ユニセフが2020年に報告した、38のOECD/EU諸国の子どもの幸福度ランキング(※)によると、総合順位で日本は20位という結果になっています。ランキングは「精神的幸福度」「身体的健康」「スキル」の3分野で構成されていて、このうち生活満足度や若者の自殺率が関係する「精神的幸福度」だけを見ると、日本は37位(ワースト2位)となっています。
このランキングで、精神的幸福度、そして総合順位でも1位になっている国がオランダです。果たして、オランダと日本では何が違うのか。オランダ人の夫を持ち、現地で娘と3人で暮らす、通訳・翻訳家の吉見ホフストラ真紀子さんに、オランダと日本の教育の違いについて聞きました。

(※)詳細は、ユニセフのレポートカード16『子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か』に記されています。

オランダの小学校の特徴

吉見さんによると、オランダの小学校に宿題はありません。そして民間の塾もないそうです。高学年でも午後2時に学校が終わり、子どもたちは小学校から帰るとすぐ遊びに行きます。

コロナ禍で流行っていた遊び。石に絵を描いて公園や森に隠します。その石を見つけるといい事があると信じ、見つけた子はまたその石を隠すそう。(吉見さん提供写真)

また、小学校の授業は、日本のように一斉授業ではなく、学習進み具合によって分かれています。最初に授業の説明を受けると自分で学習を進めていける子のグループは自分たちでどんどん進めます。1週間で取り組むカリキュラムの量が決められており、自分で今日はたくさん進めようとか、今日は調子が悪いから少しだけにしようなどと、自分で計画していくのが特徴的です。

オランダでは幼稚園の年齢から、子どもたち自身で1週間の計画を立てて学習に取り組みます (吉見さん提供写真)

授業の内容が理解できない時は、留年を選択する子もいます。特に小学校の低学年にいるそうです。吉見さんは、留年を決めた子の保護者と、次のような会話をしたと言います。

「『長い目で見ると今の1年なんて、たいしたことない』とおっしゃるんですよ。自分の居心地がいいとか、楽しいという気持ちがないと続かない。とにかく学校は楽しく行かないと、と思っているそうです」

オランダでは、小学校を卒業するとその後、専門職につくための教育を受けるか、大学準備のための中学教育を選ぶのか決めます。そして、そのための進路相談に親は入らず、先生と子どもの2者で決めるそう。専門職の進路に進んでも、途中で大学のほうへ行きたいと思えば、進路変更ができるとのこと。最近は、大学へ行かせたいという親も増えてきたそうですが、無理して進学するよりも、子どもに合った学校へ行くことの方が大事だと考えられています。

オランダで高学年になると、12月5日の聖ニコラスデーに(日本のクリスマスのような日)くじを引いて当たった友達にプレゼントをします。その友達の好きなものや趣味を考えながら作成し、その中に5ユーロ程度のプレゼントと詩を作って送ります。(吉見さん提供写真)

日本の小学校で感じたこと

吉見さんは4月から6月上旬まで、家族と日本に滞在していて、その間娘は日本の小学校に通っているとのこと。授業の進め方や内容も違う中、日本の学校で苦労していないのでしょうか。

「最初の2週間くらい漢字が分からないことや、少数点や立方体(英語では小数点はカンマ、立方体はキューブという)など日本語訳された言葉が分からず苦労していましたが、今は楽しんで行っています。子どもは柔軟ですね」と吉見さんは話します。

日本の小学校での娘の楽しみは、給食だそうです。オランダは給食がありません。家から弁当を持っていくそうです。

「お弁当といっても日本のように豪華な物ではなくサンドイッチを持っていきます。きゅうりやトマトが入っていたら『豪華ね』と言われます。ですので、オランダの人は好き嫌いが多いように感じることがあります。日本の給食はメニューも豊富で、色々な食材が食べられます。先日、給食が余っていたらじゃんけんして柏餅をもう一つ食べたと言って喜んでいました」

また、日本の小学校はオランダから見て、音楽や体育などの副教科が充実しているそうです。オランダでは、下校時間が早い代わりに副教科の時数が少ないとのこと。下校してからサッカーをしたりテニスをしたりします。

オランダのプール授業(吉見さん提供写真)

「発表会や劇などのイベントもそうですが、(授業の中で)クラスみんなでというのはなかったので楽しいですね」

学校の掃除も、日本独特の文化だと話します。

「自分で使った場所を掃除すると気を付けて使うようになると思います。物を大事にするからいいと思い、オランダでも提案したら、『時間がもったいない。掃除をしてくれる人(学校で雇っている)がいるからいいじゃない』と言われました」

子どもが幸せを感じるには

吉見ホフストラ真紀子さん

日本とオランダの両方を知る吉見さんから見て、日本の子どもの幸福度を上げるために、オランダから何か参考にできることはあるのでしょうか。吉見さんは「文化が違うので、一概には何がいいとは言えない」としながらも、2つの例を教えてくれました。

「オランダはパートタイム王国と言われています。夫婦が1+1になるような仕事ではなくて、0.75+0.75で1.5になるような働き方をしています。(その作った時間で)日常の会話の中で、色んな会話をします。子どもの考えていることを一対一で話を聞くなど日々の積み重ねが自己肯定感に繋がっていって、幸せにつながるのかなという気がしています」

「それに、オランダの親は子どもの自慢をします。親が自分を肯定してくれるととってもポジティブになるし、頑張ろうと思う力になります。子どもは、親が自分を受け入れてくれると嬉しいですよね」

日本の親は、子どもをほめられると謙虚さから、つい「ここは出来ないところなのよ。」と、けなしてしまうことも多いように感じます。オランダと同じことにはできないとしても、まずは親が「私の子はすごい!」と心の中でも自慢することから始めてみてもいいのかもしれません。

【吉見ホフストラ真紀子さん】
通訳・翻訳家。日本で大手通信会社に入社、世界をつなぐ仕事をしたいという思いから、退職しフランスでMBAを取得。国際企業でマーケティング・ビジネス戦略に携わる。MBA取得の学校で出会ったオランダ人の夫と結婚し、娘と3人でオランダで生活している。
書籍「世界一幸せな子どもに親がしていること(リナ・マエ・アコスタ&ミッシェル・ハッチソンチョ著、日経BP社)」を翻訳。

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