京都府の公立高校から、学校初の海外大学進学を果たした梅澤凌我さん。アメリカ・ミネルバ大学を2023年5月に卒業した。そんな梅澤さんは7月29日に、海外大学進学に関心のある中高生向けのオンラインコミュニティ「52Hz」の設立をX(旧twitter)で発表した。その投稿は瞬く間に拡散され、たった2日で200名以上の中高生がコミュニティに殺到した。いままさに話題の渦中にいる梅澤さんにお話を伺った。

梅澤凌我さん

「中学3年生の春休みが転機でした。グローバル人材育成プログラムという学校の研修で、アメリカの名門大学をいくつか訪問しました。そこで、世界のレベルを知りました。
中学1年生から大学進学のことが気になった私は、自分にあった大学はどこだろうかと国内の大学を一通り調べていました。でも、なにか違うなと思っていました。そんな中、訪問したハーバード大学に衝撃を受けました。学生が、自分の好きなことを熱量を持って話しているのが規格外だと感じました」

ハーバード大学を訪問する梅澤さん

中高生時代、学校は好きだったが、何かにチャレンジすると「意識高い」と笑われる環境に違和感を抱いていた梅澤さん。ハーバード大学のチャレンジを肯定する気風にとても惹かれたという。それから、ハーバード大学を第一志望にアメリカのトップ大学を目指した。成績も決して良かったわけではなかった。アメリカのトップ大学出願には、どんな課外活動を取り組んでいたかが問われるが、当時は部活動のサッカーくらいしか語れるものがなかった。そこから必死で努力をして、出願可能なレベルになるに至った。しかし、いざ出願となった時に、またしても違和感を抱いた。これといった学びたい分野がなかったからだ。

「私は、アイデアを考えることが得意で、高校生向けのビジネスコンテストの世界大会で3位になったこともあります。でも、自分にはそのアイデアを実現する方法が検討もつかず、表彰式でむなしさを感じました。そこで、大学生活を通して、世界を変えるわくわくするアイデアを、ただ思い浮かべるのではなく実行できる人物になりたいと思いました。
どんな大学生活を過ごしたいかと考えた時に、椅子に座って過ごすことはやめようと思いました。椅子に座っていても実践力は身につかないと思ったからです。加えて、講義というものが苦手なんですね。たぶん耐えられずに寝てしまうと思いました。そこで、自分で動いて学べる大学がないかと探すようになりました。そうして出会ったのがミネルバ大学でした」

ミネルバ大学は、特定のキャンパスを持たず、世界7ヶ国を4年間で回りながら学ぶ異色の大学だ。世界40ヶ国から集まる学生たちが、実践型の学びを繰り広げている。
出願は完全オンラインで無料。SATやエッセイといったアメリカのトップ大学に一般的な試験もなく、その人のありのままを見る、対策ができない入試が特徴だ。
学校の成績と大学独自の思考力テスト、そして時間無制限の記述試験。そこでは、「あなたが過去4年間の生活で誇りに思う活動について説明してください」と問われる。どのようにして、周囲を巻き込みインパクトを与えることができる学生なのかが試される。

「大学生活は、1秒たりとも飽きがない生活でした。世界中から集まる仲間たちと寝食を共にし、毎日新しい発見があるジェットコースターのような生活でした。私は、人はどんな環境や体験で変わるのかというテーマを学びました。2年目からはコンピューターサイエンスやデータサイエンスを学び、その後経営学を専攻してマーケティングなどを学ぶようになりました。それに加えて、個人的に映像制作にはまり、ユーチューバーとしての活動を始めました」

各国から集まった仲間たち

当初、世界中にあるわくわくを中高生に届けたいと思いユーチューバーをしていたという梅澤さん。大学3年生になった頃、X(旧twitter)で、多くの中高生が海外進学を目指していることに気づいた。そこで初心に返ったという。

「こんなにも海外進学を目指している中高生がいるのかと驚きました。一方で、様々な理由で夢を断念している中高生も少なくないことを知りました。自分にできることってあるんじゃないかって思いました。そこで、発信するコンテンツを、海外進学を目指す中高生向けのものに一気に変更しました。正直、どれくらい役に立つかわかりませんでしたが、イベント等で出会った中高生から、私の発信がきっかけで頑張れるようになったという声を聞くようになり、やってよかったと思いました」

インフルエンサーとして活動し、100人以上の中高生と話す中で、中高生から共通のキーワードとして出てきたのが「孤独」だった。
海外進学という選択はまだまだマイノリティだ。学校で自分しか目指している人がいない、もし進学したらその地域で初めて、そんなケースも決して珍しくない。梅澤さん自身も、海外進学を目指すことは孤独な戦いだった。学校では毎日自分に関係のない国内大学進学の勉強をする。友人にも先生にも理解されない中で、帰宅後、孤独な勉強。そんな放課後に、1クリックで全国にいる海外進学を目指す仲間と出会い、情報交換をし、切磋琢磨できたらどんなにいいだろうかと思った。

梅澤さんが設立したオンラインコミュニティ「52Hz」

「オンラインコミュニティを作ろうと思ったのは2022年の春頃でした。そこから約1年、大学の卒業制作という位置づけで、中高生50人と現役海外大学生10人を集めて、当事者の声を聞きながら一緒に準備をしました。特に重視したポイントは、海外進学に興味を持ち始めた人、まだ本気で目指しているわけではない人でも簡単にアクセスでき、心理的安全性が高い場です。これまで、本気で海外進学を目指している人のための場はありました。しかし、門戸が狭く、本気の人しかいないので、興味を持ち始めた人にはハードルが高かったです。でも、本当に居場所が必要なのは、興味を持ち始めた人だと思います。先生からの否定、家族や友人の無理解、情報不足などを孤独な中で乗り越えるのはなかなか難しい。これまで興味を持ち始めた人にとっては、X(旧twitter)が情報収集の場でしたが、心理的安全性は全く担保されておらず助け合いにはならない。そこにアプローチしたのはこのコミュニティです」

中高生が主役となってコミュニティを運営していることもポイントだ。これまでのコミュニティは、海外大生や大人が場を提供していることがほとんどだった。中高生どうしの学び合いをキーワードに活動している。現在申込は300名を超え、入会面談が追いついていないほど。その勢いはとどまるところを知らない。

「52Hzは、日本の教育を変えるアンチテーゼ的な存在だと感じています。海外進学に限らず、中高生が何か面白いことをしたいと思った時にできる場になればいいと思っています。すでに、大学や企業とのコラボや、模擬国連を目指す中高生がグループを作って活動を始めるなど、新たな展開を見せています。あくまで海外進学はタッチポイントで、学校や地元ではできない面白いことができる学外の学び場になればと思っています」

コミュニティメンバーとのミーティングで

52Hzのこれからは誰にもわからないと梅澤さんは語った。梅澤さんは設立者であるが、運営は中高生が主役だ。今後の展望も、あくまで梅澤さんの一意見。中高生が決めていく。そこが不確定要素であり、醍醐味でもある。これからの52Hzと中高生たちの展開が楽しみである。

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