「気になる本を手に取って、街や政治のことを考えてみよう」。そんな呼びかけが、東京都杉並区の書店から広がっている。
区内在住の団体職員、渡真利紘一さんが友人と2人で始めた「本と投票。プロジェクト」。2万枚のオリジナルしおりを作成して、書店などで配布中だ。しおりにあるフレーズは「6/19は、未来のわたしとまちのために過ごそう」。2022年6月12日告示・19日投票の杉並区長選に、意識を向けてほしいという願いを込めた。

初めは自分も関心がなかったが…

32.02パーセント。前回の杉並区長選(2018年)の投票率だ。暮らしに身近な教育や高齢者向けサービスなど具体的な政策につながる選挙だが、投票率の低さが目立っている。杉並区だけでなく、お隣の中野区、練馬区でも同じくらいの低水準だ。

「実は、私自身も区政に関心を持てないひとりでした」と渡真利さん。地域の未来を考えたり、課題解決策を話し合ったりする自治は大切だと思いつつ、具体的にどうすればいいのか見えなかった。しかし、今年2月に環境と自治を考える市民グループに加わったことから、杉並区で進行中の政策が少しずつ見えてきた。

「周りの動きに気持ちを動かされて、自分も何かやりたいと今回のプロジェクトを企画しました」

「本と投票。プロジェクト」のオリジナルしおり

思い立ったら行動だ。デザイナーにしおりのデザインを依頼して、ポケットマネーで2万枚を印刷し、仲間と手分けして配布した。公平性が大切な選挙であるため、どの候補からも中立の立場でプロジェクトを進めている。

6月6日現在、書店26店、カフェなど24店の合計50店が協力しており、投票日の6月19日まで順次拡大中だ。

政治本の特設コーナーも登場

しおり配布と同時に、政治をテーマにした本の特設コーナーを作るよう協力書店に働きかけた。JR西荻窪駅前の今野書店が早速協力してくれた。店の奥にある一角に、15冊ほどの本が並ぶ。ちょうど同様の企画が進行中だったため、しおりを自由に持ち帰られるように、特設コーナーに置いてくれた。

今野書店の特設コーナー

共同でプロジェクトを進めている仲川啓介さんは、東京都内の公立小学校教諭。普段から本に強い関心があり、渡真利さんのアイデアを聞いて「とても斬新だ」と賛同した。しおりに載せる言葉を一緒に練り上げたり、設置店を開拓したり、忙しい仕事の合間を縫って奔走している。

「しおりと企画書を持参すると、ほとんどのお店が歓迎してくれる。1か所に100〜500枚置かせてもらっています」と仲川さんは話してくれた。

本について語る仲川さん(右)と渡真利さん(左)

またプロジェクトでは、ツイッターやフェイスブックで公式アカウントを開設し、地域の政治を考えるときに参考にしたい本を全国から投稿してもらっている。アーカイブに育てることで、杉並区長選をきっかけにした知的財産をつくろうと試みている。

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