家や建物、道具や家具、発電用の燃料など、私たちの身の回りには木があふれています。岡山県も、県土の約7割が森林におおわれており、ヒノキの丸太生産量は日本一です。
そんな私たちの生活を豊かにしてくれている木の苗を、種から育てている豊並樹苗生産組合(岡山県奈義町)の長畑健三さんに、現在育てている苗木や、苗木を育てる思いについて聞きました。

種まきの春

「苗木の種まきは年に1回の一大行事。ここで失敗すると1年あいてしまいます。奈義町のように霜が降る地域は、春にまくほうがいい苗が育ちます。それぞれの種や実は、昨年の秋に山で取り集めたものです。どんぐりは1日で約100kg集めました。モミジの種は、枝木から集めました」

もみじの種

風のない晴れた日の4月。那岐山麓の畑に、ヒノキ、スギ、ケヤキ、ヤマザクラ、ヤシャブシ、クリ、͡コナラ、クヌギ、シラカシ、カエデ、モミジ、トチノキ、マツなど10種類以上の苗木の種が畑に撒かれました。

まいた種が飛ばされないよいう、風のない日に手で種をまいていく

山で自然に落下した種から木を育てる天然更新という方法は土地や気候で大きく左右されるため、健三さんは自身で集めたモミジの種やドングリの実などをまいたり、ヒノキやスギなどの種をまいたりして苗木を育てています。

種をまいてから1か月後のヒノキ

現在、岡山県では、ほとんど花粉を出さない少花粉ヒノキと少花粉スギの生産と植え替えが進められています。豊並樹苗生産組合でも、少花粉ヒノキとスギの種がまかれました。

「長年品種をしぼって、その中から花粉が少ないものを集めて、3年くらい前からすべて少花粉ヒノキとスギになっています。全国的にみても、岡山県は少花粉の扱いが早かったです」

種をまいてから1年経った少花粉ヒノキ(健三さん提供)

苗木を育てていくということ

岡山県には、木の苗を育てる苗木屋が、約10数軒あると言われています。奈義町にある豊並樹苗生産組合は、1949年に結成され、県の苗木生産の約30%を取り扱っています。現在は、健三さんをはじめとする5人の構成員で、ヒノキやスギ、広葉樹をはじめとする数十種類の苗を扱い、県内の森林組合に販売しています。中でもモミジ、コナラ、ヤマザクラなどの広葉樹を県内で扱う数少ない苗木屋です。

長畑健三さん(右)と父の州三さん

「戦争で多くの木を使ってしまい、はげ山になった山を取り戻さないといけないという思いから、祖父と祖父の仲間たちが戦後に苗木生産をスタートさせました。森林を自然に取り戻すことはできないので、山に木の種を取りにいき、いい品種を年々探し、何十年と過ごしてきて、今があります」

「自然が相手なので、生育の予想がつかない難しさはありますが、岡山県産と書かれた家の柱なんかを見ると、自分のおじいさんがまいた種なんかなぁと嬉しくなります」

よい苗木に育つまで雑草処理などの手入れをおこなう

豊並樹苗生産組合では、畑に直接種をまく「畑苗」と容器の中で育てる「コンテナ苗」で木の苗を育てています。コンテナ苗とは、専用容器に種をまき、育てる方法です。畑より少ない面積で苗を育てることができたり、水もスプリンクラーでまくことができたするため、畑苗よりも育てやすいといわれています。

また、コンテナ苗で育った苗は根に土がついた状態なので植えやすく、植えた後の生育もいいそうです。

コンテナ苗で育てられているスギ

健三さんが、木の苗づくりに携わるようになったのは15年ほど前。大きい台風で周囲の木がほとんど倒れたことが、苗木づくりへの転職のひとつのきっかけでした。当時は少なかった同年代の苗木の後継者も、コンテナ苗の普及により、少しずつ増えてきているそうです。

苗木づくりで山をつくる

「自然環境的にも木を切ったままだと山は崩れてしまうので、切った場所に新しい木を植えていくのがワンサイクルです。自分たちが苗木を育て、その苗を山に植えてもらい、日本の木で日本国内の需要をまかなっていけたらと思っています。苗木つくりは、そのもとになる部分です」

種まきから1年後、育った苗を大きさごとに分けられる

身の回りにあるまっすぐに伸びた大きな木も、はじめは小さな種。この春まかれた種が成長し、山に植えられるまではまだ時間がかかりますが、健三さんの手によって大切に育てられた苗木が、山に適切に植えられ、手入れされることで、長い年月をかけて森林の循環をつくり、元気な森林を育て続けています。

種まきから2年後、育った苗木は株分けをして畑に植え替えられる

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