サッカーJ3・FC今治の運営などを手掛けている、今治.夢スポーツ。そこで広報を担当している本多美月さんに、現在の仕事に就くまでの経緯や、青年海外協力隊としてのパラオでの経験などを聞いた。

スポーツに関わる仕事を

本多さんは小・中学校では新体操、高校・大学時代は陸上競技に打ち込んだ。大学ではスポーツ科学部に進学し、専門的にスポーツを学んでその知識を競技に活かした。

小学生の頃の新体操発表会の写真

大学卒業後もスポーツに関わる仕事をしたい、と考えていた本多さん。青年海外協力隊への応募動機を語ってくれた。

「まず1点目に、昔海外の子どもについて調べた時、自分とは全然違う生活をする子どもたちがいる現状に興味を持ちました。2点目に、大学までスポーツを続けてきて“スポーツを通して世の中を元気に明るくしたい!”という思いがありました。そして大学2年生の時、東京オリンピックの開催が決定し、競技をしている身としてはなにかしらの形でオリンピックに関わりたかったんです」

「そこで、開発途上国をはじめとする世界のあらゆる世代の人々にスポーツの価値とオリンピック・パラリンピックムーブメントを広げていくことを目指す、日本の官民連携によるスポーツ国際貢献事業である『SPORT FOR TOMORROW(以下SFT)』の存在を知りました。国際協力機構(JICA)はSFT運営委員会の一員で、活動領域のひとつに“スポーツ分野での技術協力”があったので、協力隊としてSFTに関わることを決意しました」

大学では棒高跳びの選手として活躍

協力隊としてのパラオでの経験

大学卒業後すぐに協力隊参加を希望したが、1回目の応募は指導経験のなさから不合格。しかし、ある学校からタイミングよく新体操部の外部コーチ兼保健体育の非常勤講師の声がかかり、1年間技術指導の経験を積むことができた。

協力隊には翌年再チャレンジし合格をつかむ。派遣国は太平洋に位置し、ミクロネシア地域の島々からなるパラオ共和国。現地の陸上競技協会に所属し、短距離、長距離種目や跳躍、ハードル走等の練習メニューを組み、選手たちに指導。現地で陸上競技の普及活動を行った。

小学生向け陸上クラブでプチ競技会を開催した時の集合写真

野球やバスケットボール、バレーボール等、みんなでワイワイと楽しく行うスポーツが人気のパラオ。体育の授業はあるものの、授業というよりは試合をするだけという内容が多いという。陸上競技=ただ走っているだけという印象をもたれがちで、そのイメージを払拭するため、本多さんは競技場に遊びに来た小学生たちを集めて陸上クラブを作り、楽しく体を動かすことを目的に走る楽しさを伝える活動も行っていた。

パラオの子どもに陸上を教えている様子

「パラオはかなりゆったりと時間が流れています。日本人と比較すると時間はあまり守りません。言い換えれば “気持ちに余裕がある”からで、自分にはないそのおおらかさがとても素敵だと感じました。スポーツの位置づけは日本とは違うように思います。日本では、部活動や競技練習が優先されることが多いですが、パラオでは練習や試合があっても家族を優先する場面が多々あるんです」

ホストファミリーとの写真

言葉の壁がある中での異国での活動には、学びも多かった。

活動が1年程経過した頃、同僚(カウンターパート、以下CP)との関係がうまくいかず、約1か月もの間、口を利かない日が続いたという。それは価値観の違いから生じたものだった。効率よく仕事を進めることがいいことだと考えていた本多さん、一方で、時間はたっぷりあるのに急ぐ必要はないという考えのCP。良かれと思い先回りしてやっていたことが、CPからすれば仕事を奪われたと感じていたそう。

最終的には話し合いの場を設け、お互いの業務内容を確認して解決したが、自分の思いを共有し相手の話を聞くことの重要性に気付いた瞬間だったという。

健康イベントでストレッチを指導する様子

パラオの選手と共に

東京オリンピック・パラリンピック向けて、着々と準備が進む2018年、本多さんはパラオ選手5名に同行し、ホストタウンの茨城県常陸大宮市で事前キャンプに参加した。本多さんは協力隊として、学生のときに思い描いた、東京オリンピック・パラリンピックに関わるという夢を叶えることができたのだ。

パラオの選手と事前キャンプに参加した時の様子

任期終了後は、常陸大宮市の任期付き職員として採用され、パラオについて高校生に伝え、現地の小学生とのオンライン交流等も行った。

特別支援学校の子どもたちにパラオを紹介し、パラオダンスを一緒に踊った

そして今治へ

スポーツから常にポジティブな影響を受けてきたので、今後もスポーツに関わっていきたい、という思いが本多さんにはあった。そして協力隊での経験から「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という企業理念に強く惹かれ、現在は今治.夢スポーツで勤務している。

ホームゲームで里山スタジアムPRブースの紹介をしている様子(FC今治提供)

会社は、FC今治の運営を核に教育事業や地域貢献活動等、様々な事業を展開しており、本多さんは広報・情報システムグループで取材などのメディア対応、リリース発信などの情報発信やポスター、のぼりの作成といった広報全般を担当している。

「広報業務については未経験でしたが、新しい場所に飛び込みチャレンジする精神は協力隊経験があるからで、その経験が選択肢を広げていると思います」

里山スタジアム完成イメージ図(FC今治提供)

FC今治は、地域の人の心の拠り所として365日人が集う場所「里山スタジアム」を現在建設中。

海が綺麗に見える今治の立地や、美味しい海鮮物を食すことができるという魅力も交えながら、本多さんは今後の目標を語ってくれた。

「相手がいるから成り立つスポーツでお互いに認め合ったり、ひとつのチームを応援する時、多くの人が一緒になって応援し、喜びあい悔しがり、感動を共有できたり、人同士をつなげるパワーを持ってるのがスポーツだと思っています。サッカークラブの運営だけでなく、教育や次世代育成そして、里山スタジアムの完成によって地域の皆さんと一体になって街全体を盛り上げたいです。また、その場所で新たな出会いや絆が生まれることを楽しみにしています」

ホームゲームでの里山PRブースの様子(FC今治提供)

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