香川県高松市在住のイラストレーター、オビカカズミさん。身近な果物や野菜を、カラフルな色合いや優しいタッチで描きます。2021年6月には、伊勢丹新宿店が行う「伊勢丹 夏の贈り物」のキービジュアルを担当し、お中元カタログの表紙デザインやポスターなどに採用されました。

お中元カタログの表紙も飾りました

身近にある果物をモチーフに

「ぶどうは私にとって、『夏になったらぱくぱく食べる、いつもそばにある夏の果物』。カラフルなイラストにしたかったんです」

伊勢丹新宿店のお中元カタログ

食べ物が好きなオビカさんは、野菜や果物をモチーフに選ぶこともしばしば。今回のカタログの表紙やポスターには、シャインマスカットやピオーネ、巨峰などが、色とりどりに描かれています。みずみずしいぶどうの1粒1粒を見つめていると、味覚が口の中に再現されるように感じます

ぶどうの一粒一粒、全て描き分けています

「見た瞬間にぶどうと分かるよう、ぶどうの断面や枝、みずみずしさを加えたりして、ブラッシュアップしました。デザイナーさんから『いいものにしたい』という思いが伝わってきて、オーダーがありがたいと感じました。いい関係でいられた人との仕事が実った作品で、嬉しいです」

今にたどり着くまでの出会い

オビカさんは地元の短期大学を卒業後、地元の会社でイラストレーター兼デザイナーとして経験を積み、2006年にフリーのイラストレーターとして独立しました。独立には、当時勤めていた会社の上司の応援がなくてはならなかったと、オビカさんは振り返ります。

そしてオビカさんにとってのもう1つの大きな出会いが、2010年に開催された瀬戸内国際芸術祭でした。
「それまでは『地元には何もない』と思っていました。しかし、瀬戸内国際芸術祭に訪れた人たちが、香川のよいところをたくさん聞かせてくれて、『そこまで褒めてくれるのなら、ちょっと地元を描いてみようかな』と、考えを変えてみることにしました」

「身近にあるものを描こう」色とりどりの愛らしいイラストが描かれています

こうしてオビカさんは、地元・香川県の風土や食べ物に目を向けるようになり、“自分の身の回りにあるもの”を描きはじめました。その後、今の作風へとつながっていき、憧れていた東京のギャラリーでも「讃岐」をテーマにした個展を開催しました。

憧れのギャラリーで個展を行った時の様子

手書きと現地を大切に

オビカさんが大事にしているのは「自分が見ていないもの、知らないものは描かない」ということ。実際に見て知りたいという欲求を大切にし、資料集めだけに留まらず、可能な限り現地に行きます。そこで確かめた空気感や食べ物の味を、イラストに込めています。

『JPN47 にっぽん絵図』

そんなオビカさんが手がけた作品の1つが、2021年2月出版のイラストマップ『JPN47 にっぽん絵図』です。3人のクリエイターによって47都道府県の特長が描かれており、オビカさんはイラストレーターとして地図部分を担当しました。

『JPN47 にっぽん絵図』を手掛けたクリエイター。左はデザイナーのタケムラナオヤさん、中央がイラストレーターのカジハラキミ さん、右がオビカカズミさん。

「47都道府県全ての地図を鉛筆で下書きをし、それから万年筆で書き起こします。その後パソコンでスキャンして、色を付けました。地元・香川を描く時は、ため池や田んぼの多さに驚きました。『高速道路に沿っているのは、コンクリートジャングルだろうから』と考えて、東京の中央線辺りは微妙に色を変えています」

『JPN47 にっぽん絵図』香川県

2016年から始まったこのプロジェクト。コロナ禍の影響もあって全ての都道府県は訪れられませんでしたが、資料を基に、見えない鉄道網や断層の存在などを意識しながら地図を描き進めました。出張時、近所のカフェに行く際もスケッチブックを必ず持参。一筆でも、一筆でも、と頑張って描き続けた5年の集大成でした。

「手書きでは、思いがけないアイデアが“どんどん・するする” 出てきます。思考が止まり、関係ないことまで出てくる面白さがありますね」

5年の歳月を経て完成した『JPN47 にっぽん絵図』は、日本全国47都道府県を見開き2ページ各1県で紹介

これからも、手書きのぬくもりと、現地で感じる空気感や味を大切に。イラストに思いや発見、驚きを込めながら、オビカさんはイラストレーターとして描き続けます。

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