2011年に設立された、香川県高松市・坂出市を中心に活動している社会人劇団『株式劇団マエカブ(以下、マエカブ)』。

2023年4月、劇団を運営する香川県で唯一の会社(株式会社ARTFIT)として法人化した。
地域に求められる演劇を実現するため、演劇事業と子ども向けの体操スクール事業とを合わせて行っている。

今回は劇団立ち上げの経緯と、2023年9月16日(土)・17日(日)に開催される演劇フェスティバルについて、主宰の岡田敬弘さんに話を聞いた。

主宰の岡田敬弘さん(株式劇団マエカブ提供)

劇団立ち上げの経緯

演劇は非効率で、時間と労力に見合った対価なんて絶対にもらえない。
そう思い、一度は離れた演劇だった。しかし、今後どういう人生を歩もうかと消去法で考えていたときに、損得なしでやる意味のあることに、たまたま演劇が残ったという。

「嫌な部分も多いものだけれども、それを前向きに続けるにはどうしたらいいかっていうふうに考えたときに、やっぱり企業と同じように利益を残すっていう、そういう経済観念みたいなものが一番、劇団という組織には足りてないんじゃないかっていう問題提起から株式会社劇団をリリースしようとしたんです」

本当に株を配る訳ではないので、そのまま(株)劇団という名前は付けられなかったそう。しかし、既に他の劇団からはマエカブさんと呼ばれていたので、それがそのまま名前になった。

「目指したのは持続可能な演劇。続けていくには、ちゃんとした作品を作って、ちゃんと収穫して、ちゃんとお金を残さないといけない。そこで演劇をもっと身近なものにしていこうというのが一つ方向性としてあります」

本格的な衣装と迫力ある殺陣(株式劇団マエカブ提供)

マエカブでの岡田さんは、脚本・演出・プロデューサーと様々な役割をこなす。

「演劇って色んなものにくっついていける柔軟性があると僕は見ています。地方の劇は基本的に作・演出がいて、自分の作品を作りたいから活動している。僕は必ずしも、僕の作品をやらなければいけないと思ってはいなくて。もっと演劇を見る人が増えたらいいという考え方でスタートを切ってたので、やる場所に合わせて芝居を作る。誰のための演劇なのか、何が大事なのかを考えてます」

坂出市制80周年を記念して市教委が主催した本公演では、坂出市の特産品・サヌカイトを物語に取り入れた。
これまで、うどん店やバー、お祭り会場のステージなど、ホール以外での公演も数多く行ってきている。
12月には新たな取り組みとして、琴平の表参道で回遊型の演劇祭を企画中だ。

「今、民間企業とのコラボやタイアップなど、演劇で収益を得ていけることに、もう一歩踏み込んでやっていけるような流れがきている」と岡田さんは話す。

プロジェクションマッピングを使った2.5次元舞台を演出(株式劇団マエカブ提供)

マエカブ演劇フェスティバル

マエカブが本公演の他に毎年企画しているのが、高松城の披雲閣(国重要文化財指定)を芝居小屋に変えて開催される「マエカブ演劇フェスティバル」だ。
2023年も全国から24の劇団が集まり、6つのエリアで同時多発的に短編の芝居を公演していくというスタイルのまさに演劇フェスだ。

「演劇を身近にしようっていうので公演場所を探していた時に、城使えるけどどう?っていう話をいただいたことがきっかけで。それはまあロマンがあると。それで見学に行った時に、うちだけだったら広すぎて使いきれんでもったいないよねって。それで各部屋で違ったことをして、弾き語りとかカポエラとか、香川県の文化芸術祭みたいにしようという方針になりました」

しかし、補助金のためのプレゼンで、劇団がやる意味がわからないと言われてしまった。

「それはイベント会社がやることじゃないかって言われて。確かに一理ある。うちもできれば作品を作ることに集中したい。どうしようかなと思ったときに、うちにしかできないようなフェスにすれば良いと思って」

そこから、他の劇団を呼ぼうということで、繋がりのあった劇団に声をかけた。
演劇祭という形で、年々出演団体が増えていき、タイムスケジュールが作られ、チケットで見歩くことができる形が出来上がった。
スタンダードなものから、一人芝居、大道芸系など、さまざまなスタイルを楽しむことができる、まさに演劇フェスだ。

マエカブ演劇フェスティバル(株式劇団マエカブ提供)

ユニークなのは、出演している劇団も自分たちがやっていないときは、他の劇団のお客さんになることだ。

「劇団員にとっての全国大会とか研修だったりする感じかなと。みんな楽しいから来てくれているのでそんな難しいものではないですけど」

とはいえ、お客さんからの投げ銭が一つの評価として返ってくるので、それは劇団にとって良い経験になる。

今年も人気俳優の所属する劇団、知名度の高い劇団、演劇大会で優勝している劇団など、選りすぐりの演劇人が集まる。

普段は演劇は縁遠いという人も、出入り自由のフェス会場であればハードルが下がる。
好きな劇団を見つけてもらうことも、演劇が身近になる一つのきっかけだろう。

マエカブ演劇フェスティバルは、2023年9月16日(土)・17日(日)の2日間開催される。

この記事の写真一覧はこちら