大学教授が教える! 街歩きを楽しくする3つのポイント

1. 自分なりの着眼点をつくる

「『ブラタモリ』っていう番組があるけど、タモリも最初は坂や線路(に注目していた)でしょ」

人気テレビ番組を引き合いに教えてくれたのが、まずは自分なりの着眼点をつくるということ。つまり何かひとつ、こだわりを持つことで、なんとなく歩いていた街が違って見えてくるというわけです。

華々しい感謝祭のはずが……【撮影/ゼミ生】

銭湯の煙突、色あせたポスター、奇妙な英語名が冠されたマンション――ポイントは人それぞれですが、街角を観察する理由を見出せれば「2個、3個とポイントが増えていく」と話す先生。さらにこうも続けます。

「近所の『○○第一マンション』から『○○第十五マンション』までまわったら『霊場巡り』完了。そう考えればご利益もあるかもしれへん」

いまはなかなか訪ねにくい「お遍路」も、とらえ方次第では足元に広がっている。目的地という「点」に至るまでの「面」としての街には、小さな達成感を得る手段がある。大阪・野田のななとこまいり(※)のような民間信仰にも通ずる「継続できるシステム」が、街歩きには備わっているのです。

※ななとこまいり/大阪市福島区野田界隈に祀られているお地蔵さんを7ヶ所まわると、願いごとがかなうとされる民間信仰

2. 道草をする

名は体を表す【撮影/永井良和】

通勤・通学は、いわば「ショートカット」。遅刻することがないように、最短経路を選択するのが普通です。そんな合理的な移動から解放されて、曲がったことのない角を曲がったり、初めての店に入ったりすれば、いつもと異なる体験ができるのは当然のこと。物珍しい光景や食べたことのない食材に出会えるチャンスも広がるというわけです。

「(普段の移動の仕方から外れれば)自分の知ってること以上に世の中は広かったり、深かったりって思いは持てるって感じやね」

学生時代にフィールドワークを始めて40年以上、さらりと語られた言葉にも説得力が感じられます。

「ワンコ」、驚きの100円【撮影/ゼミ生】

また、たとえ毎日のように通う道でも、二度見したり、振り返ったりしてみれば思わぬ「ネタ」が見つかるとも先生は言います。

「毎日、通勤・通学してる道っていうのは、行きはこう見る、帰りはこう見るで両方知ったようなつもりになってるんやけど、振り返ると全然表情が違う」

道草こそが、街歩きのベース。曜日や時間帯によっても、街が見せる顔は変わってくるはずです。

3. カメラに頼りすぎない

慣れがもたらすタイムスリップ【撮影/ゼミ生】

現在、先生が指導する学生たちは、中高生時代からスマホに触れてきた世代。カメラの枚数制限が事実上なくなり、撮影という行為が日常化した結果、アングルや構図、さらには被写体のディテールへの意識づけが薄くなっている感触があるそうです。

「ほんとはスケッチがしたいんよ。スケッチであれば、カメラで撮れる細部を省略できるわけでしょ。自分の目でこれが大事だってことを描いて、それ以外は捨てられる。写真ってそうはいかへんやんか」

ポイント1のこだわりを表現するには、自分にとっての着眼点、すなわち細部をいかにクローズアップするかが重要。ファインダーからのぞくすべての事物が映り込んでしまうカメラとは異なり、スケッチであればより集中力を持って対象と向かい合う必要があるわけです。

文字訴求と図画訴求【撮影/ゼミ生】

実際に絵を描くかは別にして「そういう手段があることは知っておいてほしい」と先生。その認識があれば、スマホで撮った1枚の写真もインスタ映えとはまた違う意味を持つことになることでしょう。なお余談ですが、先生は未だに携帯電話を持っていないとのことです。

SNS世代の知恵が、新しい街歩きの形をつくる

先生が教えてくれたポイントは、どれもすぐに実践できるものばかり。これらに加えて、自らの発見を誰かに褒められたり、じっくり意見交換したりすれば、喜びは倍加するといいます。対面でのやりとりが、SNS上での「いいね!」に勝る広がりを持っているのは自明のこと。

天神橋筋商店街に何を見るか【撮影/ゼミ生】

そもそもゼミ生との街歩きも、互いに異なる視点から街を見つめ、意見を交わすところにその醍醐味があるといえます。しかし、コロナ禍のために情報共有の機会は大幅に制約を受けることになりました。

「(コロナに)とどめを刺されたと見られるんやけど、一方でこれは次のステージに行くための試行期間かなと、多少ポジティブに考えています」
「それ(打開策)はもう僕の世代の知恵じゃなくて、スマホ世代のアイデアによるのかな」

たとえ1人で街を歩いたとしても、膝を突き合わせた会話ができなくても、突破口はきっとはある。お付き合い的な「いいね!」の応酬に取って代わる策は、「非接触型」のコミュニケーションに親しんできたスマホ世代こそが考えうるはずです。ペンとノートに並々ならぬこだわりを持つ“アナログ派”名物教授からの問いに、あなたはどう答えますか?

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