まるで美術館! 岡山・真庭市の「版画寺」毎来寺の住職に聞くアートと人生観

まるで美術館! 岡山・真庭市の「版画寺」毎来寺の住職に聞くアートと人生観
天井に並ぶ鮮やかで味のあるタッチの版画の数は122点にも及ぶ

岡山県にある人口5万人弱の真庭市。県北の山間部にあり鳥取県境に接する自然豊かな小さなまちに、ニューヨーク、ロサンゼルスなどで個展をした住職がいます。その名は岩垣正道(いわがきしょうどう)。毎来寺(まいらいじ)に入山以後、独学で半世紀近く版画を作り続けた人です。そんな住職にアートと人生観について聞きました。

版画が取り持つ「縁」が生んだコラボレーション

観光地で有名な真庭市の蒜山(ひるぜん)にある、ヒルゼン高原センター、ジョイフルパークの社長を務める石賀さんから声を掛けられたのは2021年の9月。蒜山の四季をテーマに、オリジナルデザインのバンダナ制作の依頼が舞い込みます。

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「断ったらおもしろくない」と、コラボレーションの依頼は断らず版画が取り持つ縁を大事にするのが正道住職の流儀。 「人がやらないことをやるから貴重だと思ってもらえる」という考えのもと、依頼から約10か月後の2022年6月に、オリジナルで描き下ろした版画(原画)とバンダナが披露されました。

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その後も版画が取り持つ縁は続きます。

バンダナの制作を依頼した石賀社長の紹介で、GREENable HIRUZEN(グリーナブルヒルゼン)のショップでグッズを販売する、岡山県児島発のデニムブランドJOHNBULL(ジョンブル)ともコラボレーションすることに。Tシャツのデザインは既存の版画から4種が選ばれました。 普段着が作務衣(さむえ)の正道住職としては、デニムブランドとTシャツを作ることはシンプルにおもしろいと感じたと話します。

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好きなことを見つけなさい

果たして、正道住職を動かしているモチベーションは何なのか。

35歳で入山して以来、半世紀近く。住職は「好きなことで生きていく」というポリシーに辿り着いたと言います。

「好きなようにしていい」と前の住職に言われて入山した毎来寺は荒寺でした。荒れた寺を前にして考えたのは、シンプルに寺をキレイにすること。その手段として選んだのは、学生時代に触れていた油絵の経験でした。

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デザイナーやイラストレーターに興味があったことから、独学で版画を学び、般若心経を刷り、参拝者に渡したいと考えたそうです。

「良寛、種田山頭火、尾崎放哉といった、歌人や俳人が歌った和歌、俳句を題材にすることもあれば、自分で考えた自由律俳句を詠む時もあります」

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図案は頭で考えるという正道住職。

「サイズにもよりますが、1枚の版画を制作するのにおよそ1週間程度掛かりますね。彫る時は、ゆっくりではなく極力早く彫ることを心掛けています。その方が意気が良いし絵柄に鋭さが出せるんです」

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好きなことを一途に続けてきた住職だからこその説得力のある言葉。描きたいネタは大学ノートに書き溜めているそうで、次回作のテーマもある程度決まっているそう。

「小説や映画のように構想に何年も掛かるものもあれば、瞬間的なひらめきで生まれるものもありますね」

一石を投じる大事な「よそ者」の視点

この真庭市という田舎を舞台に版画というアートで地域活性化に取り組む正道住職は「『よそ者』だから、地元のスゴいところが見える部分もある」とも言います。

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また、いくら自分が熱中していることでも「興味のない人に掛かったらダメ」とも言い、如何にしてアンテナを張っている人と出会える「運や縁」を持っているかも大事な要素だと話します。

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「いつだか、近所の方に『住職は文化を運んで来てくれた』と言っていただけたことがあります。東京で住職をしていたら版画はやっていなかったでしょうし、坊さんにならなければ尚更ですね」

「私も『よそ者』ですからね。お寺を舞台に地域おこしをしているようなものです」と、地域おこし協力隊でもある筆者に語り掛けてくれました。

版画の作品はネットでも公開されておらず、パンフレットも作っていないとのこと。毎来寺を訪れることでしか味わえない感動を体験してみてはいかがでしょうか。

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