「まちの中に冒険的わくわくのデザインを」大学生が仕掛ける駄菓子屋さん 町で運営する理由に迫る

「まちの中に冒険的わくわくのデザインを」大学生が仕掛ける駄菓子屋さん 町で運営する理由に迫る
久我凛太郎さん

めっきり見かけなくなった地域の駄菓子屋さん。子どもたちを取り巻く環境の変化に伴い、経済産業省の2021年の調査によると、駄菓子屋などの菓子小売業が約30年間で7割以上減少したことがわかっている。

そんな中、杉並区と品川区で駄菓子屋を運営する大学生によるグループがある。
「この時代にあえて駄菓子屋を運営する理由とは?」

一般社団法人駄可笑屋敷プロジェクト代表の久我凛太郎さんにお話を伺った。

理想的な児童館を作りたい

久我さんは、2001年生まれ。早稲田大学創造理工学部4年生だ。一般社団法人駄可笑屋敷プロジェクトは、杉並区と品川区で駄菓子屋を拠点とした子どもの居場所づくりに取り組んでいる。子どもたちは、放課後になるとお菓子を買いに来たり、居場所で宿題をしたり遊んだり。ボランティアの大学生は100人以上おり、子どもたちや地域のために様々な企画をしている。

「小さい頃、児童館が大好きで毎日のように通っていました。中高生になってからも、子どもたちのお兄さん的な存在として関わり続けているなかで、児童館はとてもいい場所ですが、経済的な制約や、地域に十分に開かれていないといった課題を感じるようになりました」

大学生が仕掛ける駄菓子屋さん

自分にとって理想的な児童館を作りたいと考えた久我さんは、大学生になり、足立区で活動するNPO法人のスタッフとして子どもたちの居場所としての地域の駄菓子屋を立ち上げるプロジェクトに参画した。

「大学生が中心になって、自由な発想で子どもたちが楽しめるものを企画していきました。しかし、安心安全や真面目さを大切にするNPO法人の社会人スタッフの方々からは、学生の考える企画に対して奇抜だ、変だ、管理責任はどうするんだ、という意見が相次ぎ、対立が深まった結果、私は独立することにしました」

杉並区方南町にある駄可笑屋敷

駄菓子屋づくりが始動

杉並区方南町にある空き家の活用について、久我さんに相談が寄せられた。もともと地域の方々が駄可笑屋敷という名前の駄菓子屋さんをやっていたのだが、運営が難しくなり、廃墟と化していた。そこで、久我さんたちは理想の居場所づくりに取りかかった。

「2021年12月に構想がスタートし、最初のイベントが2022年1月。2月からは常設の居場所へと急ピッチに進みました。現在は週5日オープンしています。資金調達から日々の運営まで、すべて大学生だけで行うことを大切にしています。大人が入ると自由なことができないという過去の教訓が生かされています」

評判が伝わり、品川区の西五反田でも活動がスタート。来年度からは杉並区井荻をはじめ新たに3拠点が増えるという。将来的には、全都道府県へ展開したいと考えている。

「運営は大学生のみで行っていますが、学生ならではの視点を生かし、地域と連携してさまざまなイベントを企画しています。例えば『商店街ワーカーズ』という取り組みでは、商店街のお店とコラボして職業体験を実施。しかし、ただの職業体験ではありません。例えばピザ屋さんの場合、子どもたちは商品開発からPR、営業、店舗運営、調理まで、大人と一緒にすべての工程に関わります。さらに、通常の営業日に実施するため、何も知らずに訪れたお客さんが、子どもたちに注文を取られて『お!』と驚くことも。実際に商売を行うため、原価計算をして売上を意識するなど、リアルな経営体験ができるのが特徴です」

ピザを作る子どもたち

楽しさや面白さにこだわった企画

他にも、実際に避難所設営をしたり、非常食を食べたり、街の中の防火栓をひたすら探したり、リアルな体験を重視した防災ウォークラリーなど、教育的意義を含む企画だけでなく、商店街の坂道を利用して各店舗から水を引くウォータースライダーや、ゾンビに扮した大学生が商店街を歩き回る『ゾンビビンゴラリー』など、楽しさや面白さを追求したイベントも行っている。

「正直、商店街でウォータースライダーを開催しても、直接的な学びはありません。でも、大人たちが本気になって汗をかいたり楽しんだり、笑ったりしている様子を子どもたちが見ることは貴重です。また、学びを優先した遊びはつまらないから結果的に学べないんです。面白いから熱中する。その遊びの中で、子どもたちは様々なことを学びます」

商店街にウォータースライダーが出現!

「あと、居場所ってあまり言わないようにしています。 『居場所』という言葉は、あまり楽しそうに聞こえないですよね。ワクワクする場を作る、楽しい場を作る、そこが結果的に子どもたちの居場所になっている。これが理想です」

久我さんは、駄可笑屋敷プロジェクトが大切にする価値観を「冒険的ワクワクのデザイン」と表現した。既存の枠組みに囚われず、常にわくわくすることにチャレンジする。そんな場が全国各地に広がることを想像すると、私自身もわくわくしてきた。

ゾンビに扮する大学生たち

この記事の写真一覧はこちら