子どものころってこんなに暑かったかな? こんなに海の潮位は高かったかな? なんてことを考える今日この頃。子どもの時と目線が違うからなのか、それとも、環境が変わってしまっているのか。
今回は、こんな疑問に答えてくれるような事業に取り組んでいる人の1人として、JICAの草の根技術協力事業「カンボジア・トンレサップ湖における水上集落住民参画型プラスチック汚染対策事業」に携わっている築地淳さんに話を聞いた。
自身が何者なのか自己紹介するのにも一苦労するくらい経験豊富な築地さんの半生を振り返りながら、現在の取組みを紹介する。

異なる環境、異なる文化で生きること

青年海外協力隊時代、バヌアツにて

築地さんが海外に興味を持ったのは大学生の頃。日本語が通じ、周りには同じ文化で育った気の知れた仲間がいる。そこで生きることは居心地が良かった。その反面、この環境に生きる自分に甘えのような感覚を抱いていた。いつしか言語も文化も違う環境の中で自分は生きていけるのか、自分という存在を異なる環境で生きてきた人に認知してもらえるのか、それを確かめたいという衝動を抱えていた。

大学卒業後、製薬会社に入社、岡山県に配属となり、営業マンをしていた築地さん。築地さんの入社した会社には、留学制度や海外勤務などの選択肢もあったが、海外に行く機会をずっと探っていた築地さんの目に、JICA海外協力隊参加の支援制度が留まった。

この制度を使って、JICA海外協力隊に行こうと思い、上司に相談したところ、制度は確かにあるものの、実は社内でまだ誰も使ったことがない制度だと分かった。初めての事例となった為、社内各署を巻き込んで一騒動ありつつも、制度を利用して会社を休職することができ、製薬会社社員というバックグラウンドと関連性が強い、感染症対策の隊員としてバヌアツに派遣されることとなった。

青年海外協力隊時代、バヌアツの景色

自分の足りないところを教えてくれた

現地では世界保健機関(WHO)のフィラリア対策のプログラムで、主にコミュニティ活動に従事、蚊に刺されないような啓発活動や住民啓発に取り組んだ。現地語(ビシュラマ語)を習得し、現地の人たちが集うところに通い、現場の人々に認知され、そこで生きていくことができることは確認できた。

しかし、製薬会社の営業マンとしての経験はあったが、協力隊活動では社会調査手法や公衆衛生・疫学に関するスタンダードを知らないところからのスタートで苦労した。長年、WHOなどの国連機関、援助機関等と活動してきた現地の人々のほうが専門的なことをよく理解しており、現地の人たちから自分の足りないところをたくさん教わった。

この経験を踏まえ新たな目標や方向性が見えてきた。帰国後、社会人学生として、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科疫学・予防医学教室に入学し公衆衛生や疫学調査法、統計学などを学んだ。

物事を批判的に吟味すること、科学的妥当性を重視し、因果関係を推論すること等の基本的な考え方などは、今の仕事に十分生かされている。更に、大学院卒業後に入職した環境省では、気候変動や循環型社会などについての専門性も深めていった。

3Rに関する日中韓三カ国セミナーに参加、2011年

住民に寄り添い、一緒に取り組んでいく

現在は岡山大学のプロジェクトを含め、5件のプロジェクトに開発コンサルタントとして携わっている。

岡山大学のプロジェクトでは、先日カンボジア・トンレサップ湖に出張した。トンレサップ湖にはたくさんの水上集落があり、30万人近くの人が湖の上に住んでいる。水上集落ではごみの収集サービスなどもないため、集落の人たちは湖にごみを捨てるのが習慣になっており、プラスチックごみの量は一日約10トンに上ると推計されている。

一方で、悪臭、漁業への影響、健康被害への懸念など、問題意識を持っている住民も多い。湖に捨てられた一部のプラスチックごみは、湖内に留まらず、メコン川を経て海に流出する可能性があり、これは現在、世界的な問題となっている海洋ごみ問題に直結する。

この問題に対して、住民参加を通じて、湖へのごみ投棄行為を改善するのが、今回のプロジェクトの目標だ。湖の魚は生活の糧であり、住民の8割は漁業に従事しているという。湖と共に生きる水上集落の住民たちが、自分たちの課題を自分たちで改善していこうとする姿勢が大切になってくるだろう。

今回の滞在では湖の魚料理もいただいたという。塩を振ってグリルしただけのシンプルな料理。ものを持たない水上生活での最大限のおもてなしだ。

トンレサップ湖、水上レストラン、バット・サンダイ地区、2022年

人のやる気がエネルギー

こうしたプロジェクトに共通するやりがいは、外部から関わる自分が提供できるアイデアや機会を現地の人々が最大限に活用してくれるようになること。築地さんが一番うれしいのは現地の若い人のやる気を感じた時だという。日本の知見を共有しつつ、現地の人にオーナーシップをもって自分事として捉えて行動してもらう。

「端的に言うと、僕たちができることは機会を提供すること。その機会を最大限利用してもらうための最大限の工夫をすることが僕たちの役目」と築地さんは語る。

水上集落はこれまで様々な機関や団体の支援を受けてきた。プロジェクトが終了すれば続かなくなることもしばしばあったという。今回の渡航で住民たちから、「この活動をプロジェクト終了後もどうやったら続けて行けるか一緒に考えたい」と言ってもらえたそう。

住民への敬意も忘れず、しっかりと背中を押していく。ほめて伸ばすスタイルは製薬会社時代に培ったもの。築地さんの人生と住民の関わりが、トンレサップ湖の廃棄プラスチックの問題解決に一石を投じていくことを期待したい。

トンレサップ湖、水上レストラン、バット・サンダイ地区、2022年

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