親になかなか伝えたい想いが届けられなくて悩んでいる体験を持っていて、そこにみんなも共感しました。

たしかに、日々の暮らしの中でも小さな選択から、進路などの人生に関わる大きな選択まで、自分の意思と親や先生などの周囲の考えが合わないとき、我慢したり上手く伝えられなかったりすることは少なくないだろう。

(岡田さん)あえて手紙という手法にしたのには理由があります。手紙にはすごい力があって、紙に向き合ってペンを握ると、自分でも気づかなかった気持ちがすらすら出てきます。

(山田さん)言葉には形はないけど、書くことで自分の気持ちや言葉が目に見えるようになるのが手紙のいいところだと思います。今回のプロジェクトで、10代の気持ちが形になってたくさんの人に届くのが素敵だと感じてます。

メンバーによるMTG風景

高松市周辺の9校から10人の中高生が集まり、プロジェクトを進めている。チラシのデザインから、掲示場所の交渉、手紙を書くワークショップの開催などすべて自分たちで行う。プロジェクトを進める中で、地元商店街や大学生・企業などを巻き込み、資金面の支援やプロジェクトを進める上でのアドバイスなどを受けている。

(安田さん)うどん屋さんや塾、ショッピングモールや自分たちが通っている学校など10代が集まる場所に、チラシの設置やポスターの掲示をとにかく電話してお願いしました。許可をいただいたら、印刷したものを持って行くのですが、交通費がかけられないので歩いていきます。ある日には、6時間も歩いて回ってたこともありました。

(山田さん)私は地元の塾への電話を担当したのですが、最初の頃は原稿を読み上げるのに必死で、機械的な電話になっていました。先輩たちとロールプレイングをする中で、最終的には気持ちを込めて話せるようになりました。とても勉強になりました。

電話営業中の山田さん

(岡田さん)もっと断られるかと思いましたが、とっても歓迎されてびっくりしました。たくさんの大人の方に応援されてこのプロジェクトができています。

手紙は2月28日まで募集しており、高松市内に限らず県外や海外在住の日本人高校生からも手紙が届いているという。高松南部3町商店街各所において、3月10日から30日に掲示予定。23日にはトークイベントなども予定している。

ポスターと、掲示協力している塾の代表

10代のみんなへの想い

(岡田さん)見てほしいのは、10代ってこんなことを考えているんだよってところです。大人の皆さんにとって、そういう発見につながればいいなと思っています。

(安田さん)手紙だからこそ伝えられることがあると思います。手紙を書くことは、気づいてなかった自分の気持ちに自ら気づく機会にもなります。ぜひ10代のみんなに書いてほしいです。

(山田さん)手紙に書き出すことで、自分に向き合える良い機会になると思います。

(岡田さん)今回は10代から大人へだったけど、もっと多様な年齢、すべての人に、自分の中にある気持ちや周囲の人への気持ちに向き合う時間を作ることをオススメしたいと思います。わざわざペンを握って書くことは忙しい中でめんどうだと思うけど、ぜひ書いてほしいです。

手紙の募集要項は、地域で掲示しているポスターや、想いの手紙プロジェクトのInstagramアカウントでも案内している。匿名・代筆可能とのことだ。

手作りのポスター

最近めっきり書くことがなくなった手紙だが、平安の人々が和歌を贈り合い、新年の挨拶を年賀状にしたためたように、私たちは様々な思いを手紙にしてきた。一人一人の個性が現れる筆跡も趣がある。果たしてどんな手紙が集まるのか。そして、商店街に掲げられたメッセージを見た大人たちは何を感じるのか。これを機に10代と大人たちとでどのようなコミュニケーションが生まれるのか。今後の展開に目を離せない。

この記事の写真一覧はこちら