「コロナ禍の影響でアルバイトが減った」「バイト代が半額になった」。経済的困難を強いられているそんな学生たちを支援しようと、香川大学が2022年6月から無料の食事提供をスタートさせている。カレーやうどんの無料提供日を決めて、事前に申し込んだ人数分を準備。多くの学生が支持するこの企画の背景には、前年を踏襲せず「学生のためになること」をイチから設計した課長の姿があった。

続々とやってくる学生にカレー提供

正午過ぎ、申し込んでいた学生が応援カレーに列を作った

7月6日正午過ぎ、学生会館外のオープンスペースに学生が集まり始めた。「学生応援カレー」と大きく書いた看板と受付の机が準備され、大学職員らがスタンバイ。「サイズは?」と聞きながらカレーをよそう男性が、この支援活動を企画した成重伸昭さんだ。職員歴20年以上という学生生活支援課長である。

成重さんが、ご飯にカレーをかけたら出来上がり

「学生の声を聞いたら、必要な支援が見えました」。きっかけは2021年5月に実施した、全学生対象の生活アンケートだった。回答率52%。アルバイトについて質問すると「コロナ禍で減った」という学生が約6割。そして、節約するのは「食費」が突出してトップだった。「それなら、食事のサポートをしよう」。担当副学長もすぐに承諾し、翌6月からワンコイン100円の学生応援弁当を数量限定で提供。合計6000食を販売した。

ワンコインから、無料に踏み切ったワケ

学生応援弁当に貼った「学長のイラスト付きシール」(左)と1年生に配布した「希少糖入りキャラメル」。ちょっとした遊び心をプラスする

好評を博した弁当だったが、成重さんにとって完璧ではなかった。「100円でも経済的に厳しい」という切実な学生の声が、根強く残ったのだ。では、すっきり無料に踏み切ろうと決意して、学内で相談したところ「やってみたらいいよ」という反応。

前年に引き続き日本学生支援機構の助成金を確保したほか、資金サポートする香川大学校友会も増額を約束した。

予算総額300万円を準備して、学生負担0円の支援に乗り出す。メニューはカレーとうどんに絞り、調理を担当する大学生協スタッフの負担を軽減した。「学生のために」をキーワードに、誰もが快く引き受けてくれた。

また、「授業があって行けなかった」「先着順で弁当を買えなかった」という学生の声をヒントに、開催日を月曜から金曜まで分散させ、事前申し込み制を導入した。

学生にサイズを確認しながらカレーを手渡しする

そして6月中旬の2日間、まずは「1年生応援うどん」を計600食ふるまった。7月下旬にかけての5日間は、全学年対象の「学生応援カレー」を各日700食ほど準備している。

前期の最終日にあたる7月22日は、事前申し込みなしで、食べに来てくれた学生全員にカレーを提供する予定だ。

「まず行動してみよう」の気持ちで

学生の反応は上々。「ありがたいです。一人暮らしなので、おばあちゃんが野菜を送ってくれたりするのですが、やはり無料は嬉しい」と話す1年生男子。1年生の女子3人組も、テーブルでカレーを囲んで「超美味しかった」「物価も上がっているし、本当に助かります」と笑顔だった。

学生も「めっちゃ美味しい」と応援カレーを味わった

こちらの女子は「野菜も無料で持って帰れるんですよ」と別のサポートがあることを教えてくれた。「もらいましたか?」と聞いたら、袋いっぱいの野菜を見せてくれた。とうもろこし、なす、きゅうりなど。学生会館の入り口に段ボール30箱ほどが並んでいて、野菜や果物を自由に持ち帰ることができる。提供者は、高松市社会福祉協議会などさまざまだ。

困っている学生を応援しようという大人の気持ちが、カレーや野菜に姿を変えている。香川大学は近年、地域の魅力発見プロジェクトなどキャンパスを飛び出した学びを進めてきた。「新聞報道で学生の取り組みが初めて分かることもあるほど、色々やっていますね」と成重さん。地域に入っていき、愛されている学生たちだから、支援も続々と届いているのではないか。

「行動しなければプラスは生まれません。『まずやってみよう』という雰囲気で職員もアイデアを出しています。そして、前年よりも良い内容にしていかなければ、やる意味がないというくらいの気持ちです」

告知ポスターは成重さんが作成した

成重さんは、茶目っ気のある笑顔を見せて締めくくった。「来年も私が課長でいる限り、新しい支援をやっていきます」

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