オランウータンのあみぐるみ「オラン」。つぶらな瞳、ふわふわの毛並み、丸いおなかとおしり。今にも動き出しそうな愛くるしさです。約6年前に、常識にとらわれない作風で世界の注目を集めるあみぐるみ作家・光恵さんが編み上げました。

絶滅危惧種を編む

オランと光恵さん

光恵さんは作品を制作する際、その動物の形態や生態、とりまく環境について動画や図鑑などで調べ、ひと目ひと目編み上げていきます。オランを制作する過程で、オランウータンが密輸や生息地の森林伐採、地球温暖化が原因ともいわれる森林火災などにより、絶滅の危機に瀕していることを知った光恵さん。

それ以来、あみぐるみを通し、オランウータンを取り巻く環境や絶滅危惧種について知ってもらおうと活動中です。

「故郷の森は破壊されている。ちょっと地球にいいことを探しているよ」、そんなオランの優しい口調で自然の大切さや環境問題を発信するSNS、売上の一部を森林保全団体へ寄付するためのグッズ販売などに取り組んでいます。

提供:光恵さん

また、絶滅が危ぶまれるオランウータン以外の動物たちのあみぐるみも制作しています。

パンダやライオン、マレーグマなど、普通、抱くことは叶わない絶滅の危機にある動物たちが、そこにいるかのような存在感を放ちます。あみぐるみという手で触れられる存在となることで、増す愛しさ。「この子たちを守りたい」という感情が生まれ、自分が地球のためにできることを考えさせられます。

マレーグマ 提供:光恵さん

ニューヨークをオランと歩いて

2020年1月、光恵さんとオランは全世界の作家が出展するあみぐるみ展示会を機に、アメリカのニューヨークを訪れました。この時の展示会のテーマは「絶滅危惧種」。滞在中、光恵さんは勇気を出して「PROTECT OUR FOREST」と書いたTシャツをオランに着せて、ニューヨークの街を歩きました。

提供:光恵さん

「気味悪がられてひそひそ話をされたりもしましたが、Tシャツのメッセージを読むと『ごめんなさい』という表情になり、最後はその方たち、仲良くオランと写真を撮ってくれました。あみぐるみは世界共通語であるとともに、人と人とが言葉の垣根を超えて繋がるきっかけをつくってくれます」

光恵さんは、この印象的なオランとの旅をはじめ、地球のために編み物にできることをまとめた写真集「HOPE 編み物でちょっと地球にいいことを。」を、2022年2月に発行しました。編み物は手で触れられるアート。写真集も、手で触れられる・めくる楽しみがある冊子にこだわりました。

『HOPE 編み物でちょっと地球にいいことを。』

表紙では、ニューヨークのタイムズスクエアにある人気の観光スポット「レッドステップ」の中にちょこんとオランが座っています。国際自然保護連合(IUCN)による絶滅のおそれのある野生生物のリストの名前は「レッドリスト」。オランウータンから人間たちへの「僕たちの存在に気づいて」というメッセージが感じられる表紙です。表紙カバーを外すと、緑色の美しい森が現れます。

光恵さんが暮らす岡山県浅口市にある金光図書館に寄贈されました。

オランの写真はもちろんのこと、アメリカ在住のアーティストによるメッセージ「地球のために編み物でできること」や、野鳥を救う手編みの鳥の巣の編み図もあり、編み物をキーワードに絶滅の危機に瀕した動物たちや地球環境について考えさせられる写真集です。売上の一部は森林保全団体に寄付されます。

癒しとともに、地球の自然について考えるきっかけを与えてくれる「オラン」。光恵さんが編むことで表現したように、地球に対してできる「ちょっといいこと」が人それぞれにあるのではないでしょうか。

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