身長115cmの小さなモデル・俳優として多方面で活躍している後藤仁美さん(Instagram: chibita_115)。“ちびた”の愛称でも知られています。

仁美さんは、小人症(低身長症)の一種である軟骨無形成症という障がいを持って生まれてきました。軟骨無形成症では、成長軟骨と言われる部分の変化により、低身長や四肢の短さ、指の短さなどが引き起こされます。
身長115cmは6歳の子どもと同じくらいですが、胴体は一般的な成人女性とほとんど変わらず、腕や脚は6歳の子どもよりも短いという体型の特徴があります。

小さく特徴的な体型をもつ彼女は現在、モデルや俳優として多くの人に勇気や元気を与える仕事をしています。仁美さんに現在の活動に至るまでの経緯や思いについて話を聞きました。

活動のきっかけ

幼い頃からファッションが大好きだった仁美さん。当時、軟骨無形成症当事者の情報発信がほとんどなかったことから、日常を楽しく過ごしている様子や、自らのファッションを紹介するブログを始めました。「115cmちびたのミニマムライフ」。“ちびた”の愛称はこのときからのものです。「幼い頃から父が私のことをずっと『ちびたちゃん』と呼んで可愛がってくれていたことが由来です」と話します。

ある日、知り合いのファッションデザイナーから声を掛けられ、東京コレクションのファッションショーに出演したことがきっかけで、モデルとしての活動が始まりました。
その後、とある個展の打ち上げで隣に座った俳優さんから声を掛けられ、舞台に出演し、俳優としても活動することとなります。

舞台に立つ仁美さん(後藤仁美さんより提供)

「幼い頃から歌ったり踊ったりすることが好きで芸能界への憧れがあり、いつか挑戦したいと思っていました。ですが、テレビや雑誌で見るモデルさんや俳優さんはキレイで背が高くてスタイルが良い人ばかり。みんなと違う私はきっと受け入れてもらえないだろうな、となかなか前向きになれずにいて、自分の気持ちを抑えて諦めていました」と話す仁美さん。

舞台や映画などに出演するようになった今では「ステージに上がると、見られている嬉しさと自信を感じ、ワクワクします。特徴的な体型をいい意味で活かせていることも喜びです」と語ります。

立ってドラムを叩く仁美さん(後藤仁美さんより提供)

仁美さんはモデルや俳優の他にドラマーとしても活動しています。東京2020パラリンピックの閉会式でも演奏しました。ドラムとの出会いは10歳のころ。ピアノ教師をしていた母親の教室で発表会があり、ピアノの演奏に合わせてドラムを叩いたのが最初でした。

小さな身体でドラムを演奏するにはセッティングに工夫が必要で、どのようにセッティングすると自分のスタイルに合うのか、日々模索しているとのこと。「工夫しながら自分らしいパフォーマンスができるように心がけています」と仁美さん。パラリンピックの閉会式で演奏したときは、小さな身体が見えるように、立って叩くスタイルを見出したそうです。

日常生活の工夫

仁美さんが小人症であることで、日常生活を過ごすうえで大変なことを聞いてみました。

「軟骨無形成症は背が低く、とくに腕が短いので、コンビニやスーパーなどのお店で欲しい物に手が届かないことが多いです。『届かない』ことに加えて、何が売っているか『見えない』ことがかなり困ります。見えていたら『〇〇(商品名)を取ってください』と店員さんや、周りの方に頼むことができるのですが、見えないと『そこには何がありますか?』と聞くことになってしまいます。頼んで時間を取らせるのも悪いし、難しいなと感じています。また、セルフレジも届かないことに加えて液晶画面が見えにくいので、将来的に店員さんがいないレジばかりになると不便になるかもしれないなとちょっと心配しています」

その他にも満員電車に乗ったとき、人に埋もれて息がしにくい、吊り革に手が届かないのでつかまる場所がなく倒れそうになる、などの苦労があるそうです。そんなときは「できる限りラッシュ時間を避けたり、一緒にいる家族や友人に支えてもらったりしています。あれこれ大変と感じるよりも、その場面ごとで周りの人に助けてもらうことに感謝する方が多いです」と話します。

小さなキッチン(後藤仁美さんより提供)

また、仁美さんのInstagramの投稿には、小さなキッチンや電動で低い位置までおりてくる物干し竿などが登場します。

新居を建てる際に”なるべく踏み台がなくても生活できる家”を考えたそうです。
「踏み台を使うのは『自分に合っていないものに対して、しかたなくあり合わせで対応している』といえるかと思います。踏み台を頻繁に乗り降りし、移動することは結構大変で危ないです」

仁美さんは身長差がある旦那さんとともに生活しているため、二人にとって使いやすいように考えたそうです。

「一人で無理なく家事ができるようになったことが嬉しい」と語る仁美さん。

自分の身長に合ったキッチンのおかげで、踏み台を乗り降りしたり動かしたりしないで料理ができること、電動の物干し竿のおかげで洗濯が一人でできるようになったことがとても嬉しいとのこと。今では家事がとても楽しいそうです。

この体型は魅力的!

舞台やイベントなどで衣装を自前で用意する場合、仁美さんは一緒にデザインを考えて旦那さんが作った衣装を着ます。旦那さんは洋服のお直し屋さんで働いていた経験から、仁美さんの体型の特徴を活かし、より可愛く見えるように作っているそうです。

旦那さんが作った衣装を着る仁美さん(後藤仁美さんより提供)

日常の服は旦那さんが作ったものや、既製服を直したものを着ています。既製服を買う際は、必ず試着して、どこをどう直すか考えて購入しているのだとか。

旦那さんとの制作の様子(後藤仁美さんより提供)

二人で衣装のデザインを考えるようになって「この自分の体型がとても魅力的なんだと改めて気がつきました。自分の自信にも繋がっています」と仁美さん。

「こんな服を着てみたいとか、こんな感じの服は着られるかな?とか、一緒に考えることは楽しいです。そして、夫には自分にない技術面でのアイディアがあるので勉強になります。夫が『これ着たら可愛い!』と思って作ってくれることが嬉しいですし、ありがたいです」と旦那さんへの感謝を聞かせてくれました。

自分を愛して

軟骨無形成症の特徴的な体型がゆえに、マイナスな印象でじろじろ見られることがあり、嫌な思いもしてきた仁美さん。しかし、活動を通して今ではポジティブな視線を感じ、声を掛けてもらうことが増えたといいます。

「応援していると言っていただくと素直に嬉しいですし、続けていてよかったなと思います。特に、今まで物珍しく見てくることが多かった小学生くらいの子から温かい言葉をもらうととても嬉しいです。私が活動することで、世の中の人が小人症・軟骨無形成症の人を見慣れて、当たり前に存在していることを知ってもらえたらいいなと思っています」と語ってくれました。

また、自身の身体について「この身体で生まれ育って生きてきて、せっかく周りと違うのだからそれを活かしたい。違うことを貫き、楽しみたいです」と話す仁美さん。

「周りと違うことで生きづらい部分があっても、そのことで自分自身を嫌いになってしまったら何もできなくなってしまいます。私は、好奇の目で見られ続けて疲れたり、身体が小さいことで不便を感じたりすることもあるけれど、この身体が好きです。今、同じ軟骨無形成症で悩んでいる人がいたら『そのありのままの姿でいいんだよ』って伝えたいです。大変なこともあるけど、周りと違うことは仕方ないし、周りを頼りながら自分を愛してほしいなという思いです」

SNSで自分の姿を出して発信し始めた頃は、正直どう思われるのか怖かったとのこと。「思っていたより応援のコメントが多くて驚いていますが、とても勇気をもらっています。私に対するポジティブなコメントを見て、同じような小さい人の励みになれば嬉しいなと思います」と仁美さん。

「実は、ブログを始める数年前に父が亡くなりました。父には『周りの人を明るく照らす存在になりなさい』と幼い頃から言われていました。亡くなったときはまだ学生で、自分の将来がまだはっきりしていなくて、父に活躍している姿を見せることができませんでした。今、父に、明るく前向きに活動している姿を見ていてもらいたいなという思いがあります。小さく生まれた私を、両親がありのまま愛してくれたことが今活動する上での自信に大きく影響していると感じています」

仁美さんは今後の活動について、小さな体型を活かしてモデルや俳優としてもっと頑張りたいと話してくれました。

「さまざまな作品に出演して『小さな俳優いいじゃん!』って世の中の人に認めてもらえるようにお仕事を続けていきたいです。昔から、興味があることにはまずチャレンジしないと始まらないと思って行動しています。そして、小人症・軟骨無形成症の人がより豊かな生活ができるように発信を続けていきたいです」

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