先生のなり手が減っている!?

「公立小学校教員競争倍率が過去最低」2021年2月に発表された調査結果です。文部科学省は、志望者の減少は教育の質の低下につながると、採用の間口を広げるなどの対策を打ち出しています。

2019年度の公立小学校の教員採用試験競争率は全国平均で2.7倍。最も低い佐賀、長崎の両県では1.4倍となりました。倍率低下の原因は、大量採用の世代が定年退職を迎えたことで、採用者数が増加していることに加え、受験者数が減少していることにあるといいます。そして受験者数減少の背景には、2020年から必須となった外国語授業やICT化、主体性を育む教育プログラムの導入に加え、生徒の多様化など、求めるミッションの増加があると考えられています。

参考 文部科学省 2021年2月2日公表「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況について」より

 全国初の試み

そんな中、香川県高松市で「放課後ちょいスクール(Choice,Cool!)」というユニークなネーミングの学校がスタートしました。これまで3回開講されたこちらのスクールは、全国初の試み。午後4時に始まって、4時半に終了。参加者は高松市内の公立小・中学校の先生です。これまで先生の研修は、県や市の教育委員会が個々に計画し、夏休み中心の実施でした。

初回の「放課後ちょいスクール」は、2021年5月、高松市内の10校30人の参加者でスタート。3回目となる6月12日には、13校55人に。増えた理由は口コミだそうです。

起案者である高松市総合教育センター 河田祥司さんに聞きました。

5月、高松市総合教育センター 河田祥司研修係長が企画意図を伝える

「このスクールは、参加したい人がどこにいても気軽に参加できるところがポイントです。“ちょい”には、気軽に……という以外にも、Choice(選ぶ)、Cool(洗練)という意味を持たせました。研修が負担になっているとの声が多く、研修時間を減らす傾向にありますが、一方で、意欲的に学びたいと考えている人も多く、そのような先生方が主体的に参加できる環境を整えていく必要性を感じていました。課せられる研修のイメージを変えて、現場のニーズに応えながら、柔軟でのびやかな双方向の学びの場の創出を目指しています。コーディネータ役の葛西指導主事にも、『普段のような堅苦しくない雰囲気で』と話しています」

コーディネーター役の葛西指導主事が明るく語り掛ける

 オンラインでチャンスが広がる 

このスクールは、オンラインであることが大きな強みです。移動時間が不要、そして会場、駐車場の確保やそのための連絡、事務作業が、一切いらなくなります。参加人数の制限をする必要もありません。

第一回 5月12日のオンライン画面

そして、参加者がテーマを提案できることがもう一つの利点。変化の激しい教育現場の問題解決にスピーディーに対処できます。

初回に出されたテーマ(企画)案

河田さんは言います。

「先生どうしの横のつながりも期待しています。30分のスクールの後、希望者はそのまま残って質問ができます。感想や日頃の悩みを言い合えるようになれば、出会いの中で情報共有をして、また、新たな発見があるかもしれません。得意な先生が見つかって、その人が講師になるということが起きるかもしれません。放課後に高松市の先生方がオンラインでつながり、顔見知りが増える。偶発的な出会いや学びが次なる可能性につながるのが理想の形ですし、そのための場づくりを工夫していきます」

若い先生が自由に質問できる雰囲気(高松市立屋島西小学校)

「自分で答えを作る」主体性を尊重するスクールへ

スタートした5月、河田さんの元には、全国の教育関係者から「定期的ではないけど、うちでもやっている」「うちでもやりたい」と反響が寄せられました。

放課後30分。学びたいテーマの時だけ参加すればよいこのスクールは、先生の主体性を育てるもの。今までにない枠組みだけに、意識していないと、無意識に安定感のある従来のやり方に戻ってしまうといいます。

6月16日は先生たちの悩みの種、ICT授業の進め方がテーマ

「一回目は動員もかけず、ありのままから始めました。純粋に学びたい人が集まる場にしたいと思っています。答えが自分で作れるとわかれば、不安が期待に変わります。その第一歩こそ、主体性を尊重できる環境づくりです。今までにあった、しがらみや思い込みにとらわれることなく、正解を教えてきた研修から脱却する為に、放課後ちょいスクールで環境を作っていきます。“高松から始まった”と言わせたい。それが働く先生方の誇りや愛着を生み、モチベーションを上げます。結果、子どもや保護者、地域に広がると信じています」

主体性のある人材を育てるには、まずは先生から。

高松市総合教育センターのトライアル「放課後ちょいスクール」が、全国の研修を変える布石になるか。

取り組みの輪は少しずつ着実に広がっています。

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