澤田真吾(さわだしんご)さんは、「音」にまつわる仕事、サウンドデザイナー&サウンドエンジニアを職業としている。現在制作しているのが、音そのものを知覚しづらい身体感覚の人(いわゆる聴覚障害者)に「音」を目で知覚するプロダクト。プロトタイプはすでに完成している。

“音が目でわかる”プロダクトへの思い

「世の中は、音が聞こえる人たちに合わせてデザインされています。音が聞こえない人にとっては、あらゆる場所で齟齬が生まれやすい状態です。僕はその音のない世界を想像したいと思いました。音がある・ない状態を双方とも知っていきながら、コミュニケーションしてみたいと思ったんです。そして“音が目でわかる”プロダクトの着想と実現までいきました」

開発途中のプロトタイプ。澤田さんには音が空間上に見えている。なお、本写真のプロトタイプは失敗作だそう。

澤田さんは、「人が発する声」、「楽器音」、「スマホの音」など、様々な音の視覚化に成功。
音響の大きさの変化にもこだわっている。
それは、どんな音がどんな音量で出てくるのか、目でわかるように工夫されたプロダクトだ。

ろう者にもプロトタイプを体験してもらって、「音がわかるって、こんなに楽しいんですね!」などと満足の声も届いている。

何気なくする“音を聞く”仕組みの再確認から

「“音が目でわかる”プロダクトは、まず人が“きこえる”一連のプロセスを改めて洗い出しました」と、話してくれた。

澤田さんによると、音の本質は、空気などの振動。空気の分子が動くことによって、エネルギーが伝わり、鼓膜をふるわすというイメージだ。しかし人が“音を聞く”仕組みは、単純に、空気の振動だけを再現すれば良いのではなく、内耳や脳で起こっていることも再現してあげる必要があるのだという。

「人は、自分の身体や脳というフィルターを通した上で、最終的に音を知覚しています。ぶっちゃけて言えば、妄想みたいなものかもしれません。そう考えると、僕たちは何をお互い伝え合いたいのか、それも妄想だと思うと、面白いですよね」

澤田さんは、愉快に微笑み、こう続けた。

「考えようによっては“妄想かよ!”とツッコんだり面白おかしく考え続けたり…音に関わりながらも、いろいろ見方を変えつつ探求していました。そうしたら“音を感知しづらい人でもわかるテクノロジーができるのでは”とある日思いつきました」

時間をかけて試行錯誤し、40歳の時、”音が目でわかる”プロダクトに本格的に取り組むために大学院に入学。そこから縁があり、プロダクトはどんどん磨かれているという。

みんなで幸せになる未来の一歩

澤田さんは、地図を認識しづらい人に対してのプロダクト開発にCPO(最高製品責任者)としても従事している。
プロダクト名は、「LOOVIC」。音と振動で、移動を支援するテクノロジーだ。音や振動を調整することに大きく携わっているという。

首にかけられているのが、LOOVIC(ルービック)

「移動の支援を必要としている人たちの見た目は、普通の人と一緒なので、場合によっては障害者という認定を受けられない、いわゆるグレーゾーンという方々もいます。一人で目的地まで行けないということは、大人になっても、一人で職場に行けない、一人で新しい場所に行けない、転じて、社会人としてまともな生活が送れない、という問題があるにも関わらず、障害者としても認めてもらえない、という課題をはらんでいます」

「聴覚障害者も一目見ただけでは判別できず、それゆえに見えない障害者だと感じます。そのわかりにくさが二重の障壁になっているなとは思います。僕は、音に関わる仕事をしていることから音のない世界で生まれて育っていくとどうなるのか、とかイメージすることが多かったんです」

インタビュー後の写真

“音が目でわかる”ことに取り組むことは、音そのものを知覚しづらい身体感覚の人だけでなく、一人一人の人間に備わっている身体の新しい可能性に気付くことだと考えている。

「その可能性に気付くことは、みんなで幸せになる未来の一歩だと信じています」

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