徐々に筋力が衰えていく…しかし「生きたいように生きる人生の方が”楽しい”よね」前向きな様子をSNSで投稿する理由とは

徐々に筋力が衰えていく…しかし「生きたいように生きる人生の方が”楽しい”よね」前向きな様子をSNSで投稿する理由とは
松元拓也さん(@oldrookie.tさんより提供)

「生きたいように生きる」とSNSで発信する松元拓也さんは、脊髄性筋萎縮症という病を抱えています。

「自分の望む生き方をしたい」という人も多いと思いますが「それができるんです」と松元さんはいいます。 大切なのは、どう生きたいかというゴールを設定すること。生きたい方向性を決めてそれに向かって情報を集め、選択肢を増やし、生きたいように生きていくのです。

障がいがあると人生の選択肢が狭まってしまうと思いがちですが、松元さんは自由な選択を大切にし、さまざまなことに挑戦してきました。

今回は松元さんに、SNSで発信する理由やこれまでの人生のことなどについて聞きました。

徐々に筋力が衰えていく「脊髄性筋萎縮症」

松元さんが抱えている脊髄性筋萎縮症は、徐々に筋力が衰えていく病気です。それに伴って、呼吸筋の弱化による呼吸不全、嚥下障害、側弯症などの障がいが出てくるといいます。

松元さんは物心がつくころには病気について認識していたと話します。5歳のころには周囲に「(車いすで)かわいそうだねぇ」と言われたときに「脊髄性進行性筋萎縮症なんですよ~」なんて受け答えをしていたそうです。

友達とも普通に遊んでいて「鬼ごっこも、みんながうさぎ跳びでやるなど、自然に工夫して遊んでくれる友達に囲まれていました。本当に普通の子ども時代でした」と松元さん。

「日常生活で障がいを意識することは、ほとんどありませんでした(笑)」と話してくれました。

「ふくはぴ」が全国の人に届くように

松元さんは高校卒業後に起業をします。Webデザイナーになりたかった松元さんでしたが、その当時はリモートワークという言葉さえなく、また、重度障がい者を雇用しようという企業はどこにもなかったためでした。

ベッドの上で作業中の松元さん(@oldrookie.tさんより提供)

起業から7年間はWebコンテンツの制作、DTPデザインやシステム制作など、クリエイター業務に携わってきましたが、 2018年、共同経営者との方向性の違いから独立し「OLDROOKIE」を設立しました。

「OLDROOKIE」を起ち上げた当初は、テレビ番組の制作やYouTubeの動画などの映像制作業務をメインに行なってきましたが、2021年に訪問介護、2024年には訪問看護を起ち上げ、IT事業では2023年に在宅訪問サービスのマッチングサイト『ふくはぴ』をリリースしました。

SNSを通じてさまざまな挑戦を続ける松元さんは、「ふくはぴを全国の人々に届けること」と「ふくはぴを障がい者や高齢者にとって欠かせない存在にすること」を目標に掲げています。
まずは松元さん自身を知ってもらうことが近道だと考え、見ている人の注目を得られるような企画の一つとして「重度障がい者の挑戦」というコンテンツを発信しているのです。

器用に操作しています(@oldrookie.tさんより提供)

また「生きたいように生きる」という考えには、両親の教育方針の影響があると語ります。

「両親は、子どものころから僕のやりたいことを絶対に否定しませんでした。高校を辞めると決めたときも、卒業式前日に進路を変更したときも、起業を決意したときも、まずは理由を聞いて『そっか、すればいいじゃんと』いうスタンスだったのが大きかったと思います」と話していました。

母の言葉が人生の中核に

障がいがあることで社会で生きづらさを感じたことがあるか尋ねると「全然ないと思ったんですけど、昔はありました」と話してくれました。

「健常者の女性と付き合ったとき、自分だけの問題じゃなくて相手がいることなので『まー、障がい者だしなぁ。そう言われてもしょうがないよねぇ』と思うことはちょくちょくありましたね」

仕事中の松元さん(@oldrookie.tさんより提供)

松元さんが若いころ、付き合っていた彼女の親からお付き合いを反対されていたことがありました。そのとき、松元さんのお母さんは「その人の心臓を借りて生きているわけじゃなくて、あんたは自分の心臓で生きてるんだから、他人がいくらあんたを否定しても気にする必要ないでしょ」と話してくれたそうです。

「その言葉が自分の人生の中核になっていると思います」

「生きたいように生きる人生の方が楽しいよね」

松元さんに社会の中で、障がい者に対する認識はどのようなものだと感じているかを聞いてみると「正直な話、社会の障がい者に対する認識とかまったく興味がありません」といいます。
「障がい者というもの自体に本当に関心がなくて、自分がやりたいことを叶えるためにどうすればいいのか、ということにしか意識が向かないんです」

その中で今、福祉を変えていく必要があると松元さんは感じたため、今は福祉に携わっているだけで、前提条件に「障がい者だから」というのはないと話していました。

両手を使って操作しています(@oldrookie.tさんより提供)

松元さんが、自分の活動によって今後伝えていきたいことは「生きたいように生きる人生の方が楽しいよね」ということです。

「人生にはいろいろありますが、やりたいことを選ぶほうが楽しく、心も豊かになります。我慢やストレスが積み重なると、言葉が鋭くなり、他人を傷つけてしまうことも。心が満たされ、楽しく生きていれば、他人の言動や芸能人のゴシップなど気にならなくなるものです」

「こうした考え方が広まって、みんなが幸せになって、誰かが傷つくような世界がちょっとでも変わったら嬉しいよね」と松元さんは話していました。

また「2025年6月20日に『指先革命』という僕の本が出ます。面白い内容なので、きっと皆さんに楽しんでもらえると思います!」と今後の楽しみも伝えてくれました。

私たちは、障がいのある人は人生の選択肢が限られている――そんな思い込みを抱いてしまいがちです。
しかし松元さんは、「自分はどう生きたいか」をまず掲げ、その目標に沿って情報を集めながら選択肢を広げてきました。
この姿勢から、考え方や環境を少し変えるだけで可能性が大きく広がることに気づいた方も多いのではないでしょうか。

こうした視点がもっと広まり、誰かが心を痛める場面が少しでも減る社会になることを願っています。

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