瀬戸内海に浮かぶ香川県の小豆島。ここに多聞寺という古いお寺があります。小豆島の玄関口・土庄港から車で20分ほどの場所にある、肥土山の裾野に位置しています。

この寺で4月25日から29日まで、ジュエリー・写真・デジタルグラフィックの3ジャンルのアーティストによるグループ展示会「キメラ展」が開催されています。

「キメラ展」展示風景

メンバーの1人、写真家の野村充史さんは語ります。

「僕たちは作品展示のため、2020年12月にニューヨークに行くはずでした。しかし、新型コロナウィルスの影響で渡米できなくなり、発表の機会を奪われて……でも、『やっぱり展示がしたい!』と奮起したんです」

写真家・野村充史さん

ニューヨークでの展示チャンスを奪われて…

野村さんは、同じ小豆島に住むデジタルグラフィックデザイナーの西村まゆこさんから、アーティストグループ・JCATに誘われました。JCATはニューヨークに事務所を構える、日本人アーティストの発掘を目的とした団体です。2019年12月、西村さんはJCAT主催のニューヨークでの展示会を経験し、大きな感動と刺激を受けていたのです。

デジタルグラフィックデザイナー・西村まゆこさん

野村さんの他にも、西村さんは東京で活動するジュエリーデザイナーの照沼大さんをJCATに誘い、3人が集まることになりました。

ジュエリーデザイナー・照沼大さん

「1年後の2020年12月、ニューヨークで展示ができる!」
海外でアーティストとして名乗りを上げられる、それも若手アーティストの聖地ともいえるニューヨークで。大きな目標ができて3人は盛り上がり、作品制作への情熱も湧き上がりました。

しかし新型コロナウィルスの感染拡大のため、渡米が不可能になりました。

「ニューヨーク行きを目指して写真を撮りためたり、気持ちを高めたりしていたのに、発表の機会が閉ざされ、本当に愕然としました。まるで、はしごを外されたような気分」
野村さんは、あの時の残念な気持ちを思い出します。

同じ思いを持つ仲間と「キメラだ!」

「それからずっと、ふつふつとした気持ちを抱いていたんですが、2021年3月に西村さんから『野村さん、小豆島のどこかで展示できないかな?』って相談を受けました。実は、2人も僕と同じように、展示ができない悶々とした気持ちを1年たっても持ち続けていたんです」

西村さんからの相談に、野村さんはまず「僕も参加したい!」と意思を伝え、3人は再び合流することに。東京にいる照沼さんとはオンラインでつながり、企画を進めます。

展示会名のアイデアを出し合う中、照沼さんから「キメラ」というワードが上がります。“3つの違うジャンルが1つの場で融合する”という意味が込められたこの言葉を、野村さんも西村さんも大絶賛。

「キメラ」には、“3つの違うジャンルが1つの場で融合する”という意味が込められている

「1人での展示ではなく、3人で展示を行う。その意味が『キメラ』という言葉に集約されていると思うんです」

以前、東京のデザイン事務所でコピーライターとして活動していた野村さん。この『キメラ』に、3人の思い全てが込められ、同じ方を向いたと確信しました。

「発表できる喜び」をかみしめる

東京から小豆島に移住して10年以上となる野村さんは、島のことをよく知っています。そんな野村さんが展示会場として相談したのが、小豆島霊場第46番・多聞寺。ここは演奏会やコーラス会、英会話教室などを開催したりと、島の人たちが集まる場にもなっていました。

小豆島霊場第46番・多聞寺

住職から快く了解を得て、展示場所を提供してもらえた3人。自分たちのオリジナリティをここでどう表現するか、作品と向き合い始めます。それは、ニューヨーク行きが白紙になったときから蓄積されていた思いを、前向きに転換できる日々。クリエイティブなエネルギーが生まれる日々でもありました。「展示ができる、発表できる喜び」をかみしめながら、3人は準備を進めました。

壁や柱に傷をつけないよう、展示方法も工夫

お寺の壁に傷をつけることはできないため、展示方法にも工夫を凝らします。そして短い準備期間だったにも関わらず、展示を見事に完成させました。

「キメラ展」展示風景

1つ1つに意味を込めた、照沼さんのシルバーと天然石のアクセサリー。

照沼さんのジュエリー。全てが1点もの。

鋭い視点で場の空気を切り取り、自己表現へとつなげる野村さんの写真。

野村充史さんの作品

透明感ある世界観が伝わる、西村さんのデジタルグラフィック。

西村さんのデジタルグラフィック

それぞれの作品が、島の風を受けながら、輝いています。

僕たちは、ここでコトを起こしたよ!

野村さんは、東京や高松での展示経験はあったものの、地元・小豆島での展示は初めてでした。西村さんは「大好きな小豆島で展示ができる喜び」に感謝し、照沼さんは「お寺という神聖な場所に、自分の作品が飾れる」ことにご縁を感じたといいます。

「次は巡回展をしたいね」と3人

「僕たちのように、チャンスを奪われてしまったアーティストに伝えたい。『やろうよ、僕たちはコトを起こしたよ!』って」(野村さん)

ニューヨークでなくても今ここでできることを「やろう!」と集まり、やり遂げた3人。その表情は、すがすがしさに満ちていました。