11月20日、21日の2日間、岡山・早島町のいかしの舎で現代アートのイベント「昔、ここは海だった」が開催されます。
このイベントは、岡山県が実施する「アートで地域づくり実践講座」で企画力や広報スキルを学んだ一般の受講者が話し合いを重ねて作り上げたもの。
今回は、イベント実施を直前に控えた講座で、活動の内容やイベントの見どころについて聞きました。

アートを通じて地域の活性化を

岡山県文化振興課が行うこの講座は2017年からスタートし、今回で4回目。地域の資源や魅力を活用したアートイベントに必要な企画力やコーディネート力などを座学や実践を通じて身につけるというものです。

講師陣からアドバイスを受けながら話し合いを重ねます

「アートを通じて地域を活性化するためには、アーティストを生かせる人材の育成が必要です」と岡山県文化振興課の丁田(まちだ)崇光さんは話します。過去の卒業生からは、商店街に活気を取り戻すことを目的とした「いばらアートループ商店街」や、映画館のない和気町で実施された「ワケシネマタウン」など、地域の魅力を引き出した新しい取り組みが生まれているこの講座。2021年度の講師陣は、地域の魅力を発掘する広告代理店代表ら3人です。

受講者は岡山県在住の映像作家や現代舞踊家、地域おこし協力隊、広報スタッフ、インテリアコーディネーターなど計12人(11月現在)となり、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まりました。

チームに分かれて最終的な話し合いをする受講者

第9回講座では、ワークショップ、展示、パフォーマンスの3チームに分かれ、イベント当日の受付の流れや導線確認などを念入りに話し合いました。出演するアーティストとの交渉や会場手配、行政への連絡などもすべて受講者らで割り振りし、一人何役もこなします。
これまで話し合いをオンラインで進めるがゆえ、意見がまとまらず苦戦したこともあったそう。
そんな中、「ここは昔、海だったんですよね」と受講者の一人が発言したことをきっかけに、受講者の中で意見がまとまっていったといいます。

心を開放して“立ち止まる”

今回のイベントのテーマは、過去・現在・未来と積み重なる歴史に思いを馳せながら、“立ち止まる”。

「昔、海に囲まれていた早島を想像してみてください。閉塞感を感じやすい今だからこそ、一度立ち止まり、心を解放してアートに身を委ねてほしい」と受講者の一人で、広報を担当する脇村拓嗣さんは話します。

会場には、いぐさの町・早島町の代表的町家「いかしの舎」を選択。明治末期に建てられた趣のある建物と庭が特徴で、現代アートとの融合も見どころの一つです。「受講者や講師陣のつてを頼りにアーティストやパフォーマーを決定しました。世界的に活躍するダンサーや打楽器奏者なども出演してもらう質の高い内容になりました」と脇村さん。

現代アートとは無縁だった受講者もいますが、アーティストの活動を実際に見に行くなどイメージを膨らませながら、準備を進めてきたそうです。

受講者の一人、黒川しのぶさんは大学に勤めながら現代舞踊家として活躍。今回はアートディレクター兼パフォーマーとして参加します。「踊り方に決まりのない現代舞踊は、みな一様でないところが面白いところ。まずは現代舞踊の世界観に触れてみてほしい。今まで歴史ある町家で踊った経験がないので、とても楽しみです」と話します。

黒川しのぶさん。今回はパフォーマンス「息吹 – i b u k i -」も披露。撮影:yukiwoさん

アーティストそれぞれの「海」を表現

主馬さん「Reclaim」のイメージ。提供:アートで地域づくり実践講座実行委員会

20、21日の両日は、山本晶大さんによる海を表現するインスタレーション作品「穴海」、映像作家・主馬さんによる画面に映し出される海を表現した作品「Reclaim」、ミズカさんと地元・早島幼稚園年長児による「いろいろうみいろ〜じぶんたちの海のせかい〜」をそれぞれ展示します。

「かつて岡山には海が広がっていた。早島はそこに浮かぶ一つの島だった」パンフレットより。提供:アートで地域づくり実践講座実行委員会

「穴海」は海水や海の砂を使って、畳の上に昔の海面水位をもとにした海を出現させるという大胆な構想。照明によって天井に海のゆらぎを映し出し、展示空間そのものを作品として体感できます。

日頃芸術士として活動している香川県在住のミズカさんと幼稚園年長児による作品「いろいろうみいろ〜じぶんたちの海のせかい」は、海を表現したワークショップ作品です。園児たちが手や足を自由に使って、事前にビニールや不織布にポスターカラーでそれぞれの海を描きました。

ワークショップを行ったミズカさん(左)と園児。撮影:主馬さん

園児たちが自由な発想で描くそれぞれの海。撮影:主馬さん

海外で活躍する現代舞踊家のパフォーマンスも

20日は現代舞踊家によるパフォーマンスも行われます。また、夜は「早島町民限定ナイトイベント」として、山本さん、主馬さん、ミズカさん3人の昼とは違った表情をみせる作品が鑑賞できます。アーティストトークのほか、山本さんの作品「穴海」を舞台とした黒川さんと武内浩一さんによるダンスパフォーマンスも予定されています。

武内浩一さん。パフォーマンス「レイヤー」を披露。提供:アートで地域づくり実践講座実行委員会

そして、21日は、音楽家の岩本象一さんとダンサー・振付演出家の平井優子さんによる音楽とダンスのコラボレーションを披露。打楽器奏者でもある岩本さんが生み出す即興音楽に平井さんのダンスが融合し、ライブ感あるパフォーマンスを堪能できます。

岩本象一さん。提供:アートで地域づくり実践講座実行委員会

平井優子さん。提供:アートで地域づくり実践講座実行委員会

2日間にわたり開催されるこのイベント。閉塞感を感じやすい今だからこそ、心を開放し、アートに身を委ね、アーティストが表現するそれぞれの海を体感してみてはいかがでしょうか。

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