結婚は「する・しない」だけではなく、「どうするか」という選択の連続でもあります。
漫画『事実婚の理由』は、キクチ(@kkc_ayn)さんが、自身の結婚をめぐる葛藤と選択を描いた実録作品です。
前作『20代、親を看取る。』や『父が全裸で倒れてた。』で家族と向き合う姿を描いてきたキクチさん。本作ではテーマを変え、自身のパートナーシップと結婚観に焦点を当てています。
「結婚して子どもを産む」が自然だった幼少期



キクチさんは、幼い頃から「将来は結婚して子どもを産む」という人生設計を、ごく自然なものとして思い描いていたといいます。結婚後は女性が夫の姓に変えるのが当たり前。疑問を持つこともなく、そういうものだと思っていました。
しかし、実際にパートナーと出会い、結婚を現実的に考えるようになると、少しずつ気持ちに変化が生まれます。
自分のフルネームへの愛着


キクチさんには、恋愛中に「もしこの人と結婚したら」という前提でフルネームを想像する癖があったそうです。その中で、過去の恋人の姓を自分の名前に当てはめたとき、「あれ? 字面や響きに違和感がある」と感じた経験がありました。
そこから、自分の現在のフルネームの文字の並びや響きに強い魅力を感じるようになります。単なる慣れではなく、「自分の名前」として積み重ねてきた時間や家族とのつながりが、その中に含まれていると気づいたのです。
「名字を変えたくない」という思いは、制度への賛否というよりも、個人的な感覚から芽生えたものでした。
「その数字と私の意思は関係ない」
ちょうどその頃、社会では「選択的夫婦別姓」という言葉が話題になっていました。キクチさんは制度そのものに強い賛否の立場を持っていたわけではありません。ただ、「名字を変えたくない」という声には共感できたといいます。
そんな中で、自分が行き着いた一つの形を描こうと思い、漫画にしたのが本作でした。
はじめてパートナーに「名字を変えたくない」と伝えたとき、「なんで? 日本の〇%は女性が名字を変えてるよ」と返されたそうです。その言葉に少しイラッとしながらも、「その数字と私の意思には何の因果関係もない」ときっぱり伝えました。
話し合いを重ねるなかで、実はパートナーも「自分も名字を変えたくない」と考えていたことがわかります。そこから、法律婚と事実婚の違いを調べ、メリット・デメリットを整理しながら検討を進めていきました。
最終的に、「自分たちの関係性なら事実婚で問題ない」という結論に至り、届けを出さないパートナー関係を選ぶことに決めました。
事実婚を選んで感じたこと
実際に事実婚という形を選んでみて、良かったと感じているのは、お互いに名字を変えずにいられること。その一点だとキクチさんは語ります。それ以外の生活は特に変わっていないといいます。
一方で、法律婚ではないことによるデメリットに直面する可能性も見据えています。ローンの審査や、病院での家族同意書の扱いなど、今後課題に直面する場面もあるかもしれない。そのときは、その都度対策を考えていくつもりだといいます。
家族やパートナーの親の反応は、「2人で決めることだからいいんじゃない?」というもので、特に大きな反対はありませんでした。かなり珍しいケースかもしれないと振り返ります。友人や知人の中には、「私も名字を変えたくなかった」「羨ましい」といった声もあったそうです。
違和感を無視しないという選択
本作を通して伝えたいことについて、キクチさんは「自分の中の違和感を無視しないでほしい」と語ります。
違和感を口にすること自体は、何も悪いことではない。たとえ相手と意見が合わなかったとしても、その中で自分が納得できる形を、広い視野で模索していくことが大切なのではないかと考えています。
『事実婚の理由』は、特定の制度を推す物語ではありません。結婚という枠組みのなかで、「自分たちは何を大切にしたいのか」を問い直した一つの記録です。
結婚やパートナーシップの形が多様化する現代において、自分の価値観に正直でいるという選択。そのプロセスそのものが、多くの人にとって考えるきっかけになっているのかもしれません。
