女子サッカー「プレナスなでしこリーグ1部」ASハリマアルビオンのFW千葉園子選手。2017年から2018年にかけてなでしこジャパンに選出され、日本代表歴(5試合出場)をもつ。所属クラブのASハリマには2012年の創設時から在籍。主将も務めた昨シーズンは同リーグ得点王にも輝き、リーグ選出の敢闘賞とベストイレブンにも選出され、個人三冠を獲得した。

得点王、敢闘賞のトロフィーをそれぞれ元女子サッカー日本代表FW大野忍氏(左)、元男子サッカー日本代表MF北澤豪氏(右)より授与される千葉園子選手。(2022なでしこリーグ表彰式より)

「産みの苦しみ」から優勝ペースの快進撃

千葉選手が所属するASハリマは昨季、クラブ初の女性指揮官となる小野鈴香監督を招聘。開幕7戦未勝利(3分4敗)と苦しむも、第8節で待望の初勝利を挙げると、以降の15戦を13勝1分1敗。優勝ペースの快進撃を見せ、クラブ史上最長の9連勝と過去最高の3位でシーズンを締め括った。

昨季最終節終了直後、会場に得点王獲得の知らせが届いてチームメイトから祝福される千葉園子選手(中央、2022年10月)

躍進の原動力は、リーグ最多タイの46得点を挙げた攻撃力。得点王に輝いた千葉選手ら攻撃陣に注目が集まりがちだが、千葉選手自身は「チームコンセプトである全員攻撃、全員守備が浸透した成果」だと捉えている。

「小野監督は選手たちに“自分(たち)で気付く”ようにアプローチしてくれます。もちろん、チームとしての約束事はあるのですが、選手たち主体で課題が改善されていくので、勝てない時期でも終始ポジティブな雰囲気で過ごせていました」

選手たちが主体的にプレーするチームを作る、小野鈴香監督(2022年10月)

14ゴールを挙げた千葉選手や共に8ゴールを挙げたFW新堀華波選手(スフィーダ世田谷へ移籍)、MF葛馬史奈選手らが“実質4トップ”で攻めまくるサッカーは、リスクを冒して攻撃的にプレーする守備陣や中盤の選手たちの献身があってこそ成立する。

逆に、相手ボール時には守備陣が適切なポジションに戻るための時間を攻撃陣が稼ぎ、危険なスペースを埋める。自らがボール奪取の起点になるなど、守備のスイッチを攻撃陣が入れる姿に、チーム全員が攻守で連動できているのが見てとれる。

「プレーに幅が出たことが収穫」と話す千葉選手、自ら攻撃の起点となりスルーパスを出す。(2022年10月)

「私自身は点取り屋タイプでもないので、ゴールを量産できた理由は分かりません。ただ、もともと相手の裏に抜ける動きが得意だったのですが、以前はそのワンパターンになりがちでした。それが今では相手のマークを背負ってボールをキープしたり、パスを繋いだりといったプレーを増やすことで、相手に的を絞らせないようになって来た実感があります。チームのためにと考えた結果、自分のプレーの幅が広がったと思います」

野性的で独創的なプレースタイル

2016年6月2日に行われた国際親善試合、対アメリカ戦(@アメリカ/コマース・シティ)。この日代表デビューとなった千葉選手は、身体能力の高い世界女王アメリカ代表選手と対峙しても一切当たり負けせず、懐の深いボールキープで攻撃の起点となった。トレードマークのお団子頭で攻守に渡って縦横無尽に走り回り、強烈なインパクトを放った。

大阪市住吉区出身の千葉選手は、2002年の日韓ワールドカップを観てサッカーを始めた。地元セレッソ大阪のエースだった森島寛晃さん(現C大阪代表取締役社長)に憧れ、森島さんのように全力でガムシャラに走り回る姿が、彼女のサッカーの原点だ。

ガムシャラに全力でボールを追う千葉園子選手。(2017年9月)

小学校時代はミニバスケットボールや野球、木登りなどを通して運動能力を上げた。毎年行われるスポーツテストのあらゆる種目で男女通じて1番をとる“活発な女の子”だったそうだが、中学に進学すると男子との差が顕著になった。

それでも、通学していた中学校のサッカー部へ女子で初めて入部を許可され、並行して関西女子サッカーリーグに所属する社会人チーム「大阪市レディースフットボールクラブ」でもプレー。大阪市レディースの練習グラウンドへは「今はもう絶対無理」と笑うが、自転車で片道1時間以上かけて通っていた。

中学校のサッカー部で男子に交じってプレーすることで、「スピードやフィジカルの差を埋めるために、プレーの判断を早くすること」を意識し、社会人リーグでプレーする際にそれを生かした。これらの経験を経て、現在の野性的で独創的なプレースタイルを身につけるに至ったのだ。

度重なる怪我と困難を乗り越えて迎えるW杯イヤー

彼女は度重なる困難を乗り越えて来たからこそ、現在がある。

兵庫県の名門・日ノ本学園高等学校に進学した頃から怪我が増え、日ノ本短期大学在学中には「一命を取り留めた」とも言える交通事故にも遭遇して入院生活を余儀なくされた。

直近では2018年の夏に前十字靭帯断裂と半月板損傷を経験し、膝の手術を決断。長年苦しんできた脱臼癖のあった両肩の手術にも踏み切った。短期間に3度の手術を行い、完治までにかかる期間はそれぞれ8か月と診断されるほどだった。

また、以前はフルタイムで物流倉庫の作業員として肉体労働を伴う環境で勤務していたこともある。現在は白衣を着て水質を分析する職場へと変わり、勤務も午前中のみ。体への負担はかなり軽減されているが、毎年のシーズンイン時のキャンプにはクラブのフィジカルケア休暇を充てて向かう。

「一つのことを何年も何十年もやり続けることは決して簡単な事ではありません。自分が好きなサッカーをさせてもらえる環境を頂ける。辛かったはずのリハビリ期間には、私のプレーを見ていて『楽しい』、『勇気が出る』、『また観たい』と思ってくださる方が多くいることにも気付き、嬉しさすら感じました。気持ちに余裕がない時に助けてくれた暖かいチームメイトやスタッフ関係者、皆さんのおかげで今のわたしがあると思っています。
現在の雇用先である株式会社アメロイドの皆さんからもいつも応援して頂いています。それも会社に貢献するために頑張らなければならないというプレッシャーではなく、『頑張りたい!結果を残したい!』というポジティブな気持ちが湧いてくるように過ごさせてもらっています。
私はサッカーを通して人間として大切なことを多く学ぶことができています。今後はそれらを還元していきたいとも考えています!」

得点王ぶりが健在、ゴール前で相手のマークを巧みに外す千葉園子選手(2022年10月)

2023年は7月から8月にかけて、FIFA女子W杯(オーストラリアとニュージーランドの共催)が開催される。代表から離れて久しい千葉選手だが、FWは調子の良さ次第で招集の可能性がある。千葉選手がW杯イヤーをどのようにこれから過ごしていくことになるのか、注目だ。

今季のなでしこリーグ1部は3月18日(土曜)に開幕を迎える。千葉選手を擁するASハリマは、本拠地の兵庫県姫路市にあるウインク陸上競技場に、ニッパツ横浜FCシーガルズを迎える。

2023年シーズンは3月18日に開幕!

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