長崎県出身のアーティスト、綾海(あやみ)さん。旅をする先々で譲ってもらった廃材を絵の具に変えて生み出す、廃材循環アート(=エコアート)に取り組んでいます。エコアートで表現するのは、環境問題へのメッセージではなく、廃材とそこに関わる人たちのストーリー。その活動に込める思いを、取材しました。

2021年12月に、初めて子どもたちとワークショップを行った

捨てられるものを絵の具に循環

鹿の角、竹、カイコのふん、しじみの殻にみかん。綾海さんがこれまで絵の具にしてきた素材は、すべて“捨てられるはずだったもの”を、譲り受けたものです。

「循環_鹿」 鹿も自分たちも自然の一部であることを表現

絵の具に変える工程も、すべて自らの手で行います。例えば固形の物質なら、砕いて染料で染めて乾かし、膠(日本画に使われる接着剤のようなもの)と混ぜて完成させます。自然のものを使うため、どのような色合いが出るかは未知数。このため、素材によっては焙煎したり、クエン酸などの成分を加えてみたりと実験を繰り返し、いい色合いにするためのデータを取っていく、という研究者のような一面も。

絵の具を作っている様子

また、カイコのふんなどの色が出る素材の場合は、原料だけなく、染料としても用いるケースもあります。

伝えたいのは人々の思い

綾海さんがエコアートを始めたきっかけは2020年秋。森の中に絵を描く機会があり、森を汚さないようにと絵の具の成分を調べたところ、石油などの資源が使われていることや、動物にとって有害なものが含まれていることに気づきました。また、同時期に環境問題のシンポジウムに参加したことなどを通して、「地球にとっていい材料で絵が描けないか」と考えるようになったといいます。

「サンチャイルド」 宮城県石巻市の石を使って、未来を築く子どもを描いた

エコアートを始めた当初は、自分が世の中に伝えたいメッセージを作品に込めていたという綾海さん。しかし、そこで一つの壁に突き当たります。

「竹炭を絵の具にしたことがあるんですが、それは竹林整備をしなければならない地区があるという課題を伝えようとしたものでした。ボランティアで成り立っている現状を解決したいと思っていたんですが、『竹を全部伐採しろ』と自分が言っているような感覚になったんです。竹があることによるメリットなどを知れば知るほど、『片方の意見でしかないのかも』って気づいて。『私が現状を解釈して伝えるよりは、それぞれの立場の人にフォーカスして、正しく発信というほうが、見る人に考えさせるきっかけが与えられるのかも』と思うようになったんです」

絵の具の素材や背景にある課題を取材する綾海さん

こうして、作品を通し、生産者や企業、地域の人たちの思いを伝えることで、人々に社会課題について考えるきっかけを提供するという、アーティストとしての活動の軸が、固まっていったのです。

「私が触れ合った人たちの思いを伝える一つに私の絵があるという形なので、メッセンジャーみたいな立ち位置です。本当に伝えたいのはその人たちの言葉だから、作品自体に私がいなくてもいいかなって思っています」

「momiji」 害獣をまちの財産にと活動している、岩手県大槌町のジビエ加工者の思いを表現

日本各地でエコアート作品を

たくさんの人たちに会って話を聞き、その思いをエコアート作品にして発信していきたい。そのために、綾海さんが2022年に挑戦するのが、キャンピングカーに画材を積み込んでの、日本一周プロジェクトです。3月に東京からスタートして約1年をかけて日本全国を回り、各地の廃材を絵の具に変えてアート作品を制作。終了後は展示会をする予定です。

日本一周プロジェクトの資金の一部はクラウドファンディングで募った

「2022年当時の教材みたいに数年後なったらなって思うんです。取り上げた課題が数年後には解決していてもよくて、何年前こういう現状がありましたというものが、私のアート作品を調べれば分かるように」

そんな綾海さんの将来の目標は「お金を稼げる画家になること」。その理由は、稼いだお金で廃材を高く買い取れるようになるためにと、地球環境についての研究費を支援するためだそうです。「自分の欲しいものは、特にないです」と笑って答えてくれた綾海さんの目は、清らかに透き通っていました。

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