「祖父の代に植木屋として始まり父に受け継がれた会社ですが、2年前まではまさか自分が継ぐとは思ってもいませんでした」と話す末澤さん。公共施設の植栽や一般家庭の造園を手がける会社、末澤緑地の3代目社長です。末澤緑地の創業は1929年。もうすぐ100年を迎える老舗を継いだ末澤さんは、この春、新たなチャレンジをスタートさせます。

45歳で離婚、そして社長就任

元々家業を手伝うつもりで東京農業大学に進学した末澤さん。そこで出会った男性と結婚し、その相手が3代目となる予定で実家に戻り、修業を重ねていました。末澤さんも大学で得た専門知識や資格を生かして家業を手伝っていましたが、あくまで社長を継ぐのは当時の夫だと思っていたと言います。

「ところがいろいろあって、父が社長を退く直前に離婚することになったんです。そうなるともう継ぐのは私しかいない。離婚から1週間後に社長就任です。まさかこんなことになるなんて想像もしていませんでした」

3月21日のオープンに向けて整備中のコミュニティガーデン「THE PARK」

緑を介してみんなが集まる場所を

そんな末澤さんが今進めているのが、イングリッシュガーデンや観葉植物専門店を備えた施設「THE PARK」。会社に隣接する広い敷地と温室ハウスを買い取って、たくさんの人が集まるコミュニティガーデンを作ろうとしています。

大きな温室には各地から集められたたくさんの観葉植物が並んでいます

「THE PARKのオープンは3月21日ですが、昨年秋に試験的にここでイベントをしたんです。フードトラックに何台か来てもらって、もちろん植物も買えるようにして。そうしたら予想以上のお客さんが来られて、フードトラックの料理も午前中で売り切れるほどでした。お年寄りも、子育て世代の方も、カップルも。いろんな世代の人が集まって楽しそうにしていて、こういうことをやりたかったんだなと実感しました」

整備中のイングリッシュガーデン

「ポンコツ社長だから、職人が支えてくれる」

そんな末澤さんですが、社長就任後は不安だらけだったと言います。

「父は自ら現場に出て体を動かすし、職人さんにも指示をする、いわゆる昔ながらの親方スタイルの社長でした。職人は父が指示を出した通りに動くという感じでしたね。でも私は、一級造園施工管理技士の資格は持っていても、実際に自分でユンボに乗ったり木を植えたりするわけじゃない。だから最初はみんなも戸惑ったと思いますよ。こんな社長で大丈夫かって」

「みんなが支えてくれたおかげ。本当に職人が宝なんです」と末澤さん

「でも社長がポンコツだと、『自分がしっかりしなきゃ』と思うんでしょうね。今までは父に言われた通りやっていた職人さんたちも、自分でどうすればいいか考えて動いてくれるようになりました。人間ってある程度の年齢になったらもう変われないっていうじゃないですか。でもみんな変わってくれたんです。そのおかげでなんとかやってこれた。本当にみんなには感謝しています」

ガーデンの中央にはシンボルツリーのマロニエ。そのほかたくさんの植物が季節ごとにさまざまな表情を見せてくれます

イングリッシュガーデンのほか、観葉植物や花苗、ガーデン雑貨などを扱う園芸ショップを備えたTHE PARK。マルシェなど多目的に使える屋外のイベントスペース、さらにはリース作りなどのワークショップができる屋内スペースも整備されています。

「造園業って苗や木をずっとお世話しないといけないから、水やりとか花がら摘みとかの地味な作業が結構あるんです。そういうのを近所のおじいちゃんおばあちゃんにパートでやってもらったりして、地域の高齢者が働ける場にもなったらいいなと思っています。緑を中心に人が集まって交流が生まれる、世代を超えて一緒に楽しい時間が過ごせる場所にしていきたいですね」

この記事の写真一覧はこちら