全国の高校生が観光旅行のプランを競う「観光甲子園2022」で、徳島県立池田高校探究科のチームが「SDGs修学旅行部門」で優勝した。参加457チームのトップに選ばれたのは、3年生の郷田聖奈さん、樋口寛大さん、上谷捗七さんのチーム。日本3大秘境のひとつ祖谷を舞台に多くの体験を盛り込んだプランが、審査員の心をつかんだ。

「失敗から、やるべきことが見えてくる」

優勝したのは、「四国まんなかガチ秘境物語」。2泊3日で、秘境・祖谷のブッシュクラフト(野外料理)や清流・吉野川のラフティング、地元の素材を使ったお土産作りなどが体験できる。池田高校がある同県三好市の魅力を詰め込んだ。

吉野川でラフティングを体験したメンバー。プランにも組み込んだ(提供)

SDGs(国連の持続可能な開発計画)を意識して、三好市の「持続可能な暮らし」を体験することで、「そんな暮らしをしたい」と実感してもらうことを狙った。ブッシュクラフトでは、世界農業遺産に登録されている傾斜地農法に触れる場面もある。実際に野菜を収穫して、そのまま野外料理に使うという。

3人は「観光に興味がある」という共通項があり、1年生の時にチーム「観光班」を結成。優勝プランは2年半かけてまとめた。受験のある3年生が観光甲子園に応募するケースは少ない。2年生の時に決勝まで残れなかった悔しさをバネに、内容をブラッシュアップして優勝をつかんだ。

「失敗から、やるべきことが見えてくる」。3人が探究活動で見つけた学びのひとつだ。企画やアイデアを出すことが得意な樋口さんを中心に、30以上のアイデアを出し合ったが、多くは失敗や挫折体験になったという。

地元特産品のシイタケを使ったイヤリングは、祖谷という地名にちなんでいる。ストラップや置物を作る選択肢も準備した(提供)

印象に残っているのは、地元の特産品シイタケをアクセサリーに加工する「お土産作り体験」のアイデア。「祖谷(いや)だからイヤリングを作ってほしくて」と樋口さん。シイタケ農家やアクセサリー作家から話を聞いて、実現を模索した。しかし、「イヤリングにするには、シイタケは大きすぎる」ことが、キーホルダーを試作した時などに分かった。

捨てる神あれば、拾う神あり。サイズが合わないことを農家に相談したら、「小さな原木シイタケがある」と分かった。しかも、通常は捨てられるシイタケを活用できるという。お土産作りに、SDGsの12番「つくる責任、つかう責任」などが反映できた。郷田さんは、「『できない』が『できる』に変わった体験になりました」と話す。

お土産作りなどの体験は、大学生を対象にモニターツアーを実施。その結果、シイタケ農家の思いや三好市のシイタケの良さが伝わる場面がなかったことに気づき、参加者が材料を調達する方法に修正したという。

協力者100人以上と重ねた対話

「思い込みで物事を進めると危険」という学びもあった。そこで役立ったのは、地域の人との対話。100人以上の協力を得て、数えきれないほど対話を重ねた。ラフティングなどのアクティビティをチームで体験しておくことも忘れなかった。

「地域のために頑張りよるね。おばちゃんも頑張るわ」。何気なく声をかけてくれた町の人の顔が浮かぶ。上谷さんは「声をかけてもらえて、学ぶ意欲が高まりました」と振り返った。

非常勤講師として3人をサポートした井上琢斗さんは、チームワークの良さを勝因にあげた。郷田さんは、リーダーとしてまとめる力を発揮。樋口さんは、動画のナレーションなどアウトプットで活躍。上谷さんは、慎重な視点から検討する役割を担った。

観光甲子園で優勝した池田高校のメンバー3人(前列)と非常勤講師の井上琢斗さん

樋口さんは「前回は地域の魅力を押し付けるような内容だったけれど、今回は受け手がどう思うかを大事にしました」と話す。郷田さんは「旅行者の物語を作ってもらうのはもちろん、地域の人の物語にもなってほしい」と願う。上谷さんは「自分たちが楽しんでいる姿を意識しました」と語った。

「大人が高校生から学んでいる」

観光甲子園は、一般社団法人ネクスト・ツーリズム主催で2019年度から開催。企画書10枚による審査で5チームが選ばれ、2月5日に決勝があった。決勝では5分間の紹介動画を披露した。「同じ内容でも、伝え方でまったく違うものになる」と考えた3人は、オリジナルのBGMと映像を準備。審査では、動画や企画書の編集力も評価された。


観光甲子園の統括プロデューサー、江藤さん(右)から表彰状を受け取るリーダーの郷田さん

審査員代表の江藤誠晃さん(統括プロデューサー)は2月27日、表彰式のため池田高校を訪問した。

「観光甲子園では、もはや大人の方が、全国の高校生から地域について学ぶという逆転現象が起きています。みなさんは探究力が素晴らしかった。地元の人と向き合いながら、年々成長していったことを感じました。優勝プランの旅を体験してみたいと思う人が、全国に必ずいると思います」

表彰式のために池田高校を訪れた観光甲子園の統括プロデューサー、江藤誠晃さん

池田高校は2012年度に探究科を新設し、生徒が学校外で活動したり、社会人が学びに参加しやすい環境がある。優勝した3人の他にも、観光甲子園の「空飛ぶクルマ部門」で2年生が決勝5チームに残るなど、生徒たちはそれぞれの探究を楽しんでいる。

まず行動する大切さを高校生が実践してくれた。優勝した3人の合言葉は「三好市は最高だ」。

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