「一般社団法人がんサポートナース」の代表である片岡幸子さんは、看護師として30年間病院やクリニック、保育園などで勤務してきた。入院したがん患者や家族の話を聞き、もっと早く正しい知識や心のケアを受けていたらと感じることが多かった。その経験を経て現在は、地域で緩和ケアを提供できる看護師を育て、がんと診断されたその時から住んでいる地域で気軽にケアが受けられる環境を作っていくために活動している。

がん患者の言葉が転機に

片岡幸子さん

看護師となり、若いときからがん患者のケアをしたいと思っていた片岡さん。念願が叶い、40代で千葉県にある病院の緩和ケア病棟立ち上げに携わり、2年間勤務。その後、横浜の緩和ケア病棟で4年間勤務してきた。

「働きづめで、実は49歳の春に体調を崩してしまったんです。振り返ると、よく眠れていませんでした。休職して、薬でよく眠れるようになり、体調も数日で良くなりました」

その休職中に、その後の人生を変える出来事があった。がん患者が集う会に参加した際、同じテーブルについた6~7人の女性患者に「今までで、1番辛かったのはどんな時でしたか?」と質問したときのこと。

「皆さん『がんと診断された日でした』と口々に言われました。1人くらい抗がん剤が辛かったいう方がいるんじゃないかと思ったので、驚きました。理由を聞くと、がんと診断されるとは思わず、頭が真っ白で先生の話も半分以上覚えてない、この先どうしたらいいのか不安ですごく辛かったと。相談相手も友達くらいしか思い浮かばず、ラインすると2週間既読スルーになったり、ネットで検索しても自分に何が当てはまるのか分からず余計不安になったり、当時のことを思い出すと今でも辛いと話されていました」

その出来事がきっかけで、「これでは、緩和ケア病棟に戻っても、診断されたばかりの方たちには何もできない」と思い、退職することにした片岡さん。

障害児居宅保育の訪問看護で働くかたわら、ブログやメルマガで緩和ケアについての発信を始めた。がん患者さんの相談を受けたり、トークイベントを開催したりと活動が広がっていき、2019年10月、「一般社団法人がんサポートナース」を設立するに至った。

がんサポートナースとは

新潟県五泉市の「がんカフェこころ」での講演

がん患者はいろいろな情報を探していて、ブログやホームページ、口コミで相談に来る人もいるという。そのほかにも、入院中に連絡をくれた人、家族からの問い合わせなどさまざま。医師から、がんが治ったと言われた途端「再発したらいけない」と不安になり、問い合わせる人もいるという。

片岡さんは「がんサポートナース」として、対面・電話やオンラインで、そんな人たちの相談に乗っている。具体的には、がんと診断された人やその家族への不安に寄り添い、その人たちに必要なサポートを行っている。また、早期緩和ケアに関する啓蒙活動を行っている。

「がんサポートナースは、がん患者さんが家族や仕事、今後のライフプラン、病院の医師や看護師に気軽に相談できないプライベートな悩みを相談できます。また、がん治療が一段落しても、その後も何かあれば気軽に相談できる存在です」

がんの知識、緩和ケアを知ってほしい

三重県 紀宝町地域医療シンポジウム2022での特別講演

一般の人も含め、医療関係者であっても「緩和ケアを間違えて認識している人が多い」と片岡さんは語る。

「終末期になってからの関わりだと思っている方が多いです。緩和ケアは、がんと診断された時から始まります。なので、本来の緩和ケアを理解してもらえた時は、やりがいを感じますね」

片岡さんの今後の目標は、がん就労支援に取り組む会社を増やしていくこと。一般企業の社員が、がんと診断されても、がん治療をしながら就労を続けキャリアを積める体制や、社員同士の協力のもと、がんの人も働き続けられる形を作りたいと話す。また、社員のサポートや、管理職の相談にも乗っていきたいという。

「実際のところ、産業医だけでは対応しきれない実情があると感じているため、企業向けにがん就労支援を行っていきたい。小・中学校など学校に対しても、がん教育をできたらと思っています」

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