瀬戸内国際芸術祭の会場の一つである玉野市宇野で、全国のアーティストによる展覧会「瀬戸内ゴミンナ〜レ!!」(主催:京都大学RE:CONNECT)が3月15日まで開催されます。制作総指揮は、「宇野のチヌ」「宇野コチヌ」で知られる「淀川テクニック」の柴田英昭さん。展覧会ではアーティストが漂着物などゴミを素材に独創的な作品を生み出すほか、ワークショップ参加者が制作した作品約40点も展示されます。一つ一つの作品を眺めると、その裏側にある人の暮らしや文化が垣間見え、社会が抱える課題も浮き彫りになってきます。柴田さんに、ゴミアートの面白さや創作への思いを聞きました。

瀬戸内海は漁網類、日本海は大陸からのゴミ

2010年の瀬戸芸に出展された宇野のチヌ。「2022年の瀬戸芸開催に向け、3月初旬からお色直しが始まっています。児島湖や瀬戸内海でゴミを集めるほか、一般家庭から出るプラスチックゴミなど不用品も募ります」。毎回、住民の協力も得ながらお色直しするチヌは、宇野を代表する観光スポットの一つとして、今も地域で愛されています。

宇野のチヌは、日本の小中高の教科書だけでなく、フランスの理科の教科書でも紹介されています

漂着ゴミについて、「瀬戸内海は生活ゴミ以外では漁網やロープのようなもの。今暮らしている日本海側では中国語やハングルなどが書かれたカラフルな大陸からのゴミが多いです。アートから言えば、カラフルなゴミは嫌いではないです」と柴田さんは話します。
柴田さんの活動は「滞在制作」が中心。現地でゴミが集まる場所へ出向き、荷車や買い物かごに溢れんばかり、気に入ったゴミを拾い集めます。

「ゴミは嫌われ者ですが、ちょっと見方を変えれば面白い画材。作品作りのための素材になります」

漂着ゴミだけではなく、明らかに不法投棄されたゴミが集まる場所も (C)淀川テクニック Courtesy of Yukari Art

新聞やチラシの言葉を切り取って作る「コラージュ川柳」の発案者でもある柴田さん。コラージュ川柳とは、新聞や印刷物から五文字と七文字の言葉を切り取り、元の記事の内容とはまったく異なる意味を生み出すという川柳。その面白さから、さまざまな界隈で話題になっています。

「コラージュ川柳とゴミアートは似ています。頭の中でくっつけたり、切り離したりしながら、新しい文脈やストーリーを生み出す作業。世界に一つだけのものを創造する楽しさがあります」

土地の文化や暮らしを映すゴミアート

柴田さんは、これまでドイツやデンマーク、インドネシア、韓国など世界各地でも滞在制作に取り組みました。

「ドイツの酒場周辺ではビールの王冠。韓国はマッコリの空き瓶。インドネシアはお菓子の袋。場所によって落ちているゴミの種類は異なります」

2008年、インドネシアのジョグジャカルタで制作したのは巨大な「アロワナ」。現場は、水質の悪さで有名なチョデ川沿いのスラム街でした。

現地の竹で作ったアロワナの土台。土台は作品によって、鉄骨や木、発泡スチロールなどさまざま (C)淀川テクニック Courtesy of Yukari Art

熱帯の気候に加えて、押し寄せるような無数のバイクや排気ガス。慣れない環境下での作業に柴田さんは苦戦したといいます。また、スラム街では、住民がペットボトルや金属類のゴミを拾い集めて換金するため、ほとんど見当たりませんでした。

そこで柴田さんは、キラキラときらめくアロワナの鱗を表現するため、川に落ちていたお菓子やインスタントラーメンの袋を採用しました。

アロワナの鱗はお菓子など食品のパッケージで (C)淀川テクニック Courtesy of Yukari Art

「滞在している間にスラム街の住民たちと次第に打ち解け、完成したアロワナを川まで運んでくれたり、作品を見るためオープニングセレモニーに駆けつけてくれたり、温かな交流もありました」と柴田さんは振り返ります。

人々の暮らしの一部を切り取ったような作品。柴田さんの作品には精巧な美しさとともに、住民との交流を感じさせるぬくもりやユーモアがあり、見る人の心に響きます。

チョデ川に巨大アロワナを浮かべてお披露目。作品の上に人が乗って楽しむこともできます (C)淀川テクニック Courtesy of Yukari Art

大阪・淀川河川敷がゴミアートの原点

岡山県出身の柴田さん。ゴミアートの原点は大阪・淀川の河川敷だといいます。

当時、大阪文化服装学院の学生だった柴田さんは、友人の松永和也さんと2人で河川敷のゴミを使った創作をスタートしました。2004年、新人アーティスト発掘イベント「GEISAI」に出展するにあたり、アートユニット「淀川テクニック」を結成。地元の「淀川フェスティバル」で、河川敷で拾い集めたゴミのチヌを出展するなど、斬新な発想で表現された作品は一躍話題になりました。
「ゴミはいくら使っても材料費ゼロ。その場にあるゴミを使って自由な発想とひらめきで作ることが、ゴミアートの楽しさ。淀川河川敷が創作の原点です」と柴田さんは話します。

淀川河川敷のゴミで作った作品「イワトビペンギンNO.1」 (C)淀川テクニック Courtesy of Yukari Art

「キリンアートプロジェクト2005」でグランプリ受賞、「第12回岡本太郎現代芸術賞」で入選など、数々の受賞を果たし、2017年からはソロアーティストとして活動。その後も、イギリスのファッションブランド、ヴィヴィアン・ウエストウッドの環境をテーマとした展覧会でインスタレーションを手掛けるなど、国内外で活躍しています。

宮崎県仙台市では、東日本大震災で被災した防風林を使った作品「若林100年ブランコ」を制作 (C)淀川テクニック Courtesy of Yukari Art

瀬戸内ゴミンナ〜レ!!を初開催

これだけのアーティストが宇野に集結するのは今回が初めて。柴田さんの呼び掛けで集まったアーティストは、京都から出川晋さんとミシオさん、石川のあやおさん、徳島の吉田一郎さんです。
2週間前に現地入りした5人は瀬戸内海でゴミを収集。何層にも積み重なったゴミの “地層”からは、思わぬ年代物や危険物も出現するといいます。アーティストはそれぞれ心惹かれたゴミを拾うなど、滞在制作も行いました。

出川晋さんは、収集したゴミの色や形を意識しながらディスプレイした作品を制作しています

柴田さんは、淀川河川敷での制作の追体験をしてもらおうと、各地でワークショップ「ゴミジナル工作」を実施しています。また2018年からは「ゴミハンタープロジェクト」と銘打ち、旅をしながら見つけたゴミで即興で作品を作る活動も始めています。

「ゴミの声を聞く」「ゴミの気持ちを考える」ことが柴田さんの信条。

「いろいろなゴミの形や色を見てそこからインスピレーションを受ける。誰かにとっていらないもの、価値のない漂着物やゴミをアート作品として蘇らせることで、ゴミにふたたび命を宿せたらと考えています」と柴田さんは話します。

「瀬戸内ゴミンナ〜レ!!」は3月15日までの期間、玉野市宇野の旧玉野市消防署で開催しています。

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