「食べない」は、わがままじゃない 偏食カウンセラーが伝える安心の土台という子育て

「食べない」は、わがままじゃない 偏食カウンセラーが伝える安心の土台という子育て

春。新一年生や新入生を迎える家庭では、ワクワクと同時に小さな緊張が走る。
とくに、偏食がある子どもを持つ家庭なら「給食」に不安を抱く人も少なくないだろう。

「ぜんぜん食べないと変な目で見られるんじゃないか」
「残したら怒られるんじゃないか」

というように、食べられないと子どもがどうなるのか。
その一点に、不安が集まりやすい。

だが本当に目を向けたいのは、食べないことそのものよりも、子どもが何に困っているのかという点だ。
そう話すのが、偏食カウンセラーで管理栄養士の竹田ゆうこさんだ。

現場を知る管理栄養士としての原点

竹田さんは、大学院在学中に「理論だけでは人を支えきれない」と感じ、糖尿病外来での栄養指導を皮切りに臨床の現場へ飛び込んだ。

現在までに、2000件を超える指導を経験するなかで、相手の状況を読み取り、栄養指導の瞬発力を磨いてきた。また、次の病院では高齢者や透析患者と向き合い、食を通して心身を支える実践を重ねた。

転機となったのは、自身の子育てだった。
とくに双子の深刻な偏食と向き合った経験は「知識だけでは届かない現実」を突きつけたという。その実体験が、現在の偏食支援活動の原点になっている。

偏食はしつけの問題ではない

竹田さんが繰り返し語るのは「偏食はわがままではない」ということだ。

「匂いが強く感じられる」
「特定の食感がどうしても受け入れられない」
「味が混ざると混乱する」
「見た目の違いに強い不安を感じる」

こうした感覚の特性は、外からは見えにくい。
多くの子にとっては当たり前の味覚や嗅覚が、ある子にとっては強いストレスになっていることもある。

「偏食の子は私たちには想像できない感覚を持っているかもしれません。その前提で子どもの話を聞くことが大切です」

食べないという行動を正そうとするのではなく、その背景にある理由に目を向ける。
そこから偏食改善は始まるのだ。

“食べない”は心のバロメーター

特に、春は環境の変化が大きい。クラス替え、新しい先生、一年生なら初めての場所での給食。
子どもは新しい環境に身を置くだけで、想像以上にエネルギーを使っている。
その結果、これまで食べられていたものが急に食べられなくなることもある。

竹田さんはそれを「心のバロメーター」と表現する。
食べられないのは、緊張や不安のサインかもしれないという視点だ。

そんなとき大人が目を向けたいのは「どう食べさせるか」ではなく「どんな不安があるのか」だ。
「この時期は、ママも初めてのことばかりで不安になりますよね。そんなときこそ、子どもがどんな気持ちでいるのかにも耳を傾けてみてください。幼いうちは自分の気持ちを言葉にするのが難しいことも多いため、子どもの感情に近い言葉を示してあげるのもおすすめです」

学校と情報を共有して連携する

極度の偏食に悩む家庭なら、給食が始まる前にできることもあると竹田さんは言う。
「保護者が一人で抱え込まず、学校に相談してみることも一つの方法です」

アレルギーへの理解は進んでいるが、偏食への理解はまだ十分とは言えない。まずは保護者から学校へ伝えてみることが大切だと竹田さんは話す。

・子どもの偏食の状況を事前に共有する
・学校の対応方針を確認しておく

などだ。

「自分の子どもだけ特別扱いを求めるようで気が引ける」という声もある。
しかしそれは特別扱いではなく、子どもがどんな食の困りごとを抱えているのかを共有すること。その子の特性や個性を理解してもらうためにも大切だと竹田さんは話す。

「昔に比べて給食を残すことへの理解は深まったと言われています。実際に食べる前に減らすことができるのもその一つですが、一方で減らしたのだから全部食べよう、という風潮も耳にします。偏食のある子にとっては、そうした空気がプレッシャーになることもあります。だからこそ、偏食について正しく理解してもらえるように働きかけることも大切なんです」

親の不安とどう向き合うか

「でも、本当に食べないままでいいのだろうか」と、子どもの未来を思うほど親は不安になる。
とくに周囲の子が当たり前のように食べている姿を見ると「うちの子だけ違うのではないか」と胸がざわつく。

竹田さんのもとを訪れる保護者の多くも、最初は強い不安を抱えている。
以前、サポートしていた保護者から、こんな言葉を打ち明けられたことがある。

「私、この子を檻に入れていたのかもしれません」

“みんなと同じように、できるようにしなければ”
“普通に食べられるようにしなければ”

愛情があるからこそ心配になり、子どもを枠の中に押し込めていたのではないか。そう気づいたのだった。

竹田さんは言う。

「お母さんたちは、決して意地悪でそうしているわけではありません。愛情があるからこそ心配になる。でも、その『ちゃんとさせなきゃ』が強くなると、子どもも親も苦しくなってしまうんです」

不安は、愛情の裏返しでもある。だからこそ、その矛先を矯正ではなく理解に向けることが大切だという。

偏食は個性を知る入り口

味の違いに敏感。
匂いのわずかな変化に気づく。
食感の微妙な違和感を察知する。

多くの子が気にも留めないことを、偏食っ子は全身で感じ取っている。
しかし、その感覚は見方を変えれば、繊細さであり、観察力であり、感受性の強さでもある。

たとえば、味の違いに敏感な子は、表現の世界で豊かな感性を発揮するかもしれない。
匂いの変化に気づく子は、人の気持ちの機微を読み取る力を持っているかもしれない。
細かな違いを察知する力は、研究やものづくりの分野で強みにもなり得る。

これまでの教育は「みんなと同じにできること」に価値を置く場面が多かった。
しかし近年は、一人ひとりの特性を生かす教育の重要性が見直されつつある。

平均に合わせることを優先すれば、その感覚は直すべきものになる。
けれど、理解しようとすれば、それは育てるべき個性になる。

偏食と向き合うことは、単に食卓の問題を解決することではない。
その子がどんな世界の感じ方をしているのかを知ることでもある。

つまり、偏食はその子を知る入り口でもあるのだ。

新学期を迎える保護者の方へメッセージ

「子どもが食べないと『食べさせなくちゃ』と焦ってしまうこともありますよね。そんなときは『なぜ食べないのだろう』と少し考えてみてほしいんです。そうすれば、その子にしかわからない感覚や思いが見えてくるかもしれません」

竹田さんは、子どもの思いと母親の不安、その両方に耳を傾けながら、すれ違いそうな親子の気持ちをつなぐ伴走者として活動している。

食べることをゴールにしない。触れる、混ぜる、感じる時間を大切にする珍しい料理教室だ。
また4月からはレンタルスペースでの偏食カフェを定期的に開催する予定。

偏食や子育てに悩む人は、竹田さんのInstagramアカウントも参考にしてほしい。

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