香川県に住む美術家の千葉尚実さんによるバッグブランド、YAGULT(ヤグルト)。その新しいライン、YAGULT+(ヤグルトプラス)が2023年2月にお目見えします。バッグの生地に描かれている色鮮やかなイラストや文字は、障害者施設に通う人たちによるもの。このバッグの製作に至った過程を、千葉さんに聞きました。

YAGULT主宰で美術家の千葉尚実さん

「美術家として制作活動をしながらバッグメーカーでも10年以上働いていて、バッグを作る技術はあったんです。そこで約1年前に自分のバッグブランド『YAGULT』を立ち上げました。一方で、美術家の活動の一つとして『高松市障がい者アートリンク事業』というものにも10年前から参加していて。障害者施設に行って、皆さんと一緒に絵を描いたりする活動もしていました」

絵ではなく文字ばかりが書かれたバッグもあります(写真提供:千葉尚実さん)

「高松市障がい者アートリンク事業」とは、障害福祉サービス事業所などへアーティストを派遣し、芸術活動を通して障害者とアーティストが長期継続的に関わることで、創造性を育み社会参加の促進を図ろうという高松市の事業。千葉さんはこの事業に10年前から参加し、現在は3つの施設に通っています。

「最初は障害者との接し方もまったくわからなくて戸惑いましたが、一人一人の特性がわかってくるにつれて徐々に対応できるようになりました。絵を描いているときの様子も、黙々と没頭していたりおしゃべりが多かったりと、その人や施設によってもさまざま。彼らの描く絵はもちろん発する言葉も私の想像を超えていて、新たな刺激をもらえています」

施設の利用者が描いた絵を使った帆布のバッグ。柄も形も、一つとして同じものがなく、すべてが一点ものです(写真提供:千葉尚実さん)

障害者施設に通って一緒に芸術活動をするなかで、この絵はバッグにできそうだな、この部分を使ったらおもしろいバッグになりそうだな、と思うようになった千葉さん。施設に大きな無地の帆布を持ち込み、そこに自由に筆を走らせてもらいました。

(写真提供:千葉尚実さん)

「三角や丸など同じパターンを描く人もいれば、文字ばかりを書く人もいます。絵や文字の大きさも私の方からはとくに指示せず、好きなように描いてもらっています。YAGULT+に関しては私自身の作家性は出さないようにしていて。美術家としてというより、プロデュースというか編集者的な立ち位置を意識しています」

「これは新聞の占いコーナーの文字を書いているそうです。切り取り方や組み合わせが意表をついていますよね」と千葉さん

帆布に直接描いてもらった絵をそのままバッグにするので、バッグはどれも一点もの。バッグの形も絵に合わせて決めるため、真四角や真ん丸のバッグばかりでなく、少しいびつな形のバッグがあるのも特徴です。

「香西」とは、高松市にある地名。本人のこだわりのある言葉を書いたり偶然目や耳に入ってきた言葉を書いたりとさまざまです

「できるだけ絵を生かすような形にしたいと思っていて。大きな花を描いてくれたら、その花の形に合わせたゆるやかな曲線で布を裁断します。そういう自由度の高い作り方が彼らの絵にも合っているんじゃないかなと思います」

制作風景。帆布に直接アクリル絵の具で書いていきます(写真提供:千葉尚実さん)

「バッグって、身に着けるもののなかでも色や柄で遊びやすいアイテムだと思うんです。だから、これが障害者の描いた絵だからということではなく、普通にカラフルでおしゃれなバッグだなと思って手に取ってもらえたらと思います」

布いっぱいに書かれた文字。「この布を眺めながら、どんな形のバッグにするか構想を練ります。製作時間の多くは構想に費やしていますね」(写真提供:千葉尚実さん)

本格的な販売はこれからですが、「ある程度売れるようになったら、売り上げの一部は画材などとして施設に還元できたら」と千葉さん。YAGULT+の商品は、2023年2月26日まで高松市の商業施設「瓦町FLAG」で行われる高松市障がい者アートリンク事業の展覧会で初お目見えし、その後ネットショップで販売予定です。

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