2020年、コロナ禍で孤独感を感じる外国人留学生が増えていた。大学はリモート授業となり、留学生同士の交流もできず、帰国もままならない。その孤独を食い止めると同時に、子どもたちの「ひとりぼっち」の食事を少しでも減らし、温かい食事をみんなでお腹いっぱい食べることを目的とした子ども食堂がある。松山さかのうえ子ども食堂(愛媛県松山市)だ。留学生が自国の料理を作り、毎週さまざまな国のメニューが食卓に並ぶ。

今回は、食堂の代表である山瀬麻里絵さんに、この食堂を立ち上げたきっかけ、解決したかった課題、今後目指している姿などについて、詳しく話を聞いた。

松山さかのうえ子ども食堂 代表の山瀬麻里絵さん

留学生の孤独を目の当たりに

山瀬さんは東京に住んでいた頃、留学生の就職活動支援や、ミャンマーからの難民が日本で生活できるようになるまでを支える仕事に従事。その後、日本語教師の資格を取得し、フリーランスの日本語教師として活動。2020年、地元・愛媛に戻った。その年、日本は新型コロナウイルスの脅威に晒される。

「私はインド人が作るカレー料理店に通っていて、そのお店には留学生がたくさん来ていたんです。そこで、コロナ禍でなかなか留学生同士の交流が持てないこと。さらには、大学がオンライン授業に切り替わり、キャンパスにも通えないこと。母国にも帰りにくいことなど……多くの悩みを聞きました。留学生の孤独を目の当たりにした瞬間でした」

山瀬さんは「コロナで孤立しがちな留学生同士を繋ぐ方法はないか」「日本人と留学生が、一緒にできることはないか」と考えていた。そんなとき、自宅近くで子ども食堂を見つけた。「孤食をなくすための子ども食堂」と、自分が目指していることがつながり、すぐにクラウドファンディングをスタートした。それが、2020年10月のことだった。

最初はクリスマスにひもづけ、12月26日に外国人が自国の料理をふるまう子ども食堂の開催を目指した。クリスマスにサンタさんに会えなかった子どもたちにも、楽しい思い出を作りたい。そして、留学生をはじめとした外国人も、みんなと楽しい1日を過ごしてほしい。35万円を目指してスタートしたこのチャレンジには、目標金額以上の支援が集まった。

クリスマスにちなんだ子ども食堂の様子

高校生・大学生ボランティアが活躍

そして2021年3月3日、この取り組みを継続させるため「松山さかのうえ子ども食堂」としてオープンさせた。現在は、毎週水曜日と、第二土曜日に開催している。

場所は、知人の紹介で知り合った不動産会社が、自社のモデルルームを貸してくれた。シェフとなる留学生は、愛媛大学の国際連携課の紹介で集まった。

この子ども食堂の大きな特徴は、高校生・大学生が中心となって運営していることだ。インスタグラムの投稿などを見て応募してきた学生ボランティアで、毎回10〜15名が集まる。役割は明確にせず、それぞれができることに取り組んでいる。

所属している通信制高校の学生からは「自分の居場所が見つかった」との声も挙がった。

弁当を盛り付ける留学生と学生ボランティア

「最近は食堂開催後、みんなで自主的に集まって反省会や振り返りをしているんです。たくましくなったなあ……と感じています」

また、この食堂で山瀬さんが決めているのは「母子家庭限定」などの制限を設けないこと。経済的困窮ではなくても、人それぞれ悩みを抱えている。

「うちに来てくれる人は、何かを求めている人だと思うんです」

以前、毎週子ども食堂に通っていた親子がいた。しばらく来ない期間があったが、あるとき突然訪れ「実はあのとき、事情があって家にいるのが怖かったんです。そんなとき、ここが心の支えになっていました」と打ち明けた。

山瀬さんは、食べ物だけではなく、人の優しさを感じたり、居場所だと思えたりする場所にできれば、と考えている。

これからも、目指すのは「場づくり」

オープンから1年以上が経ち、これまでに、韓国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、エチオピア、インド、セネガル、南アフリカ、フランス、ガーナ、ガボンなど、多くの国の料理が振る舞われた。

「それぞれの母国の料理なので、調味料も珍しく、食材も指定です。だから、他の子ども食堂さんよりも、材料費は圧倒的に高いと思いますね(笑)」

新型コロナウイルスの感染状況にもよるが、シェフ以外にも留学生が5〜6名参加している。毎週、テイクアウトを含め80食ほどを提供。子どもだけで来るケースも少なくない。

セネガル料理を作るマリエメさん この日のメインは「カントネスライス」

留学生からは「水曜日が楽しみ!」「みんなを家族みたいに思っている」などの声が。また、利用している子どもたちからは「いつもありがとう」「大きくなったら、子ども食堂をやってみたい」という声も聞かれた。

そして2022年4月1日、NPO法人化した。団体を存続させていくための決断だった。

今後、山瀬さんが目指しているのは、
・外国人の活躍の場所を創ること
・子どもたちが「自分は愛されている」と、実感できる場所となること
・学生の成長ステージとなること
の3つだ。

「学生たちが社会人になり、成長して帰ってきて、山瀬の考えは古いからと追い出されることが夢です(笑)」

今日も山瀬さんは、留学生と子どもたちの居場所を守るために、奮闘する。

写真はエチオピアデーのお弁当 メインは「チキンシチュー」

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