岡山県奈義町にある、赤・青・黄色の壁が目を引く平屋。那岐山を真下から眺めることができる場所にあるのが、子育て等支援施設『なぎチャイルドホーム』です。

チャイルドホーム玄関前

そこで子育てアドバイザーとして働く貝原博子さんに施設のこと、そして共働きが増えている今だからこその施設の在り方や、努力していることについて聞いた。

貝原さん なぎチャイルドホームにて

親子が自由に集える場所を

なぎチャイルドホーム 中庭

なぎチャイルドホームは、奈義町で活動している読み聞かせの団体や年配の人が集う団体、いわゆる“ボランティア団体”が集まって、“親子が自由に集える場所”を目指して運営が始まった。

なぎチャイルドホーム内 廊下にて子ども用品のバザー

まさに町全体で始動した試み。子育て世代を応援するため、どんなおもちゃを置いたら良いか、どのように施設や環境作りをしていったら良いかなどについて試行錯誤しながら、幼稚園の別棟を使って週3日の活動から始まった。

小さな子どもでも手が届きやすい位置に置いている絵本

当時奈義町は親子クラブが盛んで、子どもを連れて集える場所は既にあるのではないか、なぎチャイルドホームは必要なのか、そう思う時期があったと貝原さんは話す。しかし、親子クラブに所属していない人や集団での活動が苦手な人もいる現状を知り、少数のニーズだけれど居場所を作ってあげることができる、なぎチャイルドホームの必要性はゼロではないと確信に変わり、存続させたという。

2007年4月、保育園の移転を機にその跡地を拠点とし、誰でもいつでも来られる場所として、毎日開館することになった。毎日開けていることで、天気に左右されず子どもの機嫌にも合わせられるため来館者は増えたという。育休中のワーキングママや専業主婦、孫を預かるおじいちゃんおばあちゃんなどさまざまな世代が利用するようになり、来館した人たちの口コミで町外からも多くの親子が遊びに来た。

育休中社会から離れたことで孤立を感じるママや、子どもといる時間を家では持て余すママ、また子守をしている年配世代の拠り所などとして、なぎチャイルドホームは利用されている。

「ただいま」「おかえり」が言えるセカンドホーム

2021年4月、なぎチャイルドホームは施設をリニューアルした。以前は同じ部屋を日にちや時間で交代して使用していたり、乳幼児から小学生までのおもちゃや絵本が混在していたりという状況だったが、さまざまな年代が利用できるよう部屋を目的ごとに分け、スムーズに活動ができるようになった。

部屋に入るとすぐに宿題をする小学生たち

その中で新しく、小学生が学校から直接なぎチャイルドホームに帰ってこられる部屋が作られた。部屋に入れば宿題がしやすい机が出迎え、小学生が好みそうな細かいおもちゃ、少しだけ文字が多い絵本、ピアノなどが置いてあり、家と同じような、むしろ家よりも心地よく過ごせるのではないかというほどの空間になっている。

小学校好みのおもちゃやゲーム

「ただいま」「おかえり」の声が飛び交う、リニューアルした場所が目指すのは第2の家。共働き世帯だけでなく、親が家にいる世帯でも小学校と連携して安心して帰ることができる場所は、親にとっても子どもにとっても必要であるといえる。登録や利用料がいらず、スタッフが見守ってくれるこの場所は、貝原さんの目指す“親と子どもの居場所”を提供している。

地域の人たちと助け合い

なぎチャイルドホームには、少しの時間だけ子どもを預かってほしいというニーズを地域の人が請け負う『一時預かりすまいる』、幼稚園に入る前に集団生活に慣らしたいというニーズに応える『自主保育たけの子』という活動がある。どちらも地域の人や保育経験のある人たちが関わっており、まさに地域の人たちと助け合って子育てをしている。

一時預かりすまいる 年配の方が乳児の世話をする様子(貝原さん提供)

これらの活動は、貝原さんやスタッフがなぎチャイルドホームに来た母親たちと会話する中でニーズを探し出した結果である。地域との関係も大事に思っている貝原さんだからこそ、実現できた活動と言えるだろう。

自主保育たけの子の様子 絵本に興味津々の子ども達(貝原さん提供)

『人と人とを繋ぐ』今だから必要なおせっかいと努力

筆者自身もなぎチャイルドホームを利用している1人で、お世話になっている。通い詰めるわけでもなく、イベントがあれば出向き、空き時間にフラっと立ち寄ることができるのも大きな魅力だ。

貝原さんは活動について「ただのおせっかいよー」と笑顔で話してくれたが、核家族が当たり前になっている昨今、子育ては孤独になりがち。おせっかいをしてくれる人がいてくれるおかげで、救われた人はたくさんいるはずだ。

子どもと接する貝原さん

「人が来ていないと寂しい施設になってしまうから、次の世代にこの活動を繋げることを頭に置きながら、いろんな人が出入りできるように迎える側に徹するよう努力している」

貝原さんの思いが受け継がれ、末永く町の拠り所となるなぎチャイルドホームが在り続けることを願っている。

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